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ペドリはサッカー界の未来である――その特異な才能を紐解く

2021.02.13

ピッチ上ではなかなかパフォーマンスが上がらず、ピッチ外でも苦しい財政事情が明るみとなるなどポジティブな話題の少なかったシーズン前半のバルセロナ。そんな中で数少ない希望となったのが、新戦力ペドリの存在だ。名門バルセロナで確固たる地位を築きつつある18歳の類稀なパフォーマンスの秘密を詳らかにする。

 「クーマンが率いるバルセロナは斜陽だ」という内容の記事を書いたのが昨年末だった。ところが、完全に立ち直ったというにはいまだ遠く及ばない状態であるものの、年が明けてから先日のコパ・デルレイ準決勝でセビージャとの第1レグに敗れるまで11試合負けなしと、かなりパフォーマンスや結果としては復調気味である。確かに失点や引き分けの多さは目につくが、シーズン前半の不安定なパフォーマンスを考えればそれでも改善は見られると言っていいだろう。

 とはいえ、このバルセロナの復調は戦術的ブレイクスルーやクーマンのマネージメントによってもたらされたものには残念ながら見えない。戦い方の基本は執筆した当時と変わっていないからだ。変わったのは今回のテーマであるペドリが完全にスタメンに定着し、基本布陣がブスケッツをアンカー、フレンキー・デ・ヨンクとペドリをインテリオールとする[4-3-3]となったことくらいである。

 このペドリという18歳の若者が、ほとんど個人の力でバルセロナを復調させただけでも驚異的だが、そのプレースタイルは「これからのサッカー」、すなわち前回のユベントスの記事で触れた「ポストモダン」を予感させるものなのだ。

中央でプレーする難しさ

 ここ最近私が執筆した記事で繰り返し述べているように、守備戦術の発達によってかえってゲームメイカーの属人性は再脚光を浴びつつある。逆に言えば、それほどまでに現代のゲームメイカーに求められるセンスは高度化している。1本のパスを受ける時の立ち位置、受けた後のボールの体の向きやボールの置き方、次の1本のパスを出す時の駆け引き、テンポといった非常に細かい要素が、その後の展開を良くも悪くも大きく変えてしまう。複雑系においては小さい変化や小さな秩序が時間の経過とともにダイナミクスに大きな影響を与えるのだ。さらに、サイドよりも中央の方がその影響の大きさは計り知れないものになる。ボールの置きどころや予測される攻撃の方向が少し変わっただけで、守備者は目線を動かされる上に、相対的に大きくポジションを修正しなければならないからだ。

 近年ではマンチェスター・シティなどのように、SBかウイング(SG)のどちらかの選手がピッチの中央でのタスクをインサイドハーフ(IH)とシェアすることで彼らの負担を軽減するやり方が出てきた。しかしインテリオール、すなわちIHというポジションの“老舗”であるバルセロナはSBとWGも基本的にはサイドに大きく張り出し、ピッチのスペースを極限まで広くした上でIH(+アンカー)の能力を極限まで引き出すのが伝統的な戦い方である。明確な例外であるメッシを除けば基本的にはバルセロナはこの伝統を守っているが、シャビもイニエスタもいない現状ではむしろIHの負担ばかりが大きくなってしまっていた。

 フレンキー・デ・ヨンクは疑いようのないグッドプレイヤーだが、ゲームの流れを見渡し、あるいは自らその流れを作り出すような大局観を持つタイプではなく、セルヒオ・ブスケッツもそれは同様だ。アルトゥールを財政難から放出し、ピャニッチが適応に苦しんでいることで中盤の“もう1枚”の人選に苦しんでいたバルセロナだが、ラス・パルマスからやってきた18歳の少年が起用され始めると瞬く間にその椅子に座るにふさわしいクオリティを見せつけた。ペドリも純粋なゲームメイカータイプではないが、その多彩な才能をもってシャビに対するイニエスタのように、フレンキー・デ・ヨンクとの補完性からバルセロナの中盤に創造性と安定感をもたらした。

ペドリの才能は何が特異か

 ペドリのプレイヤーとしての特異性を列挙するとすれば、以下のようなものだろう。……

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バルセロナペドリ

Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd

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