プレミアに火をつけた「新戦力」トップ5!
書籍化記念 ヘンリー・ウィンターの蔵出しコラム(4)
英国の高級紙『デイリー・テレグラフ』の花形記者ヘンリー・ウィンター氏が、イングランドサッカー界の日常と激戦の記憶をたどる本誌の人気コラム「A Moment in Time あの日のオールドシアター」が、2007年12月の連載スタートから6年、『フットボールのない週末なんて』として一冊の本になりました。
1月31日の発売に合わせ、惜しくも書籍に収録できなかった過去の本誌掲載コラムを5回にわたってお届けします。第4回は、プレミアリーグ史と筆者の脳裏に刻まれる、外国人“助っ人”5名を選出した「2010年9月29日発売号」掲載分を。
そんな外国人スターに、私は魅了された…
1992年にプレミアリーグに生まれ変わったイングランドのトップリーグには、その後、数々のスター選手が海を越えてやって来た。しかし、初見参でエリック・カントナほどのインパクトを残した者はいない。このフランス人よりも多くのゴールを決めたFWはいるが、プレミアの導火線に火をつけたと言える選手は、“ムッシュ・カントナ”をおいて他に挙げられないはずだ。
ミッキー・ローク+ジョージ・クルーニー
カントナは92年2月にドーバー海峡を渡ったが、プレミア初年度に当たる92-93シーズンにリーズ・ユナイテッドからマンチェスター・ユナイテッドに移籍した。彼が発散するイマジネーションとカリスマは、チームが「初代王者」として手にした優勝トロフィーをひと際輝かせた。プレミアをハリウッドの映画作品にたとえれば、その主役にジョージ・クルーニーばりの甘い香りとミッキー・ロークばりの危険な香りを振りまくスターを獲得したようなものだ。
カントナの話題性は、プレミア2年目以降も薄れることはなかった。95年1月には、クリスタルパレスのサポーターに“カンフー・キック”を見舞うという、悪名高きシーンを演じている。「カモメはイワシが海中に投げ込まれるのを期待してトロール船に寄ってくる」という、リーグ史に残る謎めいたセリフを口にしたのもその年だった。
“スタージャンプ”で一世風靡
ユナイテッドのプレミア初優勝は、カントナによるところが大きいと認められている。だが、その陰で無失点試合を重ねたピーター・シュマイケルの存在を忘れてはならない。
ユナイテッドに移籍したのは91年だが、巨漢のデンマーク人GKは続くプレミア初年度にさっそく、のちに「リーグ史上最高の守護神」と呼ばれることになる実力を示した。筆者の独断と偏見ではあるが、カントナに次ぐプレミアリーグ「ベスト新戦力」歴代2位の座は彼のものだ。10代の頃にハンドボールのGKとしても鳴らしたシュマイケルが、ボックス内に進入した敵の目の前で両手と両足を大きく広げる“スタージャンプ”は、幾多のシュートブロックでチームにポイントをもたらすとともに一世を風靡した。
シュマイケルは、驚くほど負けん気の強い選手でもあった。ケガであれ、出場停止であれ、ゴールマウスの定位置を他人に譲ることを異常なまでに嫌った。94年の欧州カップ戦における出来事は、いまだに忘れられない。
アレックス・ファーガソン監督は、アウェイのCLバルセロナ戦でシュマイケルをメンバーから外した。UEFAが定めた外国人制限に対応するための、止むを得ない決断だった。しかし、誇り高き守護神にとっては屈辱以外の何物でもない。筆者がスタジアムのメディア用ラウンジに入ると、シュマイケルがコーヒーをすすっていた。「間違えて控え室のドアを開けてしまったのかと思いましたよ」と冗談まじりに声をかけたのが大きな間違い。怒り心頭の表情でにらみ付けられたのだった。
ロンドンに降り立った名ストライカー
歴代3位には、ディディエ・ドログバを挙げたい。ドログバの名は、2004年夏のチェルシー入り以前からイングランドでも知られていた。同年5月のUEFAカップ準決勝でニューカッスルを2-0で下したマルセイユのエースが、このコートジボワール人FWだったからだ。第2レグで2ゴールを挙げたドログバは、試合後に半裸で報道陣の前に現れて“シャンパン・シャワー”を浴びせた。おかげで、ベタベタのキーボードを叩きながらニューカッスルの敗戦レポートをしたためる羽目になった。
ドログバのパワーとスピードは、プレミアで即戦力になると思わせた。それだけに、移籍当初の不甲斐なさは逆の意味でインパクトがあったと言えよう。“ダイブ”(シミュレーション)癖で、チェルシーファンからも非難を浴びたのだ。もちろん、その後には「プレミア最強」のストライカーとして認識されるに至っている。
同業者からの尊敬と言えば、ティエリ・アンリだ。99-00シーズンにアーセナル入りした元ウインガーは、プレミア1年目にストライカーとして公式戦26得点。その軽やかなステップ、驚異的な加速、そしてピッチ上での笑顔は、相手チームも認めるプレミアの魅力となった。03年から2年連続で、選手協会による年間最優秀選手に選ばれていることがその証拠だ。南アフリカW杯予選のプレーオフで、「手」を使ってアイルランドを葬ってさえいなければ、歴代4位よりも上にランクインさせたい心境だ。
どこまでも愛すべきテクニシャン
最後になってしまったが、ジャンフランコ・ゾラをしのぐ「好感度」を与えた新戦力はいない。96年11月にチェルシーへやって来た小さなテクニシャンは、対戦相手のサポーターでさえ拍手を惜しまない選手だった。02年1月のFAカップ、ノリッジ戦で足下に届いたCKをバックヒールで放り込んだ得点は、イングランドサッカー界の歴史に残るゴールとして記憶されている。ダーティーなプレーとは無縁で、サッカーの喜びを体一杯に表現するイタリア人は、瞬く間にプレミアの人気者となった。
1度だけ、ゾラが恐縮しながらインタビューを手短に切り上げたことがある。理由は「ピアノのレッスン」。どこまでも愛すべき、ベスト新戦力歴代5位である。
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Translation: Shinobu Yamanaka