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【登里享平 独占インタビュー】フロンターレらしさの継承者として

2021.01.29

2020年シーズン、史上最速でJリーグ優勝を決めた川崎フロンターレ。ルーキーの三笘薫や引退した中村憲剛に注目が集まる一方で、“裏MVP”と評され、自身初のベストイレブンに選出された登里亨平。昨シーズン、J1通算200試合を達成し、30歳という節目も迎えチームの中心選手としてさらなる活躍が期待される中、新シーズンに向けた心境を聞いた。

ムードメイカーの葛藤

――多くのサポーターが心配しているケガ(左鎖骨骨折)の状況はいかがでしょうか?

 「12月19日の最終節にケガをしてから、チームドクターなど関係者のみなさんが手配してくれたおかげで(最終節から)2日後には手術することができました。負傷した直後は骨がずれていて、身体を動かすと違和感があったので早めに手術できたのは良かったです」

――キャンプは別メニュースタートになりますよね?

 「手術後1カ月が経って下半身は動かせるので、(ケガをした)肩への接触がないジョギングなどのトレーニングで様子を見つつ、骨にとって栄養のあるものを食べながらコンディションを地道に上げていければと思っています」

――まずは昨シーズンの話を聞かせてください。ケガによる天皇杯決勝の欠場は残念でしたがリーグ戦はフル稼働。そして、Jリーグベストイレブンに選出されました。

 「目標が低いと思われるかもしれないですが、シーズン前は優秀選手賞を目指していました。(中村)憲剛さんをはじめ、長くフロンターレに在籍している選手はMVPやベストイレブンを受賞していてチームへの貢献度が高い中で、自分も……という想いで掲げた目標で。けど、シーズン途中からは個人のパフォーマンスに満足感があって、目標をベストイレブンに切り替えていたので(選出は)うれしいですね」

――チームへの貢献度を測る上で意識されているデータはありますか? 以前、同じサイドバックでプレーされていた内田篤人さんに話を伺った際は“ボールタッチ数”を挙げられていました。

 「確かにビルドアップにおける貢献度を示すデータとしてボールタッチ数は意識して見ていました。昨シーズンはボールタッチやパス数で(自身のスコアが)トップの試合もあって。自分のポジションがビルドアップにおける“逃げ場”として機能している手ごたえはあったので、データとして証明されたのは感慨深かった記憶があります」

――データとしては出てこない部分ですが、昨シーズンは無観客や声援がない中での試合開催ということもあって、登里選手の“声”も評価されました。

 「応援の音で聞こえなかったのだと思うのですが、以前からチームメイトとの意思疎通のために声は積極的に出していました。精神的にも鼓舞する声かけは重要だと思っていて、前線の選手を乗せる意味でも、相手を圧倒する意味でも声の重要性は感じています」

――余談ですが、アウェイの柏レイソル戦で登里選手がボールボーイからボールを受け取った際に「ありがとう」と声をかけたことがSNSで話題になりました。

 「(ボールボーイの件は)無意識に出た言葉ではありますが、年齢的にも常に冷静でいることが求められる立場になっていますし、実際メンタル的にも余裕が出てきたのは感じています。だからこそ、いろんな方に対する感謝の気持ちもこれまで以上に持てるようになりました」

――2020年11月に30歳を迎えられ、昨シーズンはJ1通算200試合も達成されました。世間的にはムードメイカーの印象が強いと思いますが、チームリーダーの1人としての意識も持たれていますか?

 「その意識は持ちつつも、自分の(ムードメイカーとしての)キャラクターが邪魔してしまうので葛藤もあります。さじ加減が難しい。今のキャラクターを持ちつつ、後輩などの相談役もしっかり務められる使い分けができればと思っています」

――昨年の「KAWAハロー!ウィンPARTY」で登里選手が披露した“目玉おやじの仮装”が良い事例だと思いますが、ムードメイカーだからこそオフ・ザ・ピッチも含めてチームを牽引できるという側面もあるのではないでしょうか?

 「そうですね。(ムードメイカーとしての)自分のキャラクターを認識してくれているからこそ、フロントスタッフの方もいろんな企画を相談しにきてくれますし、そこに応える楽しさはあります。特にフロンターレはプレーするだけがサッカー選手ではないという考え方のクラブですし、年齢的に上の選手がそういう振る舞いを若手選手や新加入選手に見せていくことがフロンターレというクラブの歴史を紡いでいく上では重要だと考えています」

――コロナ禍でサポーターとクラブの直接的なコミュニケーションが難しい今、登里選手のそうした姿勢にクラブもサポーターも救われていると思います。

 「憲剛さんも引退された今、オフ・ザ・ピッチにおいても力をよりいっそうつけてチームを引っ張っていきたい。昨年はメディア出演などピッチ外で自分を認識してもらえることが多かったですが、今年はそこにプレーも追いついて、両方で充実したシーズンにしたいです」

2021年シーズンへの決意

――ここからは2021年シーズンについて聞かせてください。ここ2年でJリーグ、天皇杯、ルヴァンカップと国内主要タイトルを制覇されている中で、今シーズンは何をモチベーションとして挑まれるのでしょうか?

 「ACLですね。アジアチャンピオンを必ず獲りたい」

――国内では強さを証明する一方で2018年、2019年と直近のACLではグループステージで敗退。原因をどのように分析されていますか?

 「試合の状況に応じた割り切った戦い方が大事になります。そのために個々が状況を見極めて判断をする。あとは球際など戦うところですね。そこは昨シーズンから練習でも厳しく求められている部分ですし、ACLを獲りにいける状態にチームはあります」

2021シーズンに挑む最大のモチベーションとしてACLを挙げた登里

――ACLに加え、チーム数が20に増えた2021年のJ1は非常にタイトなスケジュールになります。コンディション的な不安はありませんか?

 「昨シーズンも過密日程でしたが、前線の選手が前半から強度高くプレーしてくれたおかげで、守備の選手として効率良くというか、強い負荷がかからない試合も多かったので。個人的には試合間隔が1週間空くよりも、詰まっていた方が良いコンディションを維持するサイクルを組みやすいです。今年もそこは継続させていきたいですね」

――まずはケガの回復が最優先だと思いますが、2021年シーズン開幕に向けて登里選手が考えている目標があれば教えてください。

 「数字です。つまり、ゴールやアシストの数。昨シーズン後半から新システム([4-3-3])に慣れるにつれて頭の中で崩しのポイントが整理されてきて、相手ペナルティエリア内へ侵入する回数も増えました。それをゴールに繋げることをより強く意識したいです」

――昨年ダントツでリーグ優勝したことで、対戦相手はどこも強い警戒心でフロンターレ戦に挑んでくることが予想されます。

 「昨シーズンはうまくいき過ぎた部分がありました。今シーズンは様々な対策をされるでしょうし、シーズン途中で結果が出ない時もあると思います。そういう時こそチーム内でしっかりコミュニケーションを取って、チームとして上積みを見せていかなければならない。昨年は監督や選手間で会話が多かったシーズンなので、そこは継続しつつ、向上心を持ってシーズンに挑みたいです」

――今年もコロナの影響で多くの人にとって難しい日々が続いていますが、この記事を読んでくださったサポーターのみなさんにメッセージをいただけますか?

 「この先どうなるかわかりませんが、従来のスタジアムに戻れるためにクラブとしても、個人としても何ができるのか考えながら日々を過ごしています。そして、サポーターのみなさんとの距離感はフロンターレとして大切にしている部分ですし、直接交流は難しいとしても、オンラインで昨年以上にグレードアップして楽しんでもらえるような企画をお届けしたいと思っています」

Photo: Getty Images

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川崎フロンターレ登里享平

Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

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