2020年9月27日に軍事衝突へと発展し、同11月10日に停戦合意に至ったナゴルノ・カラバフ紛争。社会的ニュースとして世界の注目を集めたが、この問題は決してサッカーファンにとっても無関係とは言えない。ナゴルノ・カラバフの歴史的経緯やこの地域の問題がサッカー界に及ぼしてきた影響を、篠崎直也さんに概説してもらった。
「ナゴルノ・カラバフ」というあまり聞き慣れない地域をめぐる紛争がサッカー界で広く知られるようになったのは、2019年のEL決勝だった。チェルシーとアーセナルの英国対決となった一戦はアゼルバイジャンの首都バクーで開催されたが、当時アーセナルに所属していたアルメニア代表MFヘンリク・ムヒタリャン(現ローマ)が「自分と家族の安全が保証されない」と渡航を拒否。ナゴルノ・カラバフの領有権をお互いに主張して対立してきたアゼルバイジャンとアルメニアの緊張状態がその発言から生々しく伝わっていた。
そして、2020年9月、くすぶっていた火種は約30年ぶりに両国間の軍事衝突に発展し、サッカー界にもその影響が広がることになってしまった。……
Profile
篠崎 直也
1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。