【月間表彰】サブスクで街を活性化!FC町田ゼルビアが取り組む新しい地域貢献の形
DAZNとパートナーメディアによって立ち上げられた「DAZN Jリーグ推進委員会」の活動の一環としてスタートした企画「月間表彰」。2020明治安田生命Jリーグで活躍した選手、チームなどを各メディアが毎月選出。フットボリスタでは「月間MIC」(Most Interesting Club)と題し、ピッチ内外で興味深い取り組みをしていたクラブを紹介する。
11月度は街を活性化させるクーポンサブスクサービス「まちパス」を開始したFC町田ゼルビアを選出。このサブスクは月額980円を払って会員になれば、町田市の対象飲食店でドリンク1杯無料提供などの特典を受けることができる。Jクラブにとってコロナ禍で試合に依存しないマネタイズが求められる中、新たな可能性を感じさせる取り組みだ。代表取締役社長の大友健寿氏と本事業を主幹する上田武蔵氏に実施経緯や現状の課題などに加え、今後クラブが想定するホームタウンとの関係性について話を聞いた。
JクラブとITベンチャー協業のモデルケースに
―「まちパス」はFC町田ゼルビアのパートナーである「株式会社favy」(飲食市場に特化したマーケティング支援会社)との協業という形を取っています。まずはこの経緯を教えてください。
上田「まずfavy様の高梨(巧)社長がサッカー好きで、すでに飲料メーカーや商業施設などの他社と(まちパスの)類似事業の実施実績があったことが大きいです。ゼルビアとしても新しい収益モデルや地域貢献への想いがあり、(高梨社長に)ご相談する中で『ゼルビアさんでもやりましょう』と言っていただきました』
――コロナ禍を受けての新しいマネタイズはJクラブの共通課題でありながら、既存業務にリソースを割かれて新規事業に取り組めないという話をよく聞きます。パートナーのサポートはクラブにとって大きいのではないでしょうか?
上田「おっしゃる通りで、クラブ内の『まちパス』担当は私だけです。favy様に参加店舗様との契約や日々の連絡など運用においてご協力いただけるからこそ実現できたサービスですね。JクラブとITベンチャー協業のモデルケースになればいいなと思っています」
――参加店舗にとって『まちパス』に参加するメリットは集客支援と会員費の一部還元です。後者におけるレベニューシェアの分配比率を教えてもらえますか?
上田「システムフィーでfavy様が25%、残りの75%を参加店舗様とクラブで折半しています。参加店舗さん内の配分率は店舗個別でお客様の入会導線となるQRコードを発行させていただいているので、そのデータを踏まえて決定しています。今後は利用頻度などのデータも含めた傾斜配分のロジックも検討中です」
――「まちパス」の対象店舗を一部訪ねてみたのですが、店内にFC町田ゼルビアのポスターが貼られているなど、実利以上に「クラブを応援したい」という動機で参加されている店舗も多いのではないかと感じました。
上田「ゼルビアが実施する事業だからということでご参加いただいている店舗様は確かに多いですね。弊社としても後援会やパートナーとしてもともと関係のあった店舗様を優先にご案内させていただいているところもあります」
――11月上旬に販売開始されてから約1カ月が過ぎました。会員数の初動はいかがでしょうか?
上田「まだまだ認知されていないので、告知の強化をファーストフェーズとして取り組むつもりです。スタジアムの大型ビジョンでCMを流したり、参加店舗様のレジ前にPOPを置かせてもらったり、莫大な広告費があるわけではないので、地道なコミュニケーションでお得なサービスがあるのを知ってもらうことが大事だと考えています」
――クラブとして目標会員数や売上などKPIは設定されていますか?
上田「会員数1万人を目標としています。そこまで増えればクラブとしての売り上げが年間で約5,000万円になって、昨年度のグッズ収入と同程度になるので」
――サブスク事業のポイントに利用者データが取得できることが挙げられます。今後想定されているデータ活用はありますか?
上田「現在もよく使われているクーポン内容などの利用データは、参加店舗様に共有して日々サービス改善に努めています。先ほどお話した通り『クラブを応援したい』という動機で参加いただいている店舗様も多いですが、ビジネスに直接貢献できるサービスにしなければなりません。今後は利用状況によって表示されるクーポンを変えるなどユーザー個々に最適化するシステムを開発する他、『まちパス』のデータをゼルビアのファンクラブ活動に連動させるなどの横展開も検討しています」
――会員が増えるほどサービスのクオリティが高まるサービスだと思いますので、多くのゼルビアサポーターに利用してもらえればいいですね。
上田「そうですね。『まちパス』を通じてお得にお食事を楽しんでもらうことが町田市を活気づけることにも繋がります。コロナ禍で飲食業界は苦しい状況ですが、このサービスを通じて少しでも町田市を元気にする貢献ができればと思っています。ご興味のある方はぜひ一度、使ってみていただけるとうれしいです」
ホームタウンは町田市だけ
――ここからは大友社長にお話を伺わせてください。「まちパス」を含め、FC町田ゼルビアは市民クラブとしてスタートした歴史もあり、地元・町田市への貢献を強く意識した活動に積極的です。そうしたホームタウン活動のコンセプトはありますか?
大友「そういうふうに言ってくださるのは大変ありがたいです。1989年にトップチームが設立され1993年に東京都1部で戦っている時からJリーグを目指すという形でスタートしているので、最初の活動コンセプトは『知ってもらうこと』でした。現在では町田市民の約95%にゼルビアを認知してもらっているというところまできているので、この先は『必要な存在』と思ってもらうための活動が重要だと考えています。地域が抱える課題に対してJリーグクラブだからこその切り口で協力をし、『町田にはゼルビアがないとダメだね』と言われるくらいの存在になりたいですね」
――東京には他にもJクラブがあり、差別化の意味でも『ホームタウンは町田』であることを強調するメリットはあります。一方で今後、クラブの事業規模を大きくしていくためにはホームタウンを拡大するという考え方もあると思うのですが、いかがでしょうか?
大友「活動範囲を東京全域まで広げて、都心の企業にも関心を持ってもらえるように魅力を発信していくことは経営的にも必要です。また、隣接する神奈川県も人口が多いので商圏として大切だと思っています。ただ、ホームタウンは町田市だけを考えています。活動の軸が町田市であることは今後も変わりません」
――町田市を大切にするクラブの理念が地域に浸透している証とも捉えられますが、「COUMZ-FC町田ゼルビア大学連携-」や町田市によるスタジアム改修への支援などステークホルダーがゼルビア「を」応援する事例も多い印象です。
大友「非常にありがたいことです。クラブのカテゴリーが上がるにつれて、みなさまのサポートもそれに応えてくれることが続いています。市民に支えていただいているわけなので恩返ししなければいけない。そうした難局をホームタウンとともに苦労しながら一緒に乗り越えてきている実感がありますし、それは町田市をホームタウンとして戦う魅力であります」
――経営面では、2018年からサイバーエージェント社のグループに入ったことは大きな変化でした。あらためて本件に関する期待や決意をお聞かせいただけますか?
大友「市民クラブとして続けてきた意地はもちろんありましたが、J1や世界を目標に掲げつつ、それに見合う経営体力があるのかという課題は正直ありましたので、グループ入りできたのはありがたいことです。今まで築き上げたゼルビアの歴史は尊重しつつ、サイバーエージェントグループだからこそ実現できる目新しい取り組みを出していければと考えています」
――組織体制としては2008年の株式会社化以来の大きな変化だと思います。昨年のサポーターミーティングで発表された「FC町田トウキョウへの改名」に対するサポーターの反発も記憶に新しいところですが、地域を大切にするクラブ理念を守り続ける上で不安はありませんか?
大友「そこはまったく心配していません。クラブが理念に沿って積み上げてきたものがあった上での今回のグループ入りです。クラブ名変更の件も町田を最優先に考えているにも関わらず、ファン、サポーターに親しみのある「ゼルビア」というチーム名を外す判断をしてしまったことでサポーターとクラブ内で見解の違いを生んでしまいましたが、藤田社長はファン、サポーターの声を理解し改名を白紙としました。サイバーエージェントから出向している上田も先ほど町田市への想いを話していましたが、我われにとってマイナスなことはありません」
――サイバーエージェント社のグループに入ったことで推進された『クラブハウス・トレーニング施設の整備』や『スタジアム改修』の進捗はいかがでしょうか? コロナ禍による影響を心配しています。
大友「クラブハウスは9月竣工の予定で、スタジアムも4月に完成するのでコロナウイルスによる当初予定からの大幅な変更はそこまでありません」
――この両施設の完成は、クラブにどのような影響を与えるとお考えですか?
大友「クラブハウスという“我が家”ができることで選手、フロントスタッフを含めたクラブの更なる一体感が生まれると思っています。今後、我われよりも予算規模の大きいクラブに勝つためにはそういう部分は大切だと思いますし、選手獲得の上でもポジティブに働くはずです。スタジアムに関しても現状は平均観客数が5,000人程度で運営していましたので、それが15,000人規模のスタジアムになることに感謝しつつ、このスタジアムを満席にするために身が引き締まる思いです」
――大きな変化が控える2021年に向けて、最後にサポーターのみなさまにメッセージをお願いします。
大友「来シーズンは長年の念願だったスタジアムとクラブハウスがそろいます。クラブもそれに見合った成長の姿をお見せしたいと思っています。様々な新しい企画を準備し、ファン、サポーターのみなさまにより楽しんでいただきながら、素晴らしい雰囲気のスタジアムで選手を迎えられるように努力していきたいと思います。ぜひスタジアムに足を運んでください!お待ちしております」
Takehisa OTOMO
大友 健寿(写真左)
2000年サラリーマンとして働きながらFC町田ゼルビアトップチームに加入、2006年NPO法人アスレチック町田に入社し、ゼルビアのJリーグ入りに向けて働き出す。営業部長、事業部長を経て2018年代表取締役社長に就任。FC町田ジュニア時代に感じた町田サッカーの誇りを胸に仕事に従事。
Musashi UEDA
上田 武蔵(写真右)
2017年4月、株式会社サイバーエージェントに新卒入社。メディア統括事業本部にて、Amebaブログの収益部門に配属。2017年10月に全社総会にて新人賞を受賞し、2018年4月入社2年目で当時同期の中で最速マネージャーへ昇格。2020年4月に初の出向社員として株式会社ゼルビアへ異動し、クラブ経営全体のサポートに従事。
Photos: Getty Images, FC MACHIDA ZELVIA
Profile
玉利 剛一
1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime