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選手目線で自分らしく。内田篤人が冠番組で伝えたいこと

2020.12.16

2020年8月に現役を引退した元日本代表DF内田篤人氏の初冠番組となる『Atsuto Uchida’s FOOTBALL TIME』。欧州各国リーグの試合から気になった日本人選手のプレーをピックアップし、独自視点で解説している。番組開始から2カ月が過ぎ、番組MCとして内田氏は何を考え、収録に臨んでいるのか。話題は番組コンセプトから日欧のメディア比較、セカンドキャリア、欧州でのコミュニケーション、日本代表とクラブの両立……と発展した。日本サッカー界トップレベルの実績を残した内田氏だからこそ発することができる言葉の数々をお届けする。

選手目線でサッカーを解説する

――『Atsuto Uchida’s FOOTBALL TIME』は10月1日(木)の番組開始から2カ月が過ぎました。#1から初の冠番組とは思えないほど自然体で話されている姿が印象的です。

 「生放送だと言えないこともありますけど、収録なので編集でなんとかなっちゃうかなと思って自由に話させてもらっています」

――番組のスタッフさんが『内田さんは番組制作側の意向を汲み取る力が高い』と話されていました。現役時代から多くのメディア対応をされていた経験が活きていますか?

 「そういう部分はあるかもしれないですね。空気を読むと言うか、番組のゴールから逆算して発言をすることはあります。けど、現役時代は記者の人が明らかに欲しい答えがわかる質問をしてくるのが嫌で、わざとその答えを言わないようにしていました(笑)」

――メディア対応や試合解説では定型文と言いますか、よく使われるフレーズが存在しますが、内田さんはそういった言い回しはあまりされません。

 「そっちを使えないんですよ。わかりやすく説明できれば言葉はなんでもいい。自分のイメージや考えを重視して話しています」

――そういう意味では、この番組は選手目線を大切にされているので内田さんのオリジナリティが今後も発揮されそうですね。

 「その視点がない解説は苦手で。上から見ていたらいくらでも言えます。だから選手の目線で、1、2秒の間にピッチの奥行きやパスコースなどが変動する中で判断する難しさを伝えたい。そのためにボードやピッチレベルのカメラ画像を使って解説させてほしいということは、番組をスタートするにあたってリクエストしました」

番組ではピッチを模したボード上にカメラを設置し、選手目線の解説が行われる

――欧州でプレーする期間が長かった内田選手から見て、日欧のサッカーメディアの違いは何ですか?

 「例えば、日本のメディアは欧州で日本人選手の出場機会が減っている時でも『頑張っています』という論調で報じます。出場機会が減っている理由として所属クラブ監督の『日本代表に参加した疲労が……』『言葉の問題が……』というコメントがよく使われているけど、『ライバルとのレギュラー争いに負けているから使えない』なんて日本メディアの前で言うわけない。実際、欧州ではボロクソに批判されていたりすることもある。そういう部分は(日本のメディアは)ちゃんと伝えた方が日本サッカーの為になるのかと思います」

――サッカー番組MCという立場になって、今度は内田選手が選手を批評する機会も増えますが、意識されることはありますか?

 「一緒にプレーしたことのある選手を番組で紹介することも多いので、批評ではなく応援というスタンスを取りたいと思っています。『ダメだったね』で終わらせるのではなく『こうやればチャンスが生まれるかも』といった後押しになることを言いたい。僕も欧州でプレーする難しさは理解しているつもりなので」

――同じDAZNのサッカー番組として先月よりスタートした『やべっちスタジアム』も内田さんのスタンスに近い“日本サッカーを応援”がコンセプトとしてあります。今後、番組間のコラボレーション企画も期待したいです。

 「先日、矢部(浩之)さんとも直接お話させていただきましたけども、コラボさせてもらえれば僕としては光栄です。地上波放送で『やべっちFC』が終了したのは日本サッカーの人気がなくなりつつある象徴でもあったと思うんです。TV番組も減って、サッカー雑誌も売れなくなって、そういう時代の流れの中、DAZNで復活したのは大きな意味がある。僕もスタッフのみなさんの力をお借りして、『やべっちFC』みたいに愛される番組に近づけるようになりたいですね」

ゲスト出演の多い日向坂46・影山優佳さんとの軽妙なやりとりも好評だ

――今後のセカンドキャリアにおいて、メディアでの経験はどのように活きると考えていますか?

 「この先、何をするかはまだ決めていませんが、もし監督をやるとなってもメディアを通じてサッカーを勉強し、何をアウトプットするのかという経験は役に立つと思います。すべてのことを糧にしないといけない。欧州でプレーした選手のセカンドキャリアとして引退後の活動が見られている意識は持っているので、変なことはできないです」

――内田さんは現役時代から、鹿島アントラーズへの恩返しの想いを強く持たれています。同クラブでのセカンドキャリアはイメージされていますか?

 「考えますよ。けど、鹿島で仕事をして失敗したらもう鹿島には戻れない。僕から何かアクションを起こすというよりも、チーム状態とか親会社の意向を踏まえつつ、タイミング良く使われどころがあれば……と、待っています」

休んでいたら、欧州でのキャリアは違った

――番組内でも欧州でプレーする上で“結果”の重要性を語られることがたびたびあります。内田さんが考えるSBにとっての結果とは何でしょうか?

 「SBは数字が出にくいポジションですけど、シャルケの時はボールタッチ数をチームが気にしていたので意識していた時もありましたね。僕は多い時で120回程度。これはかなり多くて、ボランチやCBと同じくらい。けど、一番大切なのはチームの勝利。チームが勝たないことには評価されませんから」

――結果を出すことでチームメイトの自身に対する態度はやはり変わりましたか?

 「そもそも、日本人が欧州に移籍した直後にチーム内に居場所なんてないんですよ。試合に出て、結果を出さなければ誰も助けてくれない。だけど、チームが勝って、勝利に貢献するプレーをすれば必ず評価してくれる。その積み重ねで監督やチームメイトの信頼を得ることができる。そうなれば同じポジションに補強もされなくなるし、自分のやりたいようにプレーできるようにもなります」

――ピッチ外のコミュニケーションについても伺わせてください。日本人選手が欧州クラブに馴染むためには“明るく振る舞う”ことが正攻法のように語られることが多いのですが、内田さんはどちらかというと“静”のコミュニケーションでチームに溶け込まれていました。

 「僕の性格的に、無理にコミュニケーションを取りたくなかった。試合後にチームメイトとクラブとかに行きたくない。ウッシーは日本人で、そういう人間だとわかってもらえれば変な意味ではなく距離を置いてくれました。けど、それは試合で活躍した上でのコミュニケーションですよ。結果を出せない時にコミュニケーションが原因として語られることがあるけど、それは単にサッカーの能力が足りていないだけ」

シャルケではUEFAチャンピオンズリーグベスト4など、数々の輝かしい実績を残した

――欧州で活躍するためのハードルとして「日本代表との両立」についてはいかがでしょうか? 内田さんも現役時代はコンディション調整やケガの治療法に関して、クラブとJFAで意見が相違するなどの苦労を経験されています。

 「ありましたね。『日本代表に連れて行ったら(内田選手のポジションに)選手を補強するし、もう使わない』とか『誰が給料払っていると思っているんだ。お前が払えるのか』と(当時のJFA技術委員長である)原(博実)さんは言われたそうです。けど、原さんは現地まで来てシャルケと面と向かって話をしてくれました。JFAとクラブでは時差もあるし、常に連絡を取れるように今後は欧州に(JFA)支部を作ったらいいと思うんですけどね。まあ、クラブが怒るのは理解できるので、日本代表に行った後の試合こそ活躍しないといけないという想いは持っていました」

――シャルケ1年目の監督はフェリックス・マガト氏ということで、他クラブと比較してもよりタフさが求められる環境だったのではないかと。

 「当時もそうですが、頑張って、頑張って、やり続けてきたからこそシャルケに長く在籍できて、スタメンで出場する試合数も増えた。選手の立場からストップをかけることはないです。どこかで休んでいたら、欧州でのキャリアは違ったものになっていたと思います」

――内田さんはクラブ内で「ミスターノープロブレム」と称されるほどタフな選手で、無理を押して出場した試合も多かったと思います。現役を引退した今、当時に戻れるとしても同じ選択をしますか?

 「(同じ選択を)しますね。……選手の立場からは日本代表に招集されて『行きたくない』とはやっぱり言えないですよ。誰もが行ける場所ではないですから。19歳でA代表に招集されてACLとリーグ戦を並行して戦って、北京オリンピックも全部かけ持ち。欧州に移籍する前からサッカー選手としては嬉しいことですが、正直きつい時もありました。移籍後も欧州から日本代表の試合に出場するためには移動で12時間かかるわけで、(日本代表で試合から)中1、2日でリーグ戦をプレーさせることが選手にとってプラスなのかは考えどころですよね。今後、久保(建英)選手が近い状況になると思うんですけど、似たような経験をした選手はケガが増えたり、オーバートレーニング(症候群)になったりする可能性は少なからず高まるので、自分の身体の状況をしっかりと把握して、協会とも連携を取って判断して欲しいですね」

――そういう経験をされた内田さんだからこその提言や解説を、番組で聞けることを今後も楽しみにしています。

 「今、サッカーの人気が落ちていると思うので、その流れが少しでも変わるよう役に立てればと思っています。番組を通じて自分の好きなクラブや国を見つけてほしい。そこから旅行でサッカー観戦に行くとか、現地の料理を食べるとか、よりサッカーを好きになるきっかけになれば。あと、指導者の方にも見てほしい。僕が欧州でプレーしてきた中で感じた選手目線の解説で『そういう考え方もあるよね』と思ってもらえればうれしいですね」

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Atsuto Uchida’s FOOTBALL TIME

毎週木曜日配信。内田篤人氏が欧州各国リーグの試合から気になった日本人選手のプレーを自身でピックアップし、独自の視点で解説。内田氏と親交のある海外で活躍中の現役選手とオンラインで対談し、生活面での苦労話や国外でプレーし続ける秘訣などの裏話をお届けする「Atsuto×(かける)」も。

出演者:内田篤人、野村明弘

Photo: Getty Images

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ビジネス内田篤人

Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

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