オカダ・カズチカはシティズンなのか? プロレス界を牽引する“レインメーカー”を直撃
オカダ・カズチカ(新日本プロレス)インタビュー前編
今年2月、Twitterに投稿されたある写真がサッカーファンの間で拡散された。新日本プロレスのオカダ・カズチカ選手が、マンチェスター・シティのユニフォームを着用している姿を公開したのだ。
450リツイートに4400いいね!と大反響があったこのツイートは様々な憶測を呼んだが、プロレス界にカネの雨を降らせる“レインメーカー”が本当にシティズン(シティサポーターの愛称)なのかどうかは、いまだに謎に包まれたまま。その真相を探るべく、オカダ選手本人に直撃した。
「匂わせツイート」の真相
――まずうかがいたいのは、2月にTwitter上で投稿されていたお写真についてです。マンチェスター・シティのユニフォームを着用して、東京ヴェルディの柴崎(貴広)選手、川崎フロンターレの齋藤(学)選手と一緒に映っていましたが、オカダ選手はマンチェスター・シティのファンということでよろしいですか?
「間違いないです(笑)。僕はマンチェスター・シティのファンですね。シティのユニフォームは、ロンドン大会でタイトルマッチがあった次の日にオフがあったので、売っていそうなお店を自分で調べて買いに行きました(笑)」
――シティを応援されるようになったきっかけは何でしょうか?
「Amazon Primeで『オール・オア・ナッシング(~マンチェスター・シティの進化~)』を見て、そこからもう一気にシティファンになりましたね。ずっと応援しています」
――てっきり、シティもオカダ選手のようにカネの雨を降らせているからじゃないかと勝手に想像していました(笑)。『オール・オア・ナッシング』をご覧になられて、シティのどんなところに惹かれましたか?
「まず、サッカーの魅力に気づいたというか。あのドキュメンタリーのおかげで、試合だけじゃないピッチ外の部分、体のケアだったり戦術だったりも含めて、サッカーの奥深さを知れたのは大きかったですね。あとは単純に『美しい』ところと『強い』ところ。正直、僕はパスが多いとか、支配率が高いとか、数字はよくわからないんですけど、シティはそのプレーを見た人を釘付けにできるチームですよね。あとは、(ペップ・)グアルディオラ監督のかっこよさ。スタイリッシュなシャツで指示を出している姿が絵になるというか、ああやって指導されたら選手たちもプレーに熱が入りますよね」
――シティの中で注目されている選手はいますか?
「僕は(ケビン・)デ・ブルイネ選手が好きで。ちょうど海外の試合から帰る飛行機で、ロシアW杯のベルギー対日本を見ていたんですね。当時はサッカーのことも、海外の選手のこともまったく知らなかったんですけど、試合を見た途端に『ベルギーって凄い選手ばっかじゃん!』ってわかって(笑)。(ロメル・)ルカク選手や(エデン・)アザール選手がいて、彼らを相手に互角以上の戦いを見せている日本代表は本当に凄いなと。その中でデ・ブルイネ選手が際立ったプレーを見せていて、『なんであれだけ正確にボールを蹴れるんだろう?』と印象に残っていました。その後、YouTubeで彼のパス集も見たりしていたくらいで、実際に僕もボールに触ってみたんですけど、思い通りにタッチするだけで精いっぱい。それなのに、彼はプレッシャーのある中でも精度を落とさずに正確なキックを見せていたので、あらためて驚かされましたね。ボールをバシっと蹴って、ピタリとFWに合わせられる。あのパスは本当に凄いですし、他の選手には見えないところが見えていますよね」
――プロレスラーとしてはシティをどのようにご覧になられているのでしょう? オカダ選手ご自身の動きの参考になっていたりするのでしょうか?
「僕は『つい声が出てしまうような美しい技を見せていきたい』とよく考えていますね。例えば、僕のドロップキックもあの高さでやるからこそ、お客さんに盛り上がってもらえると考えています。サッカーはそうした美しい技の連続ですよね。シティもパスをトントンと綺麗に繋いでいくじゃないですか。そこからゴールまで決めてしまって。そうやって見映えが良いだけじゃなく、ダメージも与えられる技を積極的に使うようにしていますね」
――グアルディオラ監督も単に見映えを良くするためだけにあのサッカーをしているのではなく、「ボールを保持して敵陣深くでプレーすれば、ゴールを奪われる可能性が低くなる」という勝利へのこだわりに基づいているんですよね。あと、「サッカー選手がサッカーを愛しているのは、ボールに触ることができるからだ」とも話していて、選手が楽しくプレーできるのも理由の一つのようです。
「僕も何をするにしても楽しみたいという想いはありますね。トレーニングをするにしても、遊び心を加える工夫をしています。例えばウォームアップでも、ただランニングするだけじゃ面白くないじゃないですか。だからボールを使ってドリブルしようと(笑)。でも、本当に素人なので、タッチの加減がわからなかったりするんですよ。これくらいの強さで触ればいいのかなと考えながらボールを蹴るんですけど、案外遠くにいっちゃって走って追いかけないといけなかったり。会場の席の合間を縫うようにドリブルしたら、ぶつかってつまずいてしまったこともあります(笑)。そういう楽しさってサッカーでもプロレスでも原点だったりしますから、僕たちも忘れてはいけないですよね」
オカダ・カズチカが語るサッカーの魅力
――サッカーをご覧になられていて、プロレスとの共通点を感じることはありますか?
「単純に『戦い』という共通点じゃないですか。戦う選手たちを応援してくれる人たちがいて、ダメな時にははっきりとダメって言ってくれる。ファンも負けたら怒るし、ブーイングもある。感情がしっかりと表れたりするのは、サッカーもプロレスも似ていますね。実際にサッカーとプロレスの両方を応援している方は多くて、僕もスタジアムに足を運んだ時に声をかけてもらえたりするので」
――日本のサッカーもよくご覧になられているのでしょうか?
「コロナ禍の前は、よく見に行っていました。プロレスの試合で日本各地や世界各地に行った時も、試合会場の近くでオフの日にサッカーの試合があれば、見に行こうとしていましたね。ただ、シティの試合は時間と場所が合ったことがなくて、まだ現地観戦ができていないんですよね。去年シティが来日した時も、横浜F・マリノスとの試合を見に行くつもりだったんですけど、G1の愛知大会と被ってしまって。今でも頭を抱えた記憶をはっきりと覚えています(笑)」
――逆にサッカーとプロレスで相違点を感じることはありますか?
「僕らプロレス団体は日本全国や世界各地で試合をするんですけど、サッカークラブにはホームがある。特にJリーグには『地域密着』という理念があるじゃないですか。街と街がぶつかり合う独特の雰囲気はプロレスにはないので、本当に羨ましいですよね。前に見に行った浦和レッズ対川崎フロンターレの試合でも、両サポーターの応援の熱量には驚かされましたし、プロレスとは違う家族のような一体感が面白かったです。本当にみんなで一緒に楽しめる雰囲気ですよね。イギリスでのタイトルマッチの時にユニフォーム姿で歩いている人たちを見て、本当に羨ましいと思っていましたね(笑)」
――ちなみに、なぜその試合をご覧になられたのでしょうか?
「川崎フロンターレの齋藤選手を応援するためですね(笑)。彼もプロレスが好きで、対談をさせてもらったこともあって。一緒に食事に行くこともありますね。あの写真を撮った時も、一緒にワイワイしていました(笑)。仲良くさせていただいています」
――ただ、今はコロナ禍でなかなかスポーツの応援に行きづらい状況ですよね。
「そうですね。僕としても柴崎選手だったり齋藤選手だったり、仲の良い友達や選手にも会えていない状況ですし。僕も一人の選手として応援されたいですけど、いろんなスポーツを応援しに行きたい一人のファンでもあります。みなさんが選手と直接交流できなくて悪いストレスが溜まる気持ちは僕もよくわかるので、さらにSNSやラジオでファンに情報を届けるようにしていますね。シティのユニフォームを着た姿をTwitterに上げた時も、まだコロナ禍の前でしたけど、みんなが反応してくれたので。それこそ選手にも言われましたよ。『(マンチェスター・)ユナイテッドのシャツ着なさいよ』とか(笑)。ファンからは『シティのシャツを着るなんてもう応援しない!』とか(笑)。投稿一つでそうやって話題になれたり、興味を持ってもらえるきっかけになるんですよね。特にサッカーは世界で身近な存在になっていて、僕のツイートにもいろんな国のサッカーファンが反応してくれた。僕たちプロレスも、例えば誰かがオカダのTシャツを着ているだけで『そんなシャツ着ているんじゃない』とか、『いいTシャツ着てるね』って世界を盛り上げられるスポーツにしていきたいですね」
――批判も含めて盛り上げていくということですね。
「それは良いストレスですよね。だからまた、みなさんにそういうストレスを感じてほしいなと。例えば、みんなが応援している選手を僕が倒しちゃって『オカダふざけんな』とか(笑)。シティが勝利して『なんでシティ勝ってんだよ』とか(笑)。そういう悔しさは『次はちゃんとやってくれよ』『もっと応援しなきゃ』と次に繋がる。また元気を出せる理由になるじゃないですか。もちろん腹も立つかもしれないですけど、その怒りは僕たち選手にぶつけてくれればいい。勝ったら勝ったで『僕も頑張らなきゃ』とか、力になりますしね。コロナ禍の今は本当に気が滅入ってしまうような悪いストレスが多いので、また昔のような日常を一日も早く戻せるように、リング内外で取り組んでいきたいですね」
Kazuchika OKADA
オカダ・カズチカ(新日本プロレス)
1987年、愛知県安城市生まれ。新日本プロレス所属。中学卒業後に単身でメキシコへ渡り「闘龍門」に入門し、2004年に現地でデビュー。07年に新日本プロレスへ移籍。アメリカでの武者修行を経て、12年1月に凱旋帰国。プロレス界にカネの雨を降らせる男として、リング内にとどまらない活躍を見せている。2021年1月4日、5日に東京ドームにて開催する『WRESTLE KINGDOM 15 in TOKYODOME』に出場予定。
Edition Cooperation: Dan Ozu
Photos: (C)新日本プロレス, Getty Images
Profile
足立 真俊
1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista