風間メソッド 25 ボールを蹴る環境は自分で作る
『30秒で子どもの未来は変わる!
勝手に才能が伸びる風間式育成メソッド』全文公開#25
「伸ばすプロフェッショナル」風間八宏監督が、親・指導者・子ども、それぞれの立場からのよくある悩みに質疑応答形式で答え、育成の“誤解”を解いていく書籍『30秒で子どもの未来は変わる! 勝手に才能が伸びる風間式育成メソッド』を、1話ごとに全文公開! 「サッカーは教えてもうまくならない」「誰よりも自分に期待すればいい」「本気にさせるのがいちばんの上達法」など、本質を突く風間監督ならではのユニークなメッセージの数々を、ぜひ受け取ってほしい。
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質問者:もっとサッカーが上手くなりたい選手
選手「風間さん、僕はもっとサッカーが上手くなりたいと思ってるんですけど、どうすれば上手くなるのか教えてください」
風間「サッカーが上手くなるためには、もちろん先天的な才能とか、どれだけ努力をしたかっていうのもあるかもしれない。だけど、一番大事なのは、自分自身がどれだけサッカーが好きか」
選手「風間さんはどんなサッカー少年だったんでしょうか?」
風間「面白い話があって、小学校6年生の時に朝から大雨が降っていて試合が中止になったことがあった。母親が中止の連絡をもらったんだけど、その日が4月1日、つまりエイプリルフールだったから、俺に『試合やるって』ってウソを言ったんだ。さすがに大雨だしわかると思ったんだろうけど、俺はすぐにボールを持って出ていっちゃった。もちろんグラウンドに行ったら誰もいなかったんだけど、むしろ独り占めできてラッキーだと思って夕方までひたすら1人でボールを蹴っていた。それ以来、母親はサッカーに関するウソは二度と言わないと決めたらしい(笑)」
選手「すごい。僕なら、親にどうしてウソついたんだ、と問い詰めたかもしれません。風間さんはそうならなかったんですか?」
風間「ならない。要は、サッカーがそれぐらい好きだったから。サッカーに限った話じゃないけど、子どもって自分の好きなものにはずっと熱中してるでしょ。その間は周りが何を言っても聞こえないし、自分の世界に完全に入り込んでいる。そうなってしまえば、大雨が降ってようが、親がうるさかろうが、気にならないんじゃないかな」
選手「そこまでサッカーにのめり込める風間さんのような人は、僕の周りで見たことがないです……」
風間「そうかもね。昔に比べると、今はサッカーが好きでも、そこまでのめり込むのは簡単じゃないのかもしれない。まずサッカーをやる環境が限られている。俺が子どもの頃は、学校のグラウンドが解放されていたから、ボールを蹴りたい時に行けば好きなだけ蹴れたけど、今はそうはいかないところも多いだろうから」
選手「はい、僕の学校も夕方以降は鍵がかかって、自由に出入りできないようになっています」
風間「ただ、何かができないっていうのは、裏を返せばチャンスでもある」
選手「どういうことですか?」
風間「公園や学校でサッカーをしていると、日が落ちて暗くなってボールが見えなくなる。ナイター照明があったとしても、自分ではつけられない。それでどうしたかというと、家の近所にあった神社に行く。そこにあった公民館は夜でも電気がついていたから、そこで21時ぐらいまでボールを蹴る。普通は怒られるのかもしれないけど、俺があまりにもサッカーが好きだったから、見逃してくれていたんじゃないかな。文句を言われた記憶はほとんどないから」
選手「グラウンドが使えないとか、ボールが見えないとか、簡単に諦めてしまっていました」
風間「自分が教える選手たちにはいつも言っている。『人のせい、物のせいにするな』と。何かのせいにすることが一番良くないことだから。サッカーが上手くなりたいという気持ちがあるんだったら、自然と工夫して考えるようになっていく。サッカーも同じでしょ。相手が守りを固めている。自分よりも大きい選手がいる。その時に、どうすればいいか考える。サッカーが上手くなるには、そういうことを積み重ねていくしかないからね」
選手「ありがとうございます。今からボールを蹴ってきます!」
まとめ
・好きなものにのめり込む ・不自由な環境はチャンスでもある ・人のせい、物のせいにしない
30秒で子どもの未来は変わる! 勝手に才能が伸びる風間式育成メソッド
- 01 親は先回りしてはいけない
- 02 子どものサッカーに“ミス”はない
- 03 子どもの試合は感謝しながら見る
- 04 天狗になるのは当たり前
- 05 サッカー経験がある自体が“ない”
- 06 サッカーはどこでやっても上手くなれる
- 07 子どもから見返りを求めない
- 08 家に帰ってきてサッカーの話をしているか
- 09 セレクションはしょせん人が選ぶもの
- 10 海外で学べるのはサッカーだけじゃない
- 11 シューズは自分のお金で買わせる
- 12 サッカー以外もどんどんやればいい
- 13 子どもは大人のおもちゃじゃない
- 14 10年後に勝てばいい
- 15 選手の顔を見ればメニューが決まる
- 16 練習では失敗を引き出す
- 17 やりたくないことをやらせる
- 18 上手くなりたいと飢えさせる
- 19 基準を作ってあげる
- 20 「本気」を引き出す
- 21 本当の意味で平等に扱う
- 22 子どもの成長の邪魔をしない
- 23 トラブルがあった時は子どもに任せる
- 24 指導者は孤立しない方がいい
- 25 ボールを蹴る環境は自分で作る
- 26 監督の言うことなんて聞くな
- 27 自分のやりたいことを主張しろ
- 28 サッカーはやめてもいい
- 29 “2人の自分”を作れ
- 30 一番出られなさそうなところを選ぶ
- 31 言葉が通じないのは面白い
- 32 プロになりたいと思うな
- 33 サッカーにポジションはない
- 34 チームのことなんて考えるな
- 35 ボールを完全に止める
- 36 シュートは打つまでに“2つ”を決める
Illustration: Miyuki Demura
Profile
北 健一郎
1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。『ストライカーDX』編集部を経て2009年からフリーランスに。サッカー・フットサルを中心としてマルチに活動する。主な著書に『なぜボランチはムダなパスを出すのか』『サッカーはミスが9割』。これまでに執筆・構成を担当した本は40冊以上、累計部数は70万部を超える。サッカーW杯は2010年の南アフリカ大会から3大会連続取材中。2020年に新たなスポーツメディア『WHITE BOARD』を立ち上げる。