ナーゲルスマン+ストーミングに日本代表の悩み解決のヒントがある
喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの蹴球談議~
毎号ワンテーマを掘り下げる月刊フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。
今回は、ドイツの名将ラルフ・ラングニックやユルゲン・クロップたちが発展させていった新概念ストーミングを肴に、欧州の戦術トレンド、交代枠、そして日本サッカーの未来まで想像をめぐらせてみた。
今回のお題:月刊フットボリスタ2019年12月号
「欧州を席巻するプレッシング戦術
『ストーミング』の変化を考察する」
店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦
新概念「ストーミング」って何?
川端「まずは今号、ストーミング特集でしたが、この特集にした狙いは何でしょう?」
浅野「昨季のCLが顕著でしたが、前から猛烈なプレッシングを仕掛けていくチームが増えたじゃないですか。少し前のCLだとホームは0-0でOK、アウェイではアウェイゴールを狙うみたいな駆け引き勝負だったのが、もはや第1レグのスコアが3-0でも勝敗の行方がわからなくなった。それってボールを支配してゲームがコントロールできなくなっているからだと思うんですよね。つまり、『ボールを奪う』ことを攻撃の概念に転換したストーミングの拡大・浸透によって、ポゼッションの安定が奪われてきているのかなと」
川端「後ろでのんびりボールを回してゲームをコントロールなんて悠長なことが許されなくなっているということですよね」
浅野「そんな中で、ストーミングの総本山であるRBライプツィヒが、どちらかと言えばグアルディオラのポジショナルプレーに影響を受けているナーゲルスマンをラングニックの後継者として指名した。そこでストーミングの流れが今後どうなっていくのかを探ってみようかな、と」
川端「そもそもで恐縮ですが、ここであらためて編集長からストーミングとは何かについてもざっくり説明してもらってもいいですか。いきなりこの対談から読み始める方もいると思うので」
浅野「それもそうですね。ストーミングというのは、サッカーの4局面、つまり『攻撃』、『攻→守の切り替え』、『守備』、『守→攻の切り替え』のうち、攻撃と守備の2局面を極限まで圧縮して、とにかく切り替え(トランジション)で勝負しようというサッカーですね。だから見た目は落ち着かないバタバタしたゲームに見えます。ボールを奪われたら『5秒以内』に取り返す、奪ったら『10秒以内にシュート』みたいな、『時間』に重きを置いたプレースタイルです。選手には縦への意識と物理的なスピードが求められます。あとライプツィヒが選手獲得に『23歳以下』という条件を付けているように、若くないとできないとも言われています」
川端「走れないと話にならないサッカーだからですよね。その一つの原点と言われているのがクロップ監督のドルトムントですよね。香川真司のいた」
浅野「そうです。香川の頃からそうでしたし、香川移籍後にさらにその傾向が強まりましたが、奪われてもいいので、CFのレバンドフスキにロングボールを放り込み、高い位置からなだれ込むようにプレスに行き、そこで奪い返してショートカウンターでフィニッシュする。ラグビーのハイパント攻撃みたいなサッカーですね」
川端「あれはインパクトが強かったので、日本の指導者たちにも大きな影響を与えました。漫然と観ているとラフに蹴り込んで気合いで拾うだけのサッカーに見えちゃいますが(笑)」
浅野「当時はペップのバルセロナが全盛だったので、その対抗策という意味合いも強かったです。12-13シーズンのCL決勝がバイエルン対ドルトムントになったのがインパクト大きかったですね」
川端「たしかに、たしかに。僕らもそういう本を作りましたしね(笑)」
浅野「そうそう。『FOOTBALLISTA NIPPON』ね。懐かしい。昨年出した『ポジショナルプレーvsストーミング』の特集はその続編でもあるんですよ」
川端「あの時は日本サッカーの向かうべき方向性はバルセロナなのか、それともドルトムントなのかみたいなテーマ設定でしたよね。まさに、ここからこの二大潮流が来るぞとなって、実際にそうなっていった。で、この二つが切磋琢磨しつつも、同時に影響し合っていて、新たな変化、あるいは進化が出てきているんじゃないかというのが今回の特集の一つの趣旨ですよね」
浅野「それが裏テーマですね。実際、クロップのリバプールとナーゲルスマンのRBライプツィヒに共通していたのはストーミングとポジショナルプレーの融合ですから」
川端「すごくざっくり言うと、『時間の攻略を狙うばかりじゃなくて、ボールを持つ時間も作ろうよ』ってことですよね?」
浅野「クロップ時代のドルトムントもそうでしたが、ストーミングを突き詰めているチームは相手にベタ引きされるとつらいんですよ。後ろを固められている時にロングボールを蹴っても回収されるだけですから。その場合はきちんと崩さなければならないので、どうしてもポジショナルプレーの要素が必要になってくるんです。あとはゲーゲンプレッシングを機能させるためには、ボールを失った地点に味方の密集が必要だから、そこをコントロールする必要がありますよね。そこがラングニック戦術の肝でしたし、ナーゲルスマンは『ゲーゲンプレッシングをより機能させるためにポゼッションが必要』みたいな言い方をしていますね」
川端「ポゼッションして相手を押し込めれば、相手のビルドアップ開始地点が後ろになって、そこで奪回できればビッグチャンスというのもありますよね」
浅野「そうそう。そもそもグアルディオラのチームの基本設計はそれですから」
川端「日本のポゼッション系チームもその部分を意識するところが増えました。実際、グアルディオラも『即時奪回』を強く意識させてきた人ですもんね。その意味で奈良クラブの林舞輝GMによる『即時奪回』に関するシティとリバプールの違い、その対比こそ思想性の差だという話はおもしろかったです」
浅野「俺もこの号を作る前はポジショナルプレーとストーミングの違いって、結局はボールを奪ってから『早く攻めるか』『組織を回復してから攻めるか』の違いにしかないのかなと思っていたんだよね。失ってから早く回収しようとするのは同じだから。ただ、林舞輝さんがペップの『即時奪回』は秩序を回復するためのもので、クロップの『即時奪回』はさらなるカオスに導くためのもの、という話は『なるほど』と思った」
「伝染病を止めたのは水(=環境)」が意味するもの
川端「『なぜシティのサッカーはストーミングと言えないのか?』という。それにしても、ナーゲルスマンのインタビューもありますし、今号はだいぶ豪華でしたね。一番おもしろかったのは、ロッホマン教授に関する記事でしたが(笑)」
浅野「どんどん質問をかぶせてくるのが教授っぽかったと言っていました(笑)」
川端「教授に追い詰められていく生徒の顔が浮かんで面白かったです(笑)。この方の考え方はちょっと極端過ぎるけど、記事の中で挙げているテーマ自体は興味深いですね」
浅野「ロッホマン教授はドイツ国際コーチ会議で話題になっていたので気になっていたのですが、ちょうど来日していて話を聞けました。確かにテーマは興味深い」
川端「ドイツの指導者がボロクソ言われているのも凄い(笑)。教授によれば、7割の指導はクソだ、と。そして『指導者を育てましょう』という方向性自体に懐疑的なのは面白いですね。賛成はしないんですが、その理由付けは面白い」
浅野「あれは自分の子供が受けた仕打ちに対する親の恨みだろと思ったけど(笑)、発想は面白い。子供の指導法はストラクチャーを決めてしまえばよくて、『指導者を育てるのは無駄』だ、という結論」
川端「教授は『コーンドリブル』みたいな練習について、その非効率性やサッカー選手として習得すべき四要素のうち三つが除外されている点を指摘しつつ、でも現場の7割の指導ではこういう練習をやらせる、と。それがなんでかといったら、教えるのが簡単だからで、誰もが指導できるからだ、と。ならば、よくわかっていない指導者でも子どもに実践させれば、自然と四要素を鍛えられる方法を平準的に導入しちゃえばいいじゃないということですよね。『スマホ時代のコーンドリブル』みたいな」
浅野「まさにその通りです。彼は環境医学で伝染病を止めたのは水(=環境)だったことを例にしていましたが」
川端「水が汚れているんだから、人に投資してもすぐに汚染されてしまうだけだ、という……。『風の谷のナウシカ』の腐海みたいな話だな、と(笑)。あれは土でしたが」
浅野「またわかりにくい例え話を(笑)」
川端「教授の喩えは、あの人の話ですよね。えーと、誰でしたっけ(笑)。公衆医学の……。あ、ジョン・スノウか(※ググった)。コレラが流行する理由が水にあると突き止めた。そもそもはイグナッツ・フィリップ・ゼンメルワイス。病気の予防には環境が大事という現代では当たり前の話を発見した人たちで、教授が言っているのはもしかるとこっちかかもしれない」
浅野「まあ、そもそも間違った指導風土を病原菌に喩えるのもどうかと思いますが(笑)」
川端「そういう話をして周りからどう思われても頓着しなそうな辺りも『教授』っぽい人でしたね(笑)」
浅野「あえて雑に言うと、ドイツでも新旧指導者の断絶ってあるじゃないですか。ラップトップ監督がもてはやされたのが典型ですが。テクノロジーによって指導のストラクチャーを標準化しようという提案がテクノロジーマニアであるドイツ代表のチームマネージャーのビアホフに受けて、ドイツサッカー連盟が正式採用することになった。今後どうなっていくか注目だと思います」
川端「少し怖くもあるんですけど、常に実験的な進取の精神を失っていない時点で、ドイツが保守的過ぎるという教授の批判は当てはまらない気がしています。ホントに保守的なら教授みたいな人の意見は採用されないだろ、という(笑)」
ラグビー日本代表はストーミング?
川端「今号はボリスタのスパイとなっているボローニャの話がまたしても面白いですね」
浅野「特にビデオアナリストのダビデ・ランベルティのプレッシング強度(PPDA)の数値化の話は面白かったでしょ?」
川端「そもそもプレッシング強度のような曖昧になりがちなモノを明瞭に数値化しようとしていること自体が面白いですよね」
浅野「練習にも反映しやすいし、記事中にもありますが、選手の評価にも使える」
川端「この選手を出すとプレッシング強度が下がる、とかモロにわかるわけで、それを選手に伝えることで改善も促せるでしょう」
浅野「そうそう。PPDAはすぐに数値出せますし、ボローニャのケースみたいにそれを加工して独自指標まで出せればパフォーマンス評価やゲームモデルの達成度評価にも使えると思います」
川端「やっぱりデータは加工が大事なんですよね。『シュート数』『ボール支配率』だけだと意味がないのと同じで、ゲームモデルやゲームプランの中で『ある状況でのシュート数』とか『あるプランを実行している時のボール支配率』だったら有意になる可能性がある」
浅野「あと、個人的なチャレンジだった記事として、ラグビーコーチの井上さんと林舞輝さんにストーミングとラグビー戦術の類似性を語ってもらった対談は読んでもらいたいですね」
川端「あれは二人が楽しんでそうなのがよかったですね(笑)。異文化交流」
浅野「蓋を開けてみるまでわからなくて内心ハラハラしていましたが、いざ始まってみたら予想以上に会話が弾んでよかったです」
川端「ラグビーは今回のW杯で久しぶりに観たんだけど、俺の観たことある時代とは明らかにスポーツとして違ったものになっていたから、内容にも納得感ありましたよ。やっぱり進歩してるんだ!という(笑)」
浅野「ラグビー戦術史の勉強になりましたね。エディ・ジョーンズがポジショナルプレーで、ジェイミー・ジョセフがストーミングなんだ、と。もともとジョセフが『アンストラクチャー』とすごく言っていたり、ラグビーW杯前から今大会は『キックの大会』になると言われていたので、そこをぶつけてみました」
川端「結局、相互補完というか組み合わせに行き着くという部分では共通項ありますよね。いや、相互刺激の結果としての相互補完、かな」
浅野「蓋を開けるとジョセフ・ジャパンはパスラグビーでしたしね」
高まるインテンシティ、「交代枠問題」
川端「あとはナーゲルスマンのインタビューも面白かったし、選手交代に関する話は特に良かったですね。たしかに『誰を下げるべきか』から考えちゃうと、交代って躊躇しますよね。失敗する可能性から逆算するとなおさらで、そこは逆転の発想で『誰を出すべきか』から考えろ、という」
浅野「それはあるよね。よく『あの選手の出来が悪いのになぜ下げないんだ』とか『あの選手が前半で交代させられたのはひどいパフォーマンスだからだ』という見方をされがちだけど、それって減点方式の考え方だよね。選手交代も加点方式でやった方がいい結果に繋がる気がする」
川端「まあ、ベンチに良い選手がいる前提の発想ですけどね(笑)。あとメディアによる交代の評価も減点方式が強過ぎるのかもなあ、とあらためて」
浅野「俺がこのインタビューで感じたのもそっちだね。成功した交代策の方にこそ、もっとクローズアップした方がいいのかもしれない」
川端「あと早めに交代した選手=出来の悪かった選手みたいな捉え方をされがちですけど、それも思い込みのことが少なくないですよね。ゲームプラン通りなのかもしれないわけで。そして、そもそも理屈の上では逆のプランがあってもいいですよね。『最初の20分だけ出て死ぬ気で走るプラン用の選手』とか(笑)」
浅野「それは極端な例だとしても、前後半を半分ずつ出るとかは今後ありそう。今のゲームは、それだけインテンシティが高くなっているからね」
川端「点を取りやすいのが試合終盤なのは確かなので、エースを90分出してしまって疲弊した状態で終盤を迎えるより、前半25分くらいから出場させた方がいいとかいうこともあるかもしれない。20分経って体が温まってきたころに点の入りやすい前半終了間際になるし」
浅野「サッカーがよりハードワーク化しているから、交代枠の増加はあらためて議論になっていくかもね。延長戦で1枠追加はあったけど」
川端「選手交代は試合の流れをぶつ切れにしてしまう弊害も強いし、タイムアウトがないサッカーにおける『間』の創出や時間稼ぎにも使われているのが実情なので迂闊に増やせないのもわかりますけどね。一方、ヨーロッパの育成年代の大会だと、『ハーフタイムでの交代は無制限』とかもあって、今後はそういうのも議論の俎上にあがるのかな、と」
浅野「サッカーのピリオダイゼーションで有名なレイモンド・フェルハイエンのインタビューで、今後のサッカーの方向性として交代枠増かアイスホッケーのように一度交代した選手が戻ってこられるようなルール改正に言及していましたね」
川端「交代した選手が戻ってこられるのはナシかな(笑)。アメリカンスポーツになってしまう」
浅野「あと単純に『危ない』のもあります。現代サッカーはめっちゃ走るので肉体の限界を突破するケースが多い。要はプレーのインテンシティがさらに上がってきているので、何らかの対策が必要という話の流れです」
川端「交代枠を使い切ると上みたいなケースに対応できないから、アディショナルタイムまで枠を取っておくみたいな保険をかけたくなるじゃないですか、指導者が。そうすると試合に出られる選手が必然的に減っちゃうわけで。まあ、そこも含めて駆け引きじゃんという考えもあると思いますが」
浅野「残り1枚は最後の5~10分まで切れない風潮はあるよね」
川端「最後まで切らないのが基本の石橋叩く監督もいる。まあ、だから枠を増やすのがわかりやすいのは確か。JFAは育成年代の大会で枠を増やしつつ、しかし流れブツ切れ時間稼ぎ対策で『交代は3回まで。人数は制限なし』みたいな形にしようとしていますね。つまり交代ボード提示できるのは3度までなんだけど、その時に複数人交代するならそれはOK的な。交代フリーにすると、それを悪用(?)する監督が必ずいるので(笑)」
浅野「基本的にサッカーって、ゲームが止まらない競技だから難しいね」
川端「その競技特性を利用して心理面からも圧迫していくのがストーミングですからね」
未来はポジショナルプレーとストーミングの融合?
浅野「それでは、まとめましょうか」
川端「ポジショナルプレーとストーミングという二大潮流についての考察の中で、今回はストーミングへのフォーカスでした。これはナーゲルスマンの話が象徴的でしたが、『思想は変えない。でもちょっとボール保持を入れていく』みたいな方向に進みつつある、と」
浅野「全体的に融合方向ですね。レナート・バルディがインタビューでいっていましたが、『今のサッカーでは4局面とも強くないといけない』と語っていましたが、クロップのリバプールもポジショナルプレーの要素を入れて安定しましたし、ナーゲルスマンのRBライプツィヒもそこを目指すのでしょう。ただ、簡単ではないというのがここまでのライプツィヒの試合を見た感想です」
川端「どういう部分ですか?」
浅野「ハッキリ言ってしまうと、かなり特長がなくなったチームになっています。それでも勝っているナーゲルスマンの采配力はさすがですが」
川端「あー、なるほど。色というか武器が消える、と」
浅野「あと、今後の選手起用や獲得が難しくなるのかなというのは思った」
川端「たしかにハイプレスができてスピードもあって、なおかつポゼッションプレーにも対応できて点……とやっていくと、万能選手をズラリと並べる必要が出てくるじゃないですか。そう都合良くいくのかな、という」
浅野「クラブ単位でのゲームモデルを作るポジティブな面って、まさにそこだったと思うし」
川端「『こういうサッカーがしたい』→『だからこういう選手が必要』というのが明瞭になるからですよね。ところがハイブリッドを目指すと『こういうサッカーとああいうサッカーと両方やりたい』→『だから両方できる選手……って、そんなの簡単にいないよぅ』となるのか(笑)」
浅野「ライプツィヒは『23歳以下』『スピードのある選手』という明確なコンセプトを掲げた尖った選手獲得方針でしたから、余計にそれは感じますね。SDもパダーボルンから30代の若い人を連れてきていて、今は刷新ですよ。ラングニックはRBグループ全体を見る役職に引いていますしね。RBグループのアカデミーはザルツブルクを除いてあまりうまくいっていないとも聞きますし、グループ全体のサッカー部門統括者としてこの新しいモデルに適応する選手を育てようとしているのかもしれない」
川端「まあ、『何でもできる選手』って『何にもできない選手』と紙一重ですからね。ある強豪Jクラブのアカデミーダイレクターの方が、『ユース年代で全部が80点みたいな選手は、プロのレベルだと全部が60点の選手で使えない』という話をしていたのは印象的でした。弱点潰していく形の育成だと、結局は上で行き詰まる」
浅野「いずれにしてもナーゲルスマンは凄腕ですし、RBグループは明確な方針の下で動いているように見えるので、今後の変化に注目です。若くてスピードがある選手にポゼッション時の振る舞いも仕込むしかないんじゃないですか(笑)」
川端「あと、メンタリティもあるじゃないですか。ストーミングは猛烈メンタリティで機能する部分が少なからずある。林舞輝さんも書いていましたが、『人』を軸にするのがストーミング。『人はミスを犯す』ことを前提にしている思想ですよね。そういう猛烈メンタリティとポジショナルプレーは相性の悪い部分が少なからずありそうで、二つのバランスを取ろうとしたら特長が弱くなってたってのは確かにありそうな話だなと思う」
浅野「メンタリティはあるよね。シャビにストーミングはやらせられない。『は??お前何言ってんの?』ってなりそう(笑)」
川端「間違いない(笑)」
浅野「だからゴールをどこに置くかでしょうね。リーグ制覇ぐらいなら、原理主義でも良さそうだけど、欧州制覇になるなら今のままでは厳しいという判断でしょう」
川端「ロッホマン教授の話じゃないけど、データ的なモノを突き詰めていくと、育成も『人間らしさ』みたいな要素を削った方が確実に効率良くなりそうに思えるんだよね。しかして、実態は、という」
浅野「結局、やるのは人だからね」
日本が目指すべきは「カウンターのためのポゼッション」
川端「まあ、何にしてもあらためて科学的なアプローチで日本サッカーが置いてかれそうな危機感を覚える号でした。このあたりは協会というかスポーツ界、あるいはミクロにJクラブがもっと頑張らないと危ないなとは感じています」
浅野「ただ、人を基準にするラングニックのアプローチも科学的だよね。個人を生かすのではなく、群れとして戦う。ただ、根本にはミスを許容するという哲学がある。あるいはミスの定義が違うのかもしれない」
川端「いやいや、『人間がミスをするもの』という前提こそ、まさに科学的な事実に基づいた発想です。むしろグアルディオラのポジショナルプレーの方が神秘主義的だと思います。神に近づこうとしている(笑)」
浅野「その2つのアプローチがどうせめぎ合っていくのか楽しみです」
川端「日本の方向性がどっちなのかというのはあらためて議論の必要がありますしね」
浅野「育成年代だと、ストーミング的なサッカーは少なくなってきていると聞きますし、日本国内にもあらためてこの派閥をアピールしとこうかなという意図もありました」
川端「まあ、ハイブリッドは理想なんだけど、本当に難しい。U-17W杯の日本代表なんかは、まさにその志向でチームを作ってきたけれど、結局ポゼッション寄りになり過ぎて、最後のパワーが出てこなかった」
浅野「回しているだけみたいになってたね」
川端「両方やりたかったんだし、そのための練習もしてきたんだけど。一番ボール支配率の良かったメキシコ戦が唯一の負け試合になったのは何とも象徴的でした」
浅野「うまくいった試合は確かにハイブリッドに見えましたけども」
川端「見返すと、メキシコは意図的にそれを引き出していたのかも、とも思ったんですよ。持てる状況にされると持っちゃうし、チャレンジするリスクを相手から示されると日本の選手からチャレンジするプレーが出なくなる。メキシコとは各年代でやりまくっているので、その辺りまで見透かされていたかな、と。メキシコが普段通りにガチャガチャしたサッカー挑んできてくれてたら、もっとやれたと思うんだけど、あれも罠だったかなあ、という……」
浅野「ボールを持たされると弱い、という。それは崩せないというだけでなく、攻撃時にポジションを崩し過ぎちゃって『攻→守の切り替え』が意識できていない、という意味でもあるんですが。4局面のうちここが日本サッカーの一番の弱点」
川端「というか、そもそもボールが奪えないというのもあると思います。メキシコ戦の失点も、3人でボールホルダーを囲い込んでいるんだけれど、取り切れずに展開されてしまったことが起点ですから。これはもう意識の問題ではない。『奪う能力』があるかないか。もちろん、世界大会になると相手の『奪われない能力』もスペシャルなわけですが。AFC U-19選手権予選で当たって引き分けたトルシエ監督のベトナムも『日本はボールを持たされる展開になると弱い』というのは見透かされてるなあと思いました」
浅野「日本が世界大会で一番威力を発揮するのは縦に速い攻撃ですからね。つまり『守→攻の切り替え』。そこは一流ですよ」
川端「そうそう、そこは間違いない。勘違いしている人が多いポイントですけど」
浅野「実際に海外の人はみんなが言うじゃないですか。『日本はカウンター速いから、そこが要注意だ』と」
川端「今回のU-17代表も快足FW若月大和の個性を使ったカウンターが一番破壊力ありましたからね。一方で、ポゼッションをオプションとして持つのは絶対必要だとも思うので、今回の森山佳郎監督の方向性が間違っていたかというと、そこも違うかな。ただ、ポゼッションをメイン兵装とするのはキツい」
浅野「持たされちゃうと、日本の特長である俊敏性とか持久力とか生かせないし、それを生かそうとボールに密集してきて、いつの間にか全体のバランスがめっちゃ崩れているという」
川端「高さで勝負できないからセットプレー取れてもキツいし、クロス入れても勝てないし……。そしてそうやって『勝てなそう』と日本の選手も思っちゃうから、どうしても持つばかりになっちゃうのかな、という」
浅野「日本の武器を最大化する設計にすればいいという意味では、今のナーゲルスマンによるチーム作りは参考になるかもしれない。『カウンターのためのポゼッション』がテーマだから」
川端「それはそうかもしれない。……ということで、今号をぜひ見てねということで終わりますかね(笑)」
浅野「日本サッカーの未来のためにもね。実際、参考になる要素は多々あるかと思いますので」
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Profile
川端 暁彦
1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。