スペースがなくてもゴリゴリ抜ける。サンマクシマンという新型ドリブラー
林陵平のマニアック技術論 Vol.3
ALLAN SAINT-MAXIMIN
アラン・サンマクシマン(ニース)
1997.3.12(22歳) 173cm / 67kg FW FRANCE
海外の有名どころからマイナー選手まで幅広く網羅したゴールセレブレーションで話題になった東京ヴェルディの林陵平は、自他ともに認める「JリーガーNo.1の海外サッカーマニア」だ。そんな彼が“今見ておくべき選手”のスキルを徹底解剖。今回はニースの新星で、来季からのミラン加入が噂されているアラン・サンマクシマンの「ドリブル」について。
サンマクシマンは“わかりやすい選手”ですね。
初めて見たのはパトリック・ビエラがフランスのニースの監督になって、当時はバロテッリもいたので「どんなサッカーをしているのかな?」と試合を見てみたんです。そしたら、ドレッドヘアのすごいのがいるなと(笑)。もちろん髪型の派手さもそうなんですが、それ以上にプレーですね。今時珍しいドリブラーで、ボールを持ったら必ず仕掛ける。相手が1人、2人、3人でも行きますからね。『DAZN』のニースのハイライトシーンには常に登場してきますし、1対1の突出した能力を持っていて見ていてワクワクする選手です。
今回は彼の「ドリブル」を取り上げますが、基本現代サッカーはスペースがなくなってきているので、昔いた(元ブラジル代表の)デニウソンみたいな正真正銘のドリブラーは減ってきています。そんな中でこれだけ仕掛けられるのは強烈な自信がないとできません。個で打開できる選手はチームとしても重要で、そこで1枚はがせたら大きなチャンスになります。FWの立場で言わせてもらっても、ペナのサイド深くまで侵入して折り返してもらうと、DFがボールとFWを同一視野に収められなくなるのでマークの逆を取りやすくなるんですよね。だから「角を取れる選手」はFWとしてもやりやすいです。
ドリブルの技術にも何パターンかあって、サンマクシマンは両足、足裏、シザース全部やりますね。自分がスピードに乗っているとDFの想定よりもワンテンポ、ツーテンポ早いタイミングでボールをスペースに蹴って、そのままスピードで振り切るパターンがよく見られます。ボールを離すタイミングが普通の選手よりも早いので、DFが自分の間合いに持ち込めずに後ろに走らされてぶっちぎられるケースが多いですね。単純なスピードだけでなく、止まっている場合はボディフェイントやシザースで相手のバランスを崩してから抜く技も持っています。
あと今風だなと思うのは、ゴリゴリ体をぶつけながら抜けるんですよね。つまりどういうことかと言うと、スペースがない密集でも強引に突破できるんです。体の強さがあって、瞬発力もずば抜けているから、急なスピードアップとストップができる。だから、DFが切り返しやキックフェイントにすごく引っかかるんですね。緩急の使い分けもうまいです。
ドリブラー特有の弱点
課題はドリブラーにありがちですが、ボールを持ち過ぎること。相手のレベルも上がっていく中で抜きに行く時と離す時のバランスですね。あとは周りとの関係ですよね。グアルディオラのシティみたいにウイングが効果的に1対1の状況を作ってくれるチームに行けばすごい力を発揮すると思います。ただ、チームにハマらないと危ういです。
今のニースは[4-3-3]や[4-4-2]などのフォーメーションを使っているんですが、サンマクシマンは両足を遜色なく操れるので左右両サイドで起用されています。ニースでは彼がボールを持ったら周りがあえてサポートに行かずにスペースを空けてあげるなど理解が進んでいますが、間のスペースでパスを受けるのはあまり得意ではないですし、守備意識も低く、粗削りであるのは間違いないです。
ただ、ボールを持った後の1対1を打開する力、そしてラストパス、クロスも中の状況を見てきちんと合わすことができます。チャンスメイカーとしての力はすでに傑出しています。ドリブル成功数とかチャンスクリエイト数とか、データ面でもリーグで1、2の数値を叩き出していますからね。
欲を言えば、フィニッシュですね。けっこうGKとの1対1を外すんです。サイドで幅を取ったところから仕掛けていく選手なのでチャンスメイクの比重が大きいのは確かなんですが、点が決められるようになればさらに怖い選手になれるはずです。
もう1つ言うと、彼のゴールセレブレーションも必見で、ダンスのキレがすごいです。あれは(海外サッカー選手のマニアックなゴールセレブレーションの再現に定評がある林選手でも)真似できませんね(笑)。
<プロフィール>
Ryohei HAYASHI
林 陵平(東京ヴェルディ)
1986.9.8(32歳)186cm / 80kg FW JAPAN
東京都八王子市生まれ。東京ヴェルディのアカデミーでジュニアからユースまで過ごした。05年に明治大へ進学して頭角を現し、07年関東大学サッカーリーグで43年ぶりの優勝に貢献した。大学卒業後、09年に古巣の東京ヴェルディに加入したが、翌年に柏へ移籍する。その柏でJ2、J1優勝、クラブW杯に出場。12年7月からはモンテディオ山形にレンタル移籍、翌13年シーズンより完全移籍した。17年に水戸へ活躍の場を移し、チーム最多の14得点を記録。プロ10年目の18年、東京ヴェルディへ復帰を果たした。2019年もマニアックなゴールセレブレーションに期待。Twitter:@Ryohei_h11 Instagram:@ryohei_hayashi
林陵平のマニアック技術論
- Vol.1 JリーガーNo.1の海外サッカー通がルベン・ネベスの「キック」を研究
- Vol.2 「両利きのFW」ルカ・ヨビッチ。林陵平が教えるストライカーの見方
- Vol.3 スペースがなくてもゴリゴリ抜ける。サンマクシマンという新型ドリブラー
- Vol.4 「選択肢を消す」ファン・ダイク。リアクションじゃない対人守備とは?
- Vol.5 エイブラハムはなぜ点が取れるのか?「股下シュート」にみる緻密な計算
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Photos: Getty Images, Bongarts / Getty Images
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。