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「両利きのFW」ルカ・ヨビッチ。林陵平が教えるストライカーの見方

2019.03.22

林陵平のマニアック技術論 Vol.2

LUKA JOVIĆ
ルカ・ヨビッチ
(フランクフルト)
1997.12.23(21歳)181cm / 79kg FW SERBIA

海外の有名どころからマイナー選手まで幅広く網羅したゴールセレブレーションで話題になった東京ヴェルディの林陵平は、自他ともに認める「JリーガーNo.1の海外サッカーマニア」だ。そんな彼が“今見ておくべき選手”のスキルを徹底解剖。今回はフランクフルトでの長谷部誠のチームメイト、セルビアの新星ルカ・ヨビッチの「シュート」について。

 ヨビッチは現在ブンデスリーガの得点ランキング2位につけていて、15ゴールを取っているんですが、右足左足がそれぞれ6点ずつ、頭が3点とバランスがいいんですね。プレースタイル的にも足下はうまいし、裏のスペースも狙えますし、典型的なオールラウンダーです。まだ21歳と若いんですが、この年にしてこの完成度の高さは驚きですね。

「逆足でループ」の衝撃

 今回は彼の「シュート」を取り上げるわけですが、両足が同じように使えるのが最大の特長です。彼は右利きなんですが、左足のシュートテクニックも素晴らしい。普通、利き足ではない方の足で細かいことはやれないものなんですけど、普通にループを打ったりしますからね。これができるストライカーは世界でも限られてきます。ほとんど両利きと言っても過言ではありません。

18-19 ELのGS第3節ラツィオ戦で見せた左足のループシュート

 エリア内でも強くて、ぶつかられても体がブレずに安定したシュートを打てます。クロスに対するポジショニングも良くてDFとDFの間、いるべきところに常にいます。横からのボールへの対応にも優れていて、ボレーの面を作るのがうまいし、アクロバティックなゴールも多い。これはセンスだと思います。ヨビッチの場合、さらに左右両足でそれができるのが大きいですね。

 シュートのパンチ力もあります。それで思い出したんですが、エリア外からのミドルシュートの見どころとして、「蹴り足」と「着地する足」に注目してほしいです。普通は右足で蹴る場合、左足が軸足になって蹴った後は右足が宙に浮くイメージですよね。ただ、インステップで強振する場合は、勢いのままに軸足を宙に浮かせてしまってキックした足で着地した方がボールに力が伝わり、強いシュートが打てます。ヨビッチのシュートもそうですし、(J2第3節)東京ヴェルディ対ツエーゲン金沢での僕の先制ゴールも左足で打って左足で着地しているので、ぜひ見てみてください(笑)。

2019 J2リーグ第3節、ツエーゲン金沢戦のハイライト

長谷部誠が評価する「ストライカー気質」

 実は今回の取材に当たってちょっと準備をしていて、ヨビッチのチームメイトであるフランクフルトの長谷部さんのコメントをもらってきました。長谷部さんは僕の3つ上で、2014年にJISS(国立スポーツ科学センター)でのリハビリで知り合いました。今シーズンのフランクフルトでの活躍ぶりは本当に凄くて刺激になっています。以下読み上げますね。

 「ヨビッチは能力が高い。何でもできるし、シュートがうまい。メンタルも完全にストライカー気質で図太い」

 だそうです。長谷部さんが言うストライカー気質というのは、固め取りできる爆発力にも表れています。今シーズン1試合5得点した試合がありましたが、勢いに乗れるのも才能というか、FWはメンタルが重要なんです。

ELラウンド16第2レグ、インテル戦で決勝ゴールをあげたヨビッチ(中央)を祝福するガチノビッチ(左)と長谷部

 ただ、あえて課題を挙げるとすれば別の側面でのメンタル面かもしれませんね。味方のミスにいらついたり、精神的なムラがあります。今は[3-5-2]の2トップの一角ですが、これから噂になっているバルセロナだったり、レアル・マドリーに行くことになれば1トップを務める可能性もあります。僕も経験がありますが、前線で1人孤立するのは相当きついですし、精神的にも負担が大きいです。そこでイライラせずに同じようなパフォーマンスができるかどうかは経験だったり、精神面での成熟次第でしょうね。

 フランクフルトではコンビを組むセバスティアン・アレがポストタイプで、ヨビッチはその周りを衛星的に動いています。この2人の関係は非常にいいですね。現状は2トップのセカンドトップが一番いいと思います。能力的には1トップもできるはずです。レッドスター(ツルベナ・ズベズダ)の関係者は「セルビアのファルカオ」と言っていたらしいですが、確かにタイプは似ています。クロスボールが自分の頭を越えたらもう一度動き直したりポジショニングが細かいですし、常に点を取れる場所にいます。自分もストライカーなのでFWを見る時はポジショニングを見ちゃうのですが、さすが「ファルカオ」にたとえられるだけはあるなと。心技体でいえば「技」と「体」は文句なしで、「心」もすぐに伴ってくる気がします。

 今後ビッグクラブの奪い合いになってくる才能だと思いますが、次のステップアップ先でスーパースターになっても不思議ではないですね。

<プロフィール>
Ryohei HAYASHI
林 陵平(東京ヴェルディ)
1986.9.8(32歳)186cm / 80kg FW JAPAN

東京都八王子市生まれ。東京ヴェルディのアカデミーでジュニアからユースまで過ごした。05年に明治大へ進学して頭角を現し、07年関東大学サッカーリーグで43年ぶりの優勝に貢献した。大学卒業後、09年に古巣の東京ヴェルディに加入したが、翌年に柏へ移籍する。その柏でJ2、J1優勝、クラブW杯に出場。12年7月からはモンテディオ山形にレンタル移籍、翌13年シーズンより完全移籍した。17年に水戸へ活躍の場を移し、チーム最多の14得点を記録。プロ10年目の18年、東京ヴェルディへ復帰を果たした。2019年もマニアックなゴールセレブレーションに期待。Twitter:@Ryohei_h11 Instagram:@ryohei_hayashi

Photos: Bongarts / Getty Images

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Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。

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