Jリーグのアジア戦略の難敵は、JUVENTUSのブランド戦略?
喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの蹴球談議~
毎号ワンテーマを掘り下げる月刊フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。
今回のお題:月刊フットボリスタ2018年9月合併号
「18-19欧州各国リーグ大展望 52人の要注意人物」
店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦
重層的に重なり合う2つのビジネス化
川端「では、店主。今月のテーマをお願いします」
浅野「その前に、まず今日は90分でやろう。次の予定があるので」
川端「えっ。いつもダラダラと3時間とか4時間かかるこの対談を!?(笑)」
浅野「サッカーの試合は90分なので、我われもインテンシティを高めていきましょう!」
川端「戦術的ピリオトーキング?」
浅野「(無視)では、早速いきましょうか。今回表紙にしたクリスティアーノ・ロナウドのユベントス移籍はマーケティング・オペレーションという巻頭記事を片野道郎さんに書いてもらったんだけど、サッカークラブのブランディングについてあらためて考えさせられました」
川端「ユベントスのロゴの話でしたね」
浅野「そうそう、従来のエンブレムではなく、アメリカのブランド開発会社に発注して、JUVENTUSというブランドのロゴとしてリニューアルしたグローバルなブランド戦略。ロナウド獲得もその流れの中にあります」
川端「片野さんが最初にロゴの話を大々的に打ち出した時は少しピンとこない部分もあったんだけれど、最近の動きと合わせるとなるほど納得な部分がありますね。ユベントスはU-23チーム作る話とか含めて金があるし、投資しようぜという機運もあるんでしょうね。実際、少し前から有望な若手選手をちょっと異様なくらいに集めていましたが。年代別イタリア代表を調べると、別のクラブにいたとしても、ローンで出しているか元所属がユベントスという選手がやたら多かった」
浅野「俺が面白いと感じたのは、去年に特集した『選手=株式』の考え方を単純に当てはめると、今33歳のロナウドの価値は契約を終える4年後は1億ユーロどころか、もう実質ゼロに近づくわけですよ、引退直前なので」
川端「実際、そのタイミングで引退しても驚きではないですよね」
浅野「しかし、CR7というブランドにはまったく別な価値があって、JUVENTUSというブランドとCR7というブランドをミックスさせられれば、投資額を軽く超える利益を出せるという、移籍ビジネスとはまた別のブランドビジネス的な発想が重層的に絡み合っていること」
川端「何しろウルトラスーパースターですからね。見た目もかっこいい(笑)。あときっと彼は監督にもなるだろうから、どこまでストーリーを作っているかは定かじゃないけれど、引退してユベントスU-23の監督になって、そこからトップチーム監督みたいなこともあり得そう。ジダンって人を思い出す流れですが」
浅野「ストーリーテリングからして、うまいよね。レアル・マドリー時代にCLで直接対戦した時に、美し過ぎるオーバーヘッドシュートを決めたロナウドに敵であるはずのユベンティーノがスタンディングオベーションを送って、それに感動したとかさ」
川端「そこから仕込みだったんじゃないかと疑ってしまっている俺は性格が悪いのかな?(笑)」
浅野「でも、ある意味プロレス化しているのは確かだと思うよ。ファンあってのスポーツ興行だからね」
川端「欧州フットボールのビジネス化の流れが行き着く先はプロレスなのか(笑)。まあでも『因縁』の作り方とか利用の仕方は元よりそういうところあるけどね。Jリーグはそういうのがどうも苦手だけれど」
浅野「そう、サッカービジネスのトレンドは“株式化”と“プロレス化”(笑)。サッカークラブの収入は『入場料収入』『TV放映権料収入』『マーチャンダイジング』の3種類で成り立っていて、前者2つは欧州サッカーにおいて頭打ちなわけですよ。Jリーグはまだそこにも伸びしろはありそうですけど。よって、ポイントになってくるのは『マーチャンダイジング』、ユニフォームやグッズの売り上げ、スポンサー料収入などですね。そこはクラブのブランドイメージだったり、共感を呼ぶストーリーが作れるかの勝負になるわけです。ロナウドは3大SNS(Twitter、Facebook、Instagram)の合計フォロワー数が世界一という一大ブランドなんですが、それを生かすには受け入れるクラブにもブランディングの知見が必要。ユベントスはSNSのフォロワー分析でもイタリアと南米に強くて、その他の地域のファンが少ないと片野さんも書いていましたが、全世界にファンを持つCR7のブランドを取り込めば、JUVENTUSブランドが強くなってスペイン2強やマンチェスターUといったビジネスの巨人たちに迫れるかもしれない」
Jリーグの目指す先はベルギーリーグ?
川端「日本がユベントスに学べるなと思うのは同じ『斜陽国家』のチームだということかな」
浅野「今、Jリーグはイニエスタだったりトーレスだったりビッグネームを獲得していますが、その生かし方は課題ですよね」
川端「リーグとしてもJリーグはまだまだアジアでトップ級だと思うけれど、国家としての相対的な衰退が避けられない以上、いずれ大きな壁が来る。ウルトラ高齢化社会の中で地方自治体の運営が限界を迎えていくという現実含めてね。ただ、そうなると逆にグローバルな市場へ目を向ける意味なり価値なりは増すわけで。そのうち円が弱くなるだろうし」
浅野「だからJリーグの伸びしろは誰がどう見てもアジア市場でしょう」
川端「しかし、そこはそれこそユベントスみたいなクラブが競争相手になります。毎年、中国行っているような欧州のメガクラブたちが」
浅野「ただ、札幌のチャナティップみたいに実際自分の国の選手がプレーしていればタイの人は見ますよね。当事者として関われるのはJリーグのアドバンテージです」
川端「それは現時点では一理ある。ベトナムやタイのアンダーエイジ代表の人気とか凄いからね。豪雪のモンゴルで行われたU-19の1次予選にまで彼らは大挙して現れていた(笑)。Jリーグ草創期に日本代表人気がグワーッと来たころの熱気を思い出させる感じだね。若者文化の中にサッカーの代表応援がある」
浅野「だからJリーグは、その国の選手を獲る『必然性』の演出をもっと頑張ってほしいです。アジアの選手にしても、世界のビッグネームにしても、それを利用した戦略的なブランディングに自覚的にならないと、その市場を欧州サッカーに取られてしまう。アジア、特に東南アジア諸国の熱をJリーグに取り込む発想が大事だと思うんだよね。実際、欧州のメガクラブは中国だったり、アジアの巨大市場を取りに来てるわけじゃん」
川端「ただ、東南アジアに頻繁に通って、年代別の大会で彼らを観てきている自分からすると、『Jリーグが東南アジアプレーヤーにとっての憧れの場』である時代自体がそんなに長くないかもしれない。間違いなくレベルアップしている。それも結構なスピードで。遠からず、欧州で通用する選手が出てくると思う。そうなると欧州クラブは本格的に東南アジアの市場が欲しいから選手も獲りにくる。自国の選手が欧州で活躍したら、欧州の試合観るでしょう? かつて中田英寿が欧州サッカーの視聴者を爆発的に増やしたようにさ」
浅野「そうなると厳しいよね。Jリーグはその前に勝負したい。中国人選手でもいいんだけど」
川端「中国は厳しいでしょう。トップクラスは普通に大金もらっていますしね」
浅野「中国や中東のリーグはJリーグ以上に給料が高い。ただ、そのエリアはカネは得られるけどキャリアの終着駅なので、少なくとも日本代表クラスは行かないですよね。そこから先のルートが断絶していますから。善くも悪くもJリーグはブンデスリーガを中心とした欧州サッカー市場に直結してきているので、その利点を使いたいですよね」
川端「ただ、東南アジアは経済的な意味でも勃興していっているから、Jリーグに来る意味はどんどんなくなっていくと思う。今も純粋に『稼ぐ』という意味ではそんなに旨味がないという話もあるけれど、もっと加速するでしょう」
浅野「むしろJリーグの日本人選手が行きそうだよね」
川端「そうそう、今俺が感じているのはむしろそっちの可能性ですよ。今は下部リーグクラスの選手たちが出て行っている流れだけれど、もっと上のクラスが東南アジアへ流出していくような未来はあり得るよ」
浅野「すでにその気配はあるよね」
川端「うん、『日本人選手は使える』というブランディングはできているからね。インドでプレーしている遊佐克美(イースト・ベンガル)なんて何千万円も稼いでいるというし。そういう経済的な意味でも日本の優位性は崩壊しつつあるし、これからもっと崩壊していく可能性が高い。Jリーグはその中で戦略を立てないといけない。中東に移籍した塩谷司(アル・アイン)みたいな例が、『例外的』でなくなる日はそんなに遠くないかもしれない」
浅野「ただ、俺が言いたいのは国単位ではなくリーグのブランディングで、別にイングランドは国として経済的にイケてるわけではないじゃないですか。でも、サッカーの母国だったりプレミアリーグ化のブランド戦略に成功して今の地位を築いた。Jリーグもアジアのプレミアリーグを目指すのは選択肢の一つじゃないかな」
川端「英国のプレミアリーグ化がうまかったのは間違いない」
浅野「中国リーグも金はあるけど、イメージが悪いじゃないですか、正直。だからイニエスタやトーレスは日本に引っ張ってこられた。世界が日本や日本サッカーに持っているプラスのイメージをうまく生かしたい」
川端「そこはちょっと慎ましやかにいくべきだと思っていて、変に『アジアの盟主』みたいなイメージでJリーグの舵取りをすると危ないんじゃないかなという危惧を持っています。確かに中東でも東南アジアでも、あるいは南米においても、日本人は日本人と言うだけで尊敬されているなとは確かに感じるんですよね。それは先人たちが作ってくれた遺産なので、大事にした方がいい。ただ、決定打にはなるかなあ」
浅野「だとすると、どこが目指せるラインかな?」
川端「すごく現実的には、ブンデスリーガやベルギーにステップアップできるリーグくらいになるのかな。さらに踏み込んで『ベルギーポジション』。A代表トップクラスは欧州でプレーしていて、その次を狙う選手やそこを踏み台に欧州を狙う東南アジアや南アジアの選手たちもいる、みたいな」
浅野「まさにベルギーリーグのポジションだね」
川端「戦略的な移籍プランで稼がなければならない、という今までここで話していたテーマとも重なってきますね。そういう意味でお金の動く国内移籍が活発になってきているのはポジティブかもしれない。金は天下の回り物なので、一度動き始めると玉突き的に移籍が動いてお金も動く。今年ほどシーズン中にJ2から選手が引き抜かれた年は記憶にない。善くも悪くも、選手の流動性が高まっている」
浅野「移籍ビジネスが活性化するのはJリーグにとってポジティブなんだけど、過渡期ということもあってすごい引き抜かれ方だよね。徳島とかシーズン中に主力の半分くらい抜かれてない? 終わってからならわかるけど」
川端「シーズン半ばに抜かれ過ぎの感はありますし、DAZNで急に予算的な余力ができたことに伴う過渡期の現象ではあると思います。しかしこうして選手を移籍させることによって金になるとなれば、育成への投資は活発化するでしょうし、選手発掘にかける人材や労力も大きくなるでしょう。今は予算規模の小さなクラブがスカウトに傾注していないところが多いですが、それが変わってくると思う。また抜かれたクラブも、そこで得たお金で新しい選手、できれば売れそうな選手を買うというサイクルにもなるので」
浅野「まさにベルギーリーグ化だ」
川端「その中で大会としての魅力をどう保っていくかが次なる課題なのかな。まあ、『お金のあるクラブが投資する』という機能が動き出してくれたことによる移籍活性化の流れが出てきたのは間違いない」
『Jリーグ=アジアの盟主』論は机上の空論?
浅野「これ、重要なテーマだと思うので蒸し返したいのだけれど、川端さんが『Jリーグ=アジアの盟主』論を危ういと感じるのはどの部分?」
川端「そもそも『日本はアジアの経済大国』という前提で語っている人が凄く多くて、僕なんかは『それっていつまで?』と言いたくなっちゃうんですよね」
浅野「あと、いちおう今は規制されているけど、外資を入れてJリーグに投資を呼び込むという発想は現実的じゃない?」
川端「そもそも、Jリーグがそこまで魅力的な投資案件かどうか。投資で重視されるのは成長性ですからね。特に『円』の価値が長い目で見続けて担保されるかは結構怪しいじゃないですか。そんなに持ちたくないでしょう、円」
浅野「でも、アジアの人気クラブみたいなJクラブが出てきたら面白いと思うんですよね。それこそアジアの各チームのエース級がそろうような。そしたらTV放映権料収入もマーチャンダイジング収入も規模が変わってくると思うので。売上高100億円規模のクラブが誕生するというか」
川端「でも、100億『円』でアジアのスーパースターを集められない時代がすぐそこに迫っていると思います」
浅野「さすがネガティブ川端!」
川端「いや、ネガティブなんじゃなくて戦略的に戦わないと危ない時代なわけで、それにはまず現実を直視しないと。右肩上がりの経済が期待できないのは間違いないし、もっと悪い予測も立つ現状がある。希望的観測に基づく戦略なんて無意味を通り越して害悪ですよ。そもそもアジアのスーパースターをそろえたチームはそんなに強くないというのもある(笑)」
浅野「一時期のレアル・マドリーはCLベスト16敗退の常連でしたが、それでもマーチャンダイジング収入が伸びて売上高だけは急上昇でした。銀河系戦略はその面では画期的でしたよ。強くなくてもブランドも大事なんですよ。俺、フロレンティーノ・ペレスみたいなこと言っているけど(笑)」
川端「そのロジックはわかるのですが、アジアには適用できないでしょう。なぜなら、ロナウドはポルトガルのスターというだけでなく、マレーシアでもスターですよね。でも中国のスターは、インドネシアのスターじゃないんです。僕ら日本人はどのくらいベトナムのスター選手が誰か知っていますか? サウジアラビアはどうですか?という話です。だから『アジアの銀河系』じゃなくて、『ベテラン銀河系』ならあり得ますよ。それこそイニエスタ、トーレス、ロナウドといった過去のスターをそろえていければ、アジア中で人気が出る可能性はあるとは思います。銀河系軍団がなぜマーケティング的に成功できたかと言えば、ジネディーヌ・ジダンはフランスだけでなく、タイでもスターだからです。それもタイのトップスターを凌ぐレベルのスター」
浅野「僕らはタイのスターを知らないですもんね」
川端「もちろん、将来的にタイからそういうワールドワイドな選手が誕生する可能性は十分にあると思っているんですが、でもそこまでの選手が出てきたら普通に欧州へ行くでしょう、という。だから逆にアジア市場を見据えてイニエスタなら、これは真っ当な戦略だと思います。なぜなら、イニエスタはタイでもマレーシアでもサウジアラビアでもスターだから」
浅野「グローバルマーケットにリーチするにはそうですよね。ただ、そこにユベントスみたいにクラブのブランディングが追い付いていないと、世界的スターの価値を有効活用はできない」
川端「ユベントスは元から国際的なブランドだしね。もちろん戦略的にやっている成果が出ているのだとは思うけれど、ヴィッセル神戸とスタート地点が違うので、横並びに比べられないと思いますよ。そもそも神戸はクラブとしての戦略の上に、三木谷さんの事業における世界戦略という視点があると思うので、やっぱりまた違う次元の話だとも思います。楽天という企業の戦略があった上でのイニエスタ」
Today is a very special day, after all these years and so many great moments together we meet again in Japan. So happy to see you again, my friend, I wish you all the best, @Torres! pic.twitter.com/VekHFQIzVw
— Andrés Iniesta (@andresiniesta8) August 22, 2018
浅野「いずれにしても、マーチャンダイジング収入は考えた方がいいけどね。現状、Jクラブはそこが少な過ぎるから」
川端「欧州という“儲かるゾーン”に最初からいるクラブとの差は当然ありますよ。だからやっぱりJリーグがああいうところを単純に模倣しようとしても難しいというか、無意味に近いんじゃないかな。ロゴの話とかテクニック的な意味で真似できるものはあると思うけれど、大局的な戦略で模倣できるものじゃないと思う」
「上が育てる」日本サッカーの構造的歪み
浅野「問題はそういう世界的な地図の中でのJリーグの位置づけをリーグやクラブがデザインできるかどうか。マーチャンダイジングを軸にしたブランドビジネスもそうだし、もっと大きいのは移籍ビジネス。要は欧州に選手は抜かれるのでそこで設ける仕組みを作ろうであったり、どこから選手を獲って、どこに売ろうであったりの戦略ですね」
川端「そこはリーグの戦略とクラブの戦略を同一視できないでしょうね。これからもっとクラブ間の格差は出てくると思うので、逆にリーグが変な統制をしない方がいいのかもしれない。それこそ神戸みたいな狙いを持つクラブもあれば、真逆の意図で行動するクラブもあるでしょう」
浅野「もちろん、そこにはグラデーションがあるでしょうね。でも、移籍の活発化とかの流れはポジティブな方向なのでは?」
川端「良かったと言えるかはこの先の話じゃないかな。ただ、固定化されちゃうよりはいいと思います。選手を抜かれる側のクラブは今ちょっとつらいけれど、下部リーグ所属の選手にとって成り上がる道が見えたことは光明だと思います。これで高卒や大卒の新人が『まず下部リーグを選ぶ』ことのメリットも大きくなるし、下部リーグのチームが新人選手を獲りにいって獲りやすくなるような流れも出てくるはず。そうなると、選手を抜かれる側のチームがより『育成』を考えるようになるという流れも生まれるはずです」
浅野「労働市場の流動化ですね」
川端「前に出した自分の著書でも書いたんだけど、日本のこの部分の構造はイビツなんです。お金のあるビッグクラブほどスカウトに人を置いていて、お金のないスモールクラブは新人発掘にコストをかけていない。これは選手を『売れる』見通しがないからだけど。ユースについても同じで、お金に余裕のあるクラブが育成に投資していて、そうじゃないクラブにとっては経営の負荷扱い」
浅野「本来、逆だよね。出口がないからそうなっているわけだ。それもこれも『選手を売って儲けられる』という算段がないからだけれど、それが少しずつ変わってきたのかな」
川端「となると、『選手を発掘して儲けよう』というクラブがきっと出てくる。というか、それが当たり前になると思う」
浅野「そもそも、そういうインセンティブが働かないと育成に投資する意味がないしね」
川端「育成は慈善事業や社会貢献事業じゃなくて、採算事業なんだよね、欧州では。だからこぞって莫大な金額を投資するわけで」
浅野「で、Jクラブが育成に投資するようになればという話は、お金持ち以外はサッカーができなくなるという前回の問題提起にもつながってくるね」
川端「そうそう、貧乏な家庭の子どもにサッカーを続けさせることが後々儲かるとなれば、自然とそういう策が講じられるようにもなると思う」
浅野「では、最後にまとめましょうか」
川端「Jリーグが目指す方向性は難しいけれど、程度の差はあれ、ベルギーリーグ化していくこと自体は避けられないかもしれない、と。それを戦略的にやっていくのか、抗っていくのかという方向性の分離がまずあると思う。欧州への中継点として東南アジアの選手を受け入れていくというのは一つのやり方で、そこにJクラブの対外的なブランディングをしていく余地もある、と。同時に『選手を育てて売るリーグ』にしていくための枠組みというか、そもそもの考え方や文化にも変化が迫られているよね、というところですよね」
浅野「俺が言いたかったことを全部言っていただき、ありがとうございます(笑)。さらに言えば何事も実際やってみないと答えはわからないので、アジアの盟主路線にチャレンジするクラブが出てきてもいいし、世界的スター獲得路線のグローバル型のクラブでもいいし、選手売却型のクラブでもいいんですが、中長期の戦略とそれに紐付くクラブのブランディングやストーリー作りが必要になってきているのは間違いないと思っています」
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Photos: Getty Images
Profile
川端 暁彦
1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。