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伊東純也の“謎”判定はなぜ?「ほっとした」決勝進出と「納得いかない」降格圏転落…ランス3兄弟の思い

2025.04.10

Allez!ランスのライオン軍団 #11

大好評のスタッド・ランス取材レポートが連載化! 伊東純也、中村敬斗、関根大輝の奮闘ぶり、欧州参戦を目指す若き獅子たちの最新動向を、現地フランスから小川由紀子が裏話も満載でお届けする。

第11回は、16試合ぶりのリーグ1勝利後に待っていた、歓喜と落胆の1週間について。

伊東「ディフェンスはOKで、オフェンスはダメだって」

 天国と地獄――というのはちょっと大げさかもしれないが、スタッド・ランスは、1週間で、歓喜と落胆、そんな相反する2つの思いを味わうことになった。

 「歓喜」はもちろん、4月2日のフランスカップ準決勝での勝利だ。4部リーグのカンヌを1-2で破り、サポーターも泣いて喜ぶ48年ぶりの決勝進出を決めた。

 そして「落胆」は、その4日後に行われたリーグ1第28節。4連勝中と好調のストラスブールを相手に善戦もむなしく、セットプレーからの失点で0-1の惜敗。とうとう入れ替えプレーオフ圏の16位に後退してしまった。

 敗戦という結果だけでなく、この試合は「よくここまで不可解なジャッジを連発したな」というくらい、ランスにとって非常に不利な、理不尽な判定に泣かされる一戦となった。そしてそのどちらも、渦中の人となったのは伊東純也。彼の奮闘が台無しになり、ランスを応援していた人たちの中にはきっと、まだモヤモヤが残っていると思う。

 なので今回は、まずはこちらの試合の問題の場面から振り返っていくことにする。

リーグ1第28節終了時点の順位表。17・18位が自動降格、16位が2部クラブ(3〜5位によるプレーオフの勝者)との昇降格プレーオフ行きとなる。上位では6試合を残して無敗のまま(23勝5分)、パリ・サンジェルマンが4季連続13度目の優勝を決めた

 試合は開始4分、左CKを起点に、DFイスマエル・ドゥクレがゴールを決めてストラスブールが先制した。

 しかしチャンスを作れていたこの日のランス。20分に伊東が同点弾をマークする。

 ゴール左寄りから、右足でゴールの天井を突き刺す見事なシュートだったが、審判はすかさずハンドボールをコール。VAR判定のため、ゲームは中断された。

 リプレーを見ると、左SBセルヒオ・アキエメの左からのクロスを相手CBママドゥ・サールが頭でクリア。このボールが伊東の右股に当たって跳ね返ったボールが、サールの右腕を直撃。さらにそのボールが、ピンボール状態で跳ね返って伊東の上腕部に当たって落ちたところを、伊東が右足で蹴り上げている。

 両者の腕に当たってネットに収まったこのゴールを、クレマン・テュルパン主審は果たしてどう裁くのかと、スタンドは固唾を呑んで結果を待ったが、出された判定は「ノーゴール」。

 ゴールキックで試合が再開されると、当然のように会場は大ブーイングに包まれた。

 あの瞬間、現場はどんな状況だったのか?

 「先に相手の手に当たって、俺の手に当たったんですよ、絶対」

 憤慨、呆れ、やるせなさ……試合後、どんな様子でロッカールームから出てくるかと想像したが、伊東はいつも通りの落ち着いた感じで、時折笑顔も交えつつ、ゴール前の状況を解説してくれた。

 「(自分の腕は体から)離れてないんですけど、なんか当たったらハンドって言われて。『先に相手がハンドしてたんで』って(審判に)言ったら、『ディフェンスはOK』みたいなこと言ってて……」

 ハーフタイムを終えて後半が始まる際、伊東はテュルパン主審のもとに歩み寄り、直接話をしていた。その時、主審はなんと?

 「ディフェンスはOKで、オフェンスはダメだって言ってたんです」

ストラスブール戦のハイライト動画。問題のシーンは3:55〜

相手DFのハンドは「意図的ではなかった」

 ここで、競技規則を定める国際サッカー評議会(IFAB)のルールブックを読んでみた。

 そこには「ボールがハンドに触れたすべての場合が反則行為とはならない」と明記されていて、ファウルの対象となるのは、簡潔に書き出すと以下のようになる。

 攻撃側、守備側ともに

 ①腕を動かすなどして、意図的にボールに触れた場合

 ②体を不自然に大きく見せる形で手や腕を動かした時に、手や腕にボールが当たった場合(その時の手の動きが不自然だったかどうかが判断ポイント)

 そして攻撃側は

 ③偶発的だったとしても、手や腕から直接、あるいは当たった直後に相手ゴールに得点した場合

 ③は見た通りの判定となるが、①と②に関しては“意図的”かどうか、判断は審判の主観に委ねられることになっている。

 これを問題のゴールシーンに照らし合わせると、伊東のシュートは、③に当てはまるため無効。伊東がテュルパン主審に言われた、「オフェンスはダメ」というのはこのことだろう。

 対して相手DFサールのハンドは、①と②のいずれにも当てはまらないと判断されて、PKにはならなかった。VARチームが「意図的なものではない」と判断したということだ。

 ただ、普段サッカーの試合を見ている人たちは、DFが後ろに腕を組んでいたところにボールが当たってしまった、といった不運な状況でも“ハンドボール”があったとしてPK、というシーンを山ほど見ている。

 ゆえに、あんなに明らかに当たっていて、間違いなくボールを跳ね返すのに役立っていたハンドだったら当然PKだと思うし、あれが“ファウルの対象にならない”というのはまったくもって釈然としない。

 ゲームの主役である選手たちだって同じだ。

 伊東は、

 「(なぜPKにならなかったのか)ちょっとよくわかんなかったです。謎でした……」

 と首をかしげる。

 中村敬斗も、

 「あれはもう、絶対ペナルティ。相手のハンドで、相手がハンドしたから純也くんの手に当たったわけで、手に当たらなかったら抜けてたし、あれがなかったらゴールしてたんだから……。いやマジでゴールキックは納得いかないですよ」

 とやるせなさ全開だった。

 よりによって順位転落の危機があった重要な一戦での、試合の流れを左右する決定的な場面だったのだから当然だ。

試合後の中村も浮かない表情だった(Photo: Yukiko Ogawa)

伊東「あれは絶対ボール見てなかった」、中村「マジで納得いかないです」

……

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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