
Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #15
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第15回(通算249回)は、移籍金4000万ポンド(2019年当時クラブ史上最高額)でホッフェンハイム(ドイツ)から加入した当初の酷評も今は昔、在籍6季目を迎えたニューカッスルで70年ぶりの国内タイトル獲得に大貢献した、愛すべき28歳のブラジル人“元9番”について。
タックル成功でタイトルマッチ勝利のような雄叫びを上げる“ジョー”
今季最初の国内タイトルは、ニューカッスルが勝ち取った。日本人記者の立場としては、遠藤航がいるリバプールのタイトル防衛を期待して、3月16日のリーグカップ決勝に足を運んでいた。ところが結果は、スコア(2-1)以上のニューカッスル快勝。中盤での力負けが目立ったリバプールには、デュエルに強く、攻撃的な周囲の力を引き出せる遠藤を投入してほしい気もしたが、追う展開の中で本職6番の出番は訪れないままだった。
しかしながら、舞台となったウェンブリー・スタジアムで、昨季決勝での遠藤を思わせる、守備的MFの晴れ姿を拝むことはできた。それが、ニューカッスルの“ジョー”こと、ジョエリントンだ。
布陣図上のポジションは左インサイドハーフだが、相手ボール時にはアンカーのサンドロ・トナーリと入れ替わる。ミッドブロックで守りながら、マンツーマンのプレスで敵にロングボールを強いたチームの中盤最深部では、強度も機動力も十分なジョエリントンが、「厄除け」ならぬ“裏除け”の御守りとして効力を発揮した。
その存在感は、地上と空中でのデュエル計9勝といった数字をしのぐ。スポーツ漫画『あしたのジョー』の主人公さながら、真っ白に燃え尽きそうな入魂の闘いぶりは、3万人を超すスタンドの「12人目」を含む味方を奮い立たせた。
ボランチとしてのジョエリントンは、敵の右SBだったジャレル・クアンサーとの競り合いを力で制すると、両の拳を握り締めながらスタンドに向かって吠えた。左ウインガーのルイス・ディアスへのスルーパスを際どくクリアしても、MFカーティス・ジョーンズを止めてスローインに逃れても、ガッツポーズを作って叫ぶ。カウンターで走るMFハービー・エリオットを、文字通り“捕まえた”後半アディショナルタイムまで、タックル成功をタイトルマッチ勝利のように祝い、雄叫びを上げていた。
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。