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迷走ローマを再建した“全権監督”ラニエーリに見る、純粋なクラブ愛を持つ「基準点」の重要性

2025.04.04

CALCIOおもてうら#40

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、1シーズンで2度目の監督交代、就任時点で13位と迷走していたローマを見事に立て直した73歳の名伯楽、クラウディオ・ラニエーリの存在に感じたサッカークラブにおける「基準点」の重要性について考えてみたい。

 先週末の第30節を終え、残り8試合となった今シーズンのセリエA。スクデット争いがインテルとナポリの一騎討ちに絞られた一方で、CL出場権を巡る3、4位争いは熾烈さを増している。

 2節前まで首位戦線に踏みとどまっていた3位アタランタが、インテル、フィオレンティーナに連敗して勝ち点58で足踏みする間に、直近4連勝のボローニャが勝ち点を56まで積み上げて4位の座を固め、アタランタ、フィオレンティーナに連敗して監督交代に踏み切ったユベントスも、トゥドル新監督の初戦で白星を挙げ勝ち点55で5位を維持。その下では、少し前まで4位争いを演じながら、ここにきてやや調子を落としているラツィオ、フィオレンティーナが勝ち点52、51で踏みとどまるという構図になっている。

 さらにここに来てもう1つのチームが、直近10試合を9勝1分で駆け抜け、一気に6位(勝ち点52)まで順位を上げて割り込んできた。それがセリエA最年長、73歳のクラウディオ・ラニエーリ翁が率いるローマである。

ラニエーリ監督

ローマの救世主は73歳のラニエーリだった

 ローマといえば、今シーズン序盤の大混乱が今なお記憶に新しい。開幕わずか4試合でクラブレジェンドでもあるダニエレ・デ・ロッシ監督を電撃解任したかと思えば、その「首謀者」と目されサポーターから激しい抗議を受けたリナ・スルークCEOが4日後に辞任。クラブは「マネジメントの空洞化」という事態に直面し、スルークに選ばれた後任監督イバン・ユリッチは後ろ盾を失ったまま迷走を続けて、降格ゾーンから数ポイントのところまで順位を落とす事態に陥った。

 ユリッチ体制の迷走が極まった11月半ば、サポーターから激しい抗議を受ける中で、オーナーのフリードキン父子がシーズン3人目の監督に招聘したのがラニエーリだった。自らの手でセリエAに昇格させたカリアリを残留に導いた昨シーズン限りで引退を表明し、悠々自適の生活に入っていた名伯楽は、2009年、そして2019年にそうしたように、ロマニスタとしての純粋な心情から、愛するクラブをシーズン途中の深刻な不振から救い出す仕事を無条件で引き受ける。

 「ローマから呼ばれたら私はイエスと答えなければならない。なぜ戻ってきたのか? それはローマだからだ。違うクラブだったら間違いなく断っていた」

 フリードキンにとって、ラニエーリは決してファーストチョイスではなかった。マスコミの間で取り沙汰されていたのは、テルジッチ、ポッター、ランパードといった外国人監督、そしてマンチーニ、モンテッラといった実績豊富なイタリア人監督の名前。しかし、チームを取り巻く状況が混迷を極めていた上に、3年前にFFP違反でUEFAと取り交わした和解協定が継続中で、チームの補強に大きな制約があり、複数年のプロジェクトを約束できないことなどから、いずれの候補とも合意に至らず、最後に挙がってきたのがラニエーリの名前だった。

 ラニエーリとの合意は、監督としての契約は今シーズン限りだが、来シーズンからはシニアアドバイザーとしてスポーツ分野に関わるオーナーの顧問という立場に就く、後任監督の選定についても発言権を持つ、というもの。困難な状況に置かれたローマの再建について、事実上全権を委ねられた立場である。

 興味深いのは、ラニエーリはこの半月ほど前、国営放送『RAI』のラジオ番組でローマの混迷についてコメントする中で、オーナーに対してかなり辛辣な発言をしていたこと。……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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