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オランダこそがモダンサッカー。EURO王者スペインはなぜ大苦戦したのか【UNL分析】

2025.03.28

サッカーを笑え #38

UEFAネーションズリーグ準々決勝でスペイン代表がオランダ代表を退けてベスト4に進出した。4日間で第1レグ(2-2)と第2レグ(3-3、PK戦5-4)が行われるフォーマットで90分間+120分間で決着がつかない、EURO2024ではなかった大苦戦だったことで、新しく見えてきたことがたくさんある。アップデートしておくので、みなさんが今後スペイン代表を評価する際に参考にしてほしい。次は6月の準決勝フランス代表戦である。

 2戦の分析をする前に、大きくスペインがどんなチームであるのかを一言で括っておきたい。私は「2-1で勝つチーム」だと思っている。失点はするが、それ以上に得点をして勝つ。EURO2024でスペインは史上初の7戦全勝優勝を果たしたわけだが、準々決勝ドイツ戦、準決勝フランス戦、決勝イングランド戦のスコアがいずれも2-1だった。

 また、このオランダ戦の前までのデ・ラ・フエンテ監督の通算成績28試合68得点20失点を一見すると“3-1で勝つチーム”なのだが、ジョージア、キプロス、アンドラ、北アイルランドといった弱小国との対戦成績を除くと、21試合34得点16失点と2-1にほぼなる。

 その2-1チームがオランダには勝つことができず、特に4度リードしながらも逃げ切れずに追いつかれた点に注目してみた。

 まず2試合のフォーメーションとメンバー、スコアと主なスタッツをまとめておく。

UEFAネーションズリーグ準々決勝
第1レグ
オランダ 2-2 スペイン

【得点】
9’ ニコ・ウィリアムス(ESP)
28’ ガクポ(NED)
46’ ラインダース(NED)
90+3’ メリーノ(ESP)

【ボール支配率】45:55
【シュート数】11:15
【枠内シュート数】4:6
【CK数】2:4

オランダ[4-2-3-1]

       フェルブルッヘン

ヘールトライダ V.ヘッケ V.ダイク  ハト
                 (81’ 退場)

   ラインダース   デ・ヨンク
(90+1’ ウィーファー)(73’ コープマイナース)

フリンポン  クライファート   ガクポ
       (73’ シモンズ)

         デパイ
      (84’ デ・リフト)

スペイン[4-2-3-1

         モラタ
       (66’ アジョセ)

ニコ       ペドリ      ヤマル
      (66’ オルモ)(66’ オヤルサバル)

    ファビアン   スビメンディ
   (84’ メリーノ)

ククレジャ クバルシ ル・ノルマン  ポロ
    (41’ ハイセン)

         シモン

第2レグ
スペイン 3-3(PK5-4) オランダ

【得点】
8’ オヤルサバル(ESP)
54’ デパイ(NED)
67’ オヤルサバル(ESP)
79’ マートセン(NED)
103’ ヤマル(ESP)
109’ シャビ・シモンズ(NED)

【ボール支配率】51:49
【シュート数】19:16
【枠内シュート数】9:9
【CK数】4:2

スペイン[4-2-3-1

         シモン

ミンゲサ ル・ノルマン ハイセン ククレジャ
(94’ ポロ)

   スビメンディ   ファビアン
 (106’ A.ガルシア)(84’ メリーノ)

ヤマル      オルモ       ニコ
       (84’ ペドリ) (117’ バエナ)

         オヤルサバル
        (69’ フェラン)

オランダ[4-2-3-1

         デパイ
      (101’ ブロビー)

ガクポ    クライファート  フリンポン
(78’ ラング)(78’ シモンズ)

    デ・ヨンク   ラインダース
 (106’ テイラー)(110’ コープマイナース)

マートセン V.ダイク V.ヘッケ ヘールトライダ
               (78’ マーレン)

       フェルブルッヘン

スペインはオフェンシブだがアグレッシブではない

 スペインはハイライン&ハイプレスのチームか? みなさんどう思いますか?

 不明を恥じずに言うと、モダンなサッカーとはハイプレスのサッカーであり、モダンだからこそ強い、という思い込みが私にはあった。例えば、リーガエスパニョーラの首位を走るバルセロナのサッカーである。

 よって、強いスペインもハイプレスのはずだ、と。しかし今回、本当にハイプレスのオランダと当たってよくわかった。スペインのプレスは弱い、と。

 何回か見直しているうちに、オランダの敵陣でのインターセプトの多さ、スペインのそれの少なさに気がつき、数えてみることにした。UEFAからスタッツは提供されないので、私が手計算で“敵陣での有効なプレスによって敵陣でボールポゼッションを回復した”と見えた数をカウントした結果では、第1レグはオランダ11、スペイン5、第2レグ(120分間)はオランダ15、スペイン5と、大きな差がついた。

 スペインの敵陣での振る舞いは“ボールロスト後のプレスはそこそこ”、“ボール出しへのプレスはほぼしない”。

 これはバルセロナよりもむしろアトレティコ・マドリーの方に近い。もちろんシメオネのチームを含む、プレスよりもリトリートを優先するチームすべてがそうであるように、相手のボール出し時に前に立ち塞がる程度のことはするし、特定の時間帯にサプライズのハイプレスをかけてくることもある。オランダ戦では第1レグのキックオフ直後(この時にハトのロストを誘い9分に先制)と第2レグの延長戦前半開始直後(この時に3つの敵陣でのインターセプトを果たす)がそうだった。

 こういう例外を除けば、スペインはプレスよりもリトリートを優先し、行われるプレスは「奪うためのプレスではなく遅らせるためのプレス」である。スペインがハイライン&ハイプレスだったのは前監督のルイス・エンリケ(現パリ・サンジェルマン)の就任時まで。そう思って目を閉じると、脳裏に浮かんでくるのは、“EUROでの自陣に下がって攻撃を耐える姿”ではないだろうか?

 スペインは1失点しても2点を取りに行くという点でオフェンシブではあるが、姿勢としてアグレッシブではない。敵陣で次々とボールを奪い返して相手を敵陣に釘付けにして波状攻撃を行うチームではない。

 そうではなくて、自陣に相手を引き入れてのカウンターを得意とするチームと、ここでもフリックよりもシメオネに似ている。今季のアトレティコ・マドリーは自陣でも果敢に繋ぐパス能力を持っているので、より似てきた。

2試合のハイライト動画。第1レグは3月20日にオランダ・ロッテルダムのデ・カイプで、第2レグは23日にスペイン・バレンシアのメスタージャで行われた

ロングカウンターと両ウインガーの個の力

……

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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