
泥まみれの栄光~東京ヴェルディ、絶望の淵からJ1に返り咲いた16年の軌跡~#7
2023年、東京ヴェルディが16年ぶりにJ1に返り咲いた。かつて栄華を誇った東京ヴェルディは、2000年代に入ると低迷。J2降格後の2009年に親会社の日本テレビが撤退すると経営危機に陥った。その後、クラブが右往左往する歴史は、地域密着を理念に掲げるJリーグの裏面史とも言える。東京ヴェルディはなぜこれほどまでに低迷したのか。そして、いかに復活を遂げたのか。その歴史を見つめてきたライター海江田哲朗が現場の内実を書き綴る。
第7回は、2013年、羽生英之社長(当時)の肝入りの人事として招聘された三浦泰年監督が率いるチームが転げ落ちるように低迷していく様子から、東京ヴェルディの存在価値は何であるのかを描いていく。
羽生英之社長(当時)の肝入りの人事
思い出そうとしても、記憶の底からなかなか浮かび上がってこない。東京ヴェルディが三浦泰年監督を招聘し、新たなサイクルへと入った2013年は虚しいシーズンに終わった。
成績はクラブ史上最低の13位。リーグ中盤までは守備陣の踏ん張りで持ち堪えていたが、夏場を境に失点が急増する。攻撃の姿勢に乏しく、まとまりを欠くサッカーで幕を閉じた。
不調は主にベクトルの定まらないチームづくりに起因する。新たな戦術の浸透に時間を要するのは織り込み済みだったが、それを差し引いても試合を重ねてチームが成長している実感を得られず、終盤戦はあっさりと押し切られる不甲斐ない戦いが目立った。
三浦監督の就任は、羽生英之社長の肝入りの人事だった。
2012年12月15日、東京ヴェルディのラウンドテーブルが開催され、集まった144人のサポーターを前に、羽生は次のように説明している。以下、公表されている議事録からの引用だ。
〈強化本部長でもあった川勝(良一)さんを途中辞任という形で失うことになったので、新監督は私が決めました。選手編成については基本的に私と三浦監督の2人でやっています〉
〈私が、知る限り三浦監督は今の日本の指導者の中でも、トップクラスで日本で一番いい指導者だと思っています〉
〈私が、待望した監督なので、シーズン終了後に三浦監督で良かったのかという質問が出るとすれば、責任の所在は全て私にあります。必ず彼はやってくれると思います〉
そうして、3年契約、年俸2500万円(金額は推定)というJ2では破格の好条件で迎え入れた。
胸スポンサーは埋まらず、先発8名がアカデミー出身
三浦の監督就任2年目の2014シーズン。3月2日のJ2開幕戦、飛田給駅から味の素スタジアムへ向かう一本道が緑に染まった。相手は松本山雅FCである。
東京Vは若葉の季節だ。スタメンの平均年齢は23歳。ベンチメンバーを含めると、22.56歳という若い陣容だった。ルーキーの菅嶋弘希、安西幸輝が先発し、澤井直人が控え。1年早くトップに昇格した高木大輔、故障で戦列を離れている畠中槙之輔を加えた5人は第31回全日本少年サッカー大会の優勝メンバーで、精鋭揃いと評判の95年組である。
それぞれ才気煥発、笑顔よしの若者だ。これから伸びゆく者に特有の瑞々しさ、そして鼻っ柱の強さを持つ。松本との一戦は、あらためてそれを知らしめるものだった。東京Vは開始からぶんぶん飛ばした。前線から果敢にプレスを仕掛け、攻撃に切り替わった途端、スペースに飛び出していく。息の合ったコンビネーションで局面を打開し、ゴールに迫った。先発11名のうち8名がアカデミー出身という特殊な構成の利点を存分に発揮した。だが、90分はもたなかった。後半の半ばを過ぎると足が止まり、1-3で敗れた。
新しいシーズンのスタートという晴れの日を迎えながら、ユニフォームの胸スポンサーは空白だった。J1時代は胸2億、背中1億、パンツ5000万がセールス価格。J2に落ちてもしばらくは同額で持ち堪えたが、その価値は大幅に下落し、胸を1億にディスカウントしても手を挙げる企業が現れない。
収益事業は成果を出せず、新たな試みを打ち出しても持続力に欠ける。そのシワ寄せを受け、急場をしのぐため開幕前に中島翔哉をFC東京に、吉野恭平をサンフレッチェ広島に、格安で売り飛ばすハメになった(吉野は広島からの期限付き移籍で残留)。
とはいえ、アカデミー出身者を中心に、長期スパンでチームを強化していくのは現状に即した施策に思えた。凋落は著しくも、育成組織や女子サッカーは健在である。どのクラブよりもそこに資金を投下し、普及育成に取り組んできたノウハウは最大の財産だ。東京Vから離れた指導者は言った。
「経営が苦しいと聞かされ、育成部門の指導者のサラリーは年々下げられる。その一方、上が同じように責任を取ったという話は聞かない」
12/9(火)「2014Jリーグアウォーズ」にて表彰される、2014シーズンの「最優秀育成クラブ賞」に、東京ヴェルディがノミネートされましたのでお知らせします。 http://t.co/GqdlaeHBez #verdy pic.twitter.com/gDsJCvNYbG
— 東京ヴェルディ(TOKYO VERDY)公式
(@TokyoVerdySTAFF) December 4, 2014
J2に属することに違和感をなくした時期
アカデミー出身で、チーム最年長の平本一樹は言った。……



Profile
海江田 哲朗
1972年、福岡県生まれ。大学卒業後、フリーライターとして活動し、東京ヴェルディを中心に日本サッカーを追っている。著書に、東京Vの育成組織を描いたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)。2016年初春、東京V周辺のウェブマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を開設した。