
フロンターレ最前線#14
「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達前監督の下で粘り強く戦い、そのバトンを長谷部茂利監督に引き継いで再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。
第14回では、チョン・ソンリョンから正守護神の座を奪おうとしている山口瑠伊について。連続完封劇を演出した「キャッチへのこだわり」と「セットプレーへの準備」とは?
「守備への思いが1つになっていた」開幕2試合での充実ぶり
2月半ばの初陣から、約1カ月半が過ぎた2025シーズン。川崎フロンターレはJ1とACLエリート(ACLE)の2大会を並行する日程となっており、公式戦は9試合を終えている。
成績は5勝2分2敗。特筆すべきは、わずか「4」という失点の少なさだ。現在までに複数失点は一度もない。長谷部フロンターレが取り組んでいる守備の規律が浸透し始めており、選手たちもそこを徹底していることの表れだと言えるだろう。
各ポジションに起用されている選手に目を配っても、大きな驚きはない。骨格を担っているのは昨季のレギュラー陣と言える存在であり、オフの入れ替えが少なかったことで選手間の共通理解もスムーズに進んだ印象だ。長谷部茂利監督も前任者からの流れを踏まえながらチームづくりを進めている節がある。
唯一の例外があるとすれば、GKだろう。今季、川崎Fのゴールマウスを守っているのは山口瑠伊。これまでの9試合中7試合でピッチに立ち続けてきた。そのうちクリーンシートは4。堂々たる結果で、ファーストチョイスとして序列を上げている。シーズン序盤のサプライズだったと言えるかもしれない。
山口は現在26歳。東京都生まれでフランス人の父を持ち、FC東京とロリアンの下部組織で育ったGKだ。プロキャリアは2019年に当時スペイン2部のエストレマドゥーラでスタート。Jリーグでは2022年から2年間、J2の水戸ホーリーホックで出場経験を積んだ。町田ゼルビアを経て、昨年夏に川崎Fにレンタルで加入すると、ルヴァンカップの2試合に出場。今冬に完全移籍へと移行して、名古屋グランパスとの開幕戦で記念すべきJ1デビューを飾っている。
川崎Fの絶対的守護神として君臨してきた在籍10年目のチョン・ソンリョンは健在である。しかし今季は調整に出遅れた影響もあり、プレシーズンから好調を維持していた山口にチャンスがめぐってきた。長谷部フロンターレの初陣となったACLEリーグステージ第7節(0-4)の浦項スティーラーズ戦でいきなり完封した彼を、続くJ1初戦で代える理由は長谷部監督になかったという。
「2人とも非常にいいです。今一緒に練習している4人は非常にいいんですが、ACLEで無失点に抑えました。キャンプからずっと練習をし続けて、いい状態を保っていたので出場させました」
そのまま公式戦2試合連続で無失点に抑えた山口。新たな船出となったチームとしての手応えも含め、確かな実力を示せたことは、自身にとっても大きな自信になるものだった。充実感を口にしている。
「全体的にすごく良かった。攻守ともに自分たちがキャンプでやってきたサッカーを表現できた。GKとしてすごくうれしいし、大事になってくると思うので、このまま無失点にこだわってやっていきたい。切り替えのところ、DFラインの安定から、守備に対しての思いが1つになっていた。長谷部さんの指示をしっかりと聞いて、ピッチで表現できました」

コンスタントに出場して試合勘が研ぎ澄まされていくと、GKとしてのパフォーマンスも高いところで安定するようになっていくものだ。それを証明したのが、直近の2試合となるACLEラウンド16第2戦の上海申花戦(4-0)とJ1第6節ファジアーノ岡山戦(0-0)である。山口にとって周囲からの信頼を勝ち取るに値する出来だと言っても過言ではなかった。
「自分たちの時間を長く」上海申花戦で体現したこだわり
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Profile
いしかわごう
北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago