
新・戦術リストランテ VOL.59
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第59回は、もはやスタメン11人全員が移民系選手となったフランス代表に抱く、1995年から98年まで首都パリに在住していた西部氏の複雑な思いについて。
移民の子供たち
UEFAネーションズリーグのベスト4が決まりました。スペイン、フランス、ドイツ、ポルトガル。準々決勝の2試合はPK戦での決着(スペインvsオランダ、フランスvsクロアチア)、1試合が延長決着(ポルトガルvsデンマーク)という際どい勝負。ただ、結果は前評判通りという感じでしょうか。
第1戦を0-2で落としていたフランスでしたが、さすがにホームは強かったですね。52分にオリーセのFKで合計1点差に迫り、80分にはオリーセのプルバックをデンベレが決めて2-0(2試合合計2-2)。延長で点は入らずPK戦での勝ち抜けでしたが、ほぼ一方的な試合展開でした。
1ゴール1アシストのオリーセは、この活躍でグリーズマンを継ぐ存在になっていくのかもしれません。
Olise's first international goal was a beauty
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— UEFA EURO (@UEFAEURO) March 25, 2025
@dembouz, le but qui relance tout
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フランス代表はクリエイティブなMFがいる時に強い。1958年W杯で3位になった時のコパ、次の3位(1986年)はプラティニ、初優勝の1998年はジダン。2度目の優勝となった2018年はグリーズマンとポグバです。
W杯優勝2回、欧州選手権優勝2回。W杯はロシア大会、カタール大会と連続で決勝進出していて、すっかり世界の強豪国となりました。ただ、98年に初優勝するまではドイツやイタリアのような強豪ではありませんでした。
フランスが強くなったのは移民のおかげです。
第一期黄金時代の中心選手だったコパはポーランド移民の子、フォンテーヌはアルジェリア出身。第二期のプラティニの祖母はイタリア人、ティガナはマリ共和国、トレゾールはグアドループ出身。この80年代は黒人選手が加わっていました。
もともとフランスは移民の多い国です。先住民族以外全部移民の米国ほどではありませんが、国境を接している国が多く、旧植民地もあり、多くの移民が暮らしています。ただ、90年代以降の第三期はそれまでとは性質も規模も異なる大変化でした。アフリカからの移民が一気に増えたからです。
98年は「移民の子供たち」のチームと言われましたが、アフリカ系はジダン(アルジェリア)とデサイー(ガーナ)くらいです。しかし、国内リーグに関しては選手の半分以上が移民系でその半分はアフリカ系になっていたと記憶しています。
今回のクロアチア戦(第2戦)の先発メンバーはほぼアフリカ系です。テオ・エルナンデスはスペイン系で、メニャンはフランス領ギアナ生まれで母親がハイチ人なのでアフリカとは関係ありませんが、あとは全員アフリカルーツ。いずれにしても、先発メンバーの100%が移民の子供たちです。
個の能力と結束力のジレンマ
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。