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ゴールに飢えて、ゴールを取る。帰ってきた9番、アルビレックス新潟・矢村健が取り戻した“自分らしさ”

2025.03.26

大白鳥のロンド 第21回

逞しくなって帰ってきた9番が、J1の舞台でも結果を残しつつある。J2で2桁得点も記録するなど、飛躍の時間となった藤枝MYFCでの2年間にわたる武者修行を経て、再びオレンジのユニフォームを纏った矢村健に対する期待感が、日に日に増していることは間違いない。今年でプロ6年目。アルビレックス新潟でのブレイクを誓うストライカーが過ごした雌伏の時を、野本桂子が振り返る。

エースに成長した藤枝MYFCでの時間を経て3年ぶりに復帰

 いつだって、ゴールに飢えている。

 「フォワードは結果がすべて。トップクラスが集まるリーグで、どれだけゴールを取れるかは挑戦でもあります。ゴールに飢えて、ゴールを取る。それが、自分の中の9番の理想像。泥臭く、守備にも走れるような存在でもありたい」

 3年前よりもギラつきを増した矢村健は、初挑戦となるJ1リーグの舞台で活躍を誓う。

 藤枝MYFCへの2年間の期限付き移籍を終え、今季、アルビレックス新潟へ帰還した。2023年は28番を背負って9得点。2024年はレンタル選手ながら9番を託された中で16得点を挙げ、J2年間最優秀ゴール賞も受賞した。

 「チームの順位(13位)はプレーオフ圏内に入ることもできなかったので、悔しさが残るシーズンではありました。でも、新潟に戻ってこられるような結果を残せたことは、今思えば良かったですし、充実していたのかなと思います」

 復帰にあたり、寺川能人強化本部長からの提案で、新潟でも9番を背負うことになった。

 出場機会を求めて移籍を決断したのは、プロ3年目の終わり。新潟がJ1昇格を決めた2022年のことだった。「昇格は誰もが味わえることではないので、経験できたことは良かったです。でも自分の中で、FWらしさが薄れかけていると感じていたので、このままJ1に行っても同じ壁にぶつかるなと思って。テラさん(寺川強化本部長)も、賛成してくれました。僕をスカウトしてくれたのはテラさんですし、“本来の自分らしさ”を理解してくれている方なので、同じ考えだったのかなと思います」

 常にDFと駆け引きしながら背後を狙い続け、形にこだわることなくゴールを奪う点取り屋。それが、矢村にとって“本来の自分らしさ”だ。

きっかけはトップチーム相手のハットトリック

 記者にとってのファーストインパクトは、2018年7月1日。矢村が新潟医療福祉大3年だった夏のことだ。この日、J2に降格して1年目の新潟は、気温33℃を超えるデンカスワンフィールドで医福大と練習試合を行った。

 炎天下での45分×2本。前半のうちに新潟の端山豪と小川佳純が得点。後半6分にも新潟U-18の練習生が1点を追加し、新潟は3-0とリードに成功していた。

 しかし、そこで虎視眈々とゴールを狙い続けていたのが、矢村だった。CKから1点返したのを皮切りに、新潟のバックパスのミスを逃さず追加点。さらにPKを獲得すると、これを決めて3-3。怒涛のハットトリックで追いついてみせたのだ。

 それから1週間後の7月8日。練習生として、矢村がやってきた。

2018年7月8日、練習参加初日での矢村。挨拶に来ているのは市立船橋高校の後輩・原輝綺(Photo: Keiko Nomoto)

 当時、強化部でスカウトをしていた寺川氏から招かれての練習参加だった。7月30日には、新潟の一員として朝鮮大との練習試合に出場し、3-0の3点目を奪った。8月12日、新潟の一員として出場した明海大との練習試合では、負傷した加藤大に変わって緊急出場すると、得点ならずもシュートをどんどん打っていた。9月9日、今度は医福大の選手として新潟との練習試合に臨むと、0-1の劣勢から同点に追いつくゴールを決めている。

 見るたびにシュートを打っているし、高確率で点を決めている選手。それが矢村の印象だった。するとオフ明けの9月12日、2020シーズン新加入内定とJFA・Jリーグ特別指定選手認定が発表された。

 矢村は大学でも結果を出し続けていた。この前年、北信越サッカーリーグ22試合で28得点を挙げ、得点王&MVPになっていた。そこから卒業まで、3年連続でMVPに選ばれ続けた。

2018年9月9日、アルビレックス新潟vs新潟医療福祉大の練習試合での矢村(Photo: Keiko Nomoto)

思うような結果を残せなかったプロ入り後の2年間

 しかし、念願のプロ生活は、順風満帆ではなかった。……

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Profile

野本 桂子

新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。現在はアルビレックス新潟のオフィシャルライターとして、クラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。

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