
VIER-DRIE-DRIE~現場で感じるオランダサッカー~#14
エールディビジの3強から中小クラブに下部リーグ、育成年代、さらには“オランイェ”まで。どんな試合でも楽しむ現地ファンの姿に感銘を受け、25年以上にわたって精力的に取材を続ける現場から中田徹氏がオランダサッカーの旬をお届けする。
第14回は、今季から指揮を執ったヘーレンフェーンをわずか7カ月で離れ、2月からフェイエノールトの再建を託されているロビン・ファン・ペルシー“監督”の手腕について。41歳の新米監督が貫く超攻撃的志向は勇敢か、それとも無謀か――気になる評価を探ってみよう。
ロビン・ファン・ペルシー率いるフェイエノールトは3月16日の第26節、トゥエンテとのアウェイゲームで2-6の勝利を収めた。上田綺世は2ゴール、イゴール・パイションがハットトリックとFW陣が本領を発揮した上、18歳の右SBジバイロ・リードが3アシストを記録。攻守の噛み合ったサッカーに、2月から再建を託されたファン・ペルシー監督の評価はうなぎのぼりだ。
しかし彼は今季、初めて指揮官としてエールディビジの舞台に立ったばかり。ここで一度、ファン・ペルシーが7カ月間、従事したヘーレンフェーンの今季を振り返っておこう。
ヘーレンフェーンがファン・ペルシーを招へいした理由
ヘーレンフェーンがアヤックス相手に見せた今季開幕戦のキックオフ。それは彼らがこれからの1年間、どのようなサッカーを披露するのかという、ファン・ペルシー新監督のプレゼンテーションだった。
昨年8月11日、アヤックスのホーム、ヨハン・クライフ・アレーナに乗り込んだヘーレンフェーンは12秒、GKミッキー・ファン・デル・ハルトからビルドアップを始動。CBサム・ケルステンから楔のパスを受けたFWダニエル・カールスバックが、右SBデンゼル・ハルにボールを繋ぐとサイドアタックが炸裂。右ウイングのダニーロ・アル・サード、カールスバック、ハルと素早いシュートパスで右ポケットを攻略してから、クロスを入れてアヤックスゴール前でカオスを作ったが、惜しくもシュートを打つまでに至らなかった。
この時スタジアムのオーロラビジョンが示したのは00:35。23秒間のアタックに、2024-25シーズンのヘーレンフェーンの魅力が凝縮されていた。
アヤックスには0-1で惜敗したものの、その飽くなき姿勢に「今季のヘーレンフェーンは面白そうだ。強豪相手に敵地でもどんどんショートパスをつないでくる」と、ファン・ペルシ率いるヘーレンフェーンに、オランダのサッカーファンは好意的だった。
昨季のヘーレンフェーンは11位という冴えない結果に終わった上、「ケース・ファン・ウォンデレン監督(現シャルケ)が率いるチームは、サッカーそのものがつまらない」と散々な言われように。その象徴が第33節、シーズン最後のホームゲームのフィテッセ戦だった。
良いシーズンも悪いシーズンも、その1年間の最終戦は試合後、選手とファンがお互いを称え、労う場である。このフィテッセ戦は、PSV戦(2万4500人)、フェイエノールト戦(2万4289人)、アヤックス戦(2万4150人)に次ぐ2万3720人の観衆でアベ・レンストラ・スタディオンはあふれ返った。しかし最下位のフィテッセに1-3で敗れ、直近のホームゲームで1分4敗と不甲斐ないチームに対し、温かい心で知られるヘーレンフェーンのサポーターもしびれを切らし、試合が終わると一斉に家路に着いてしまう。こうしてファン・ウォンデレン監督はまるで無観客試合のような雰囲気の中、シーズン最後の感謝とクラブを離れる惜別の気持ちを伝えるスピーチをした。
だからこそ、ファン・ペルシーの監督就任はヘーレンフェーンにとって大きなインパクトがあった。2019年に33歳の若さで引退したオランダサッカー界が誇る名ストライカーは、2020年春からフェイエノールトのコーチングスタッフ入りし、昨季はU-18&U-19チームの監督としてジバイ・ゼヒエル(現スパルタ)、アントニ・ミランボ、ゼピケノ・レドモンドなど、錚々たるタレントを育てた。しかしフェイエノールトの首脳陣が、リバプールに引き抜かれたアルネ・スロット監督の後継者を外部から招く方針であることを知ると、かつてのチームメイトだったフェリー・デ・ハーンが社長を務めるヘーレンフェーンの誘いに乗った。
ホームとアウェイで別のチームに。軽視しすぎたリスク管理
就任会見でファン・ペルシーは宣言した。……



Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。