
GMが描くJクラブ未来地図#6
西村卓朗(水戸ホーリーホックGM)後編
若手を中心に多くの日本人選手の目が「外」に向き、世界的な移籍金のインフレ傾向に円安も重なり外国籍選手獲得のハードルも上がる――今のJクラブの戦力編成の難易度はかつてないほど高まっており、中長期の明確なクラブ戦略なしでチーム力を維持・向上させていくのは不可能だ。今連載では、そのカギを握る各クラブのGM/強化部長のビジョンに迫りたい。
第5&6回は、2016年に水戸ホーリーホックの強化部長、その後、19年からGMを兼ねることでクラブ経営を全般まで見渡しながら、チームとクラブの強化に尽力してきた西村卓朗GMにご登場いただく。後編では、今季のJ1において水戸で指導経験のある監督が4人も指揮している現状を踏まえ、彼らが力を付けられた理由について西村氏の考えを聞いた。
大事な3つポイント「新たな人材」「用意した守備」「会話の多さ」
――今季、J1で元水戸の指導者が4人指揮を執っています。この状況をどのように受け止めていますか?
「岡山の木山隆之監督に関しては、私が水戸に来る前に監督をしていた方なので、自分が多くのコメントをすべきではないと思います。他の3人(長谷部茂利監督、秋葉忠宏監督、樹森大介監督)に関して自分が感じたことは、大前提として、監督としての資質を各々が持たれているのだと思います。そのうえで水戸での経験がどのように影響したかを本人たちに聞いてみたい思いはあります。ただ、この状況を生み出した要因の一つは監督人事に対してクラブがチャレンジしているからだと考えています。このような前提があり、もしかしたら木山さんも水戸ホーリーホックで監督の機会を得たのかも知れません。監督として実績のある人よりも、まだトップチームの監督として実績のない新しい人、もしくは、まだ成果はあげていないけど、そのような資質を持っている人を意図的に選ぼうとしていることが影響していると思っています。水戸ホーリーホックの行動指針には『挑戦』『前に踏み出す』という言葉があります。その言葉通り、前に踏み出した判断や決断が現状につながっているように捉えています。
2つ目は、我々が監督と契約する際、守備のやり方を提示していることが挙げられると思っています。チーム作りに取り組む際、攻撃と守備に分かれます。そのうちの守備に関してはある程度、クラブから提示しているので、よくも悪くも変数となるものが少ない。監督としては、すべてを丸投げされたわけではないので、理解さえしてもらえれば取り組みやすい状況があると思います。それがひとつの要因になっているのではと思っています」
――長谷部さんも秋葉さんも提示した守備を忠実に体現してくれましたか?
「長谷部さんは忠実にやってくれました。失点は非常に少なかったです。秋葉さんのときには失点が増えてしまいました。ただ、型がある中でのバランスの微調整の問題であり、まったく違うことをやったわけではないんです。むしろ、2020年にJ2リーグで最多得点のチームを作ったことは、水戸のイメージを変えるきっかけを作ってくれたと思っています。前述の通り、水戸の守備のプレーモデルの原点は柱谷体制時代に築かれました。その時に秋葉さんはコーチとして水戸にいたので、ある程度ベースを理解した上でチーム作りを行ってくれていました。だから、そんなにズレはありませんでした。長谷部さんにもやりたい守備の仕方はあったと思いますが、プレシーズンからキャンプのときに『こういう守備をしてほしい』とはっきりと伝えました。理解して体現してもらうのにはもっと時間を要すると思っていましたが、すぐにフィットしてくれました。結果的に初年度の安定感につながったと思っています。
【新体制発表会見】長谷部監督の挨拶です。 #mitohollyhock pic.twitter.com/H8SI5VkdMH
— 水戸ホーリーホック (@hollyhock_staff) January 20, 2018
そして、3つ目は監督とのコミュケーション量の圧倒的な多さだと思っています。ほかのクラブと比べることは難しいですが、監督との会話量はおそらく多いと思います。オフの期間は選手編成にもかなり濃く関わってもらいますし、1日の中で電話を何度も、何度もしながら正確にニュアンスを掴むことを心がけています。シーズン中は強化目線で監督を評価する指標を明確に伝えています。もちろん、結果を第一に評価しますが、その手前のところの人選、采配、交代、マネジメントもしっかり見ていくということを伝えています。特にマネジメントに関しては、選手、スタッフの感情のマネジメント、つまりはピープルマネジメントと日々の業務のワークマネジメントについて見ています。ただ、ピープルマネジメントの領域に関しては、自分もかなり請け負うようにしています。それももしかしたら、水戸で監督業、サッカー面に集中してもらう手助けになっているかもしれません」
樹森コーチ(当時)の引き抜きは「育成年代の指導者に対する好事例」
――長谷部さんは成功例だと思いますが、水戸を離れたあとの長谷部さんをどのように見ていますか?……


