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超過密日程、没収試合を乗り越えて…「今季随一の熱闘」広島対柏戦で心に宿った希望

2025.03.19

サンフレッチェ情熱記 第22回

1995年からサンフレッチェ広島の取材を開始し、以来欠かさず練習場とスタジアムに足を運び、クラブへ愛と情熱を注ぎ続けた中野和也が、チームと監督、選手、フロントの知られざる物語を解き明かす。第22回は、ACLの超過密日程に加えて6-1で大勝したゲームが没収試合で0-3の黒星になるというショック……。様々な困難を乗り越えて臨んだ柏レイソル戦の大激闘で心に宿った希望について語りたい。

 これぞ、サッカー・エンタテインメントと言っていい。

 技術、戦術、知性、闘志、発想が盛りだくさん。2万5238人の観客・サポーターは熱狂し、歓喜と落胆を繰り返し、そして最後は拍手で選手たちを讃えた。意図と深みのある監督の采配、さらに適切な判断でゲームをコントロールした審判団も含め、今季のJリーグの中でもトップクラスと言っていい面白さを表現したのが、広島と柏。今季のJリーグでも開幕から好調を維持しているチーム同士の戦いだった。

約1カ月で8試合、ACLによる超過密日程

 筆者は広島を追いかけている身なので、まず紫側が抱えていた試合前の事情を簡単にさらっておきたい。

 2月8日〜3月5日の約1カ月で8試合という超過密日程には、ベトナム・ナムディン市への約10時間×2という長距離遠征まで加わっている。しかも、試合後はシャワーも浴びずにバスに乗り、約2時間の距離をハノイまで走らないといけないという過酷さだ。

 12日のACL2第2戦は中6日となったが、選手たちに与えられた休息はほとんどない。すぐにシンガポールまで移動して現地で練習し、気温30度・湿度70%という高温多湿な気候に対する暑熱馴化を行った。そして試合後はすぐ、シンガポールから約8時間かけて広島に戻り、中3日での柏戦に備える。試合翌日に移動、そして疲労を癒やすため、休日を2日入れる必要があった。トレーニングができたのは試合前日の1日だけという状況だ。

 「それは、事前にわかっていたこと」という批判もよく聞く。「だから、準備しておけばいい」と。

 準備とは何か。

 「例えば、ターンオーバーとか」

 広島はかつて、森保一監督時代も城福浩監督時代でも大型連戦を経験し、ターンオーバーで乗りきろうとしたことがある。しかし、あまりうまくいった実績はない。

 連戦の問題は、選手たちの疲労もさることながら、強度の高いトレーニングがやり辛いことも大きなポイントとなる。城福監督時代には選手たちの疲労を考慮し、ウオーミングアップのような軽い運動の他は、立ち位置の確認だけを行ったこともあった。どうしてもコンディショニングが優先となり、強化や成長のための練習ができなくなる。

 また、ターンオーバーを実行するとチームは2つに分かれてしまいがちになり、一つのチームが遠征に行く一方で、もう一つのチームがホームに居残って調整する形となるケースがほとんどだ。そうなると、トレーニングも別々にならざるを得ず、例えば紅白戦で戦術を確認したり、監督・コーチが調子のいい選手を見極めたりすることも難しい。

 「2チーム分をつくる」という発想をよく聞くが、それも多くの場合はうまくいかない。どういう編成にしようとも「主力組」と「サブ組」に分かれるのがサッカーの宿命だ。「リーグ戦組」と「カップ戦組」に名前を変えても、同じこと。どうしても「リーグ戦組」以外の選手たちはモチベーションが下がってしまう。そしてそれが、チームの不協和音につながりかねない。人間の集団である。簡単に割り切れるはずもない。

 そもそも「想定できたこと」と「問題が解決できる」とは、全く別問題だ。移動や連戦による疲労は、数学で言うところの定数。努力ではどうしようもない部分である。つまり、広島は柏戦の前にどうにもならない「ハンディ」を負っていた。それが、現実だ。

没収試合のショック。だが、柏戦前日に変化が…

 さらに紫のチームは、想定外の衝撃を受けることになった。

 3月5日のACL2準々決勝第1戦、広島はライオン・シティ・セーラーズ(シンガポール)とホームで戦い、6-1と粉砕。しかし、この試合で途中出場したヴァレール・ジェルマンが2024年2月22日に行われたAFCカップ決勝(マッカーサーFC対セントラルコースト戦)で3試合出場停止処分を受けていたことが後に判明し、「出場資格のない選手を出場させた」としてAFCは没収試合と判断、0-3で広島の負けと結果を変更した。

 この件についてクラブは当初、「今回の事案について確認が不十分であったため、出場停止対象者を出場させてしまったことについて、皆様に多大なご心配、ご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」とコメント。ところが柏戦後に行われた会見で「全てがクラブの責任であると認識しているのですか」という質問に対し、久保雅義社長は「そこも含めて、あらためて事実確認を行っています」と答えている。

 この「出場停止処分」という情報が、明確にオープンにされていたのか、という不可思議さがどうしても残る。ジェルマンの記憶もはっきりしているわけではなく、Aリーグや彼が所属していたマッカーサーFCからの申し送りもない。そもそも試合後のイザコザに端を発したもので、試合中に彼がレッドカードを受けたわけではないから、公式記録にも残っていない。

 ジェルマンが2月27日に行われたAリーグの試合で2試合出場停止処分を受けていたことは、AリーグやマッカーサーFCから広島もJリーグも情報として受け取っていた。だからこそJリーグは「横浜FC戦と柏戦は出場できない」とジェルマンの処分がJリーグに引き継がれることを発表。そして「ACL2には出場できる」ともリリースしている。この時点で、AFCカップの情報がクラブはもちろん、Jリーグ側にも入ってきていないことは、明白だ。

 ACL2準々決勝に向けて提示される出場停止選手リストにもジェルマンの名前はなく、試合前のマッチコーディネーション・ミーティングで確認しても、マッチコミッショナーらは「問題ない」と語ったようだ。それが試合後に突然、ジェルマンの出場資格問題が浮上し、あっという間に没収試合となってしまった。

 クラブの確認不足と言われているが、この時のAFC側の処分は公式サイト等で調べても、検索エンジンにはひっかかってこない。血眼になって探してようやくPDFファイルを見つけ、事実であったことはわかった。だが、マッカーサーFCの公式サイトには全く情報はなく、オーストラリアのメディアがこの問題を伝えた形跡も、筆者が見た限りは見つからない。この問題を最初に報道したのはシンガポールのジャーナリストだが、その調査能力は本当に凄いと脱帽するしかない。

 ライオン・シティ・セーラーズ側も状況は理解している。試合前の会見でアレクサンダル・ランコヴィッチ監督は「この方法で優位に立つことを望んでいたわけではない。純粋にスポーツの観点から言えば、公平なのか? いいや、違う。はっきり言っておくが、私はこの件を喜ばしく思っていない」と語った。また試合後も「相手の監督が気の毒だ」と言及。広島が出場停止処分を知りながらヴァレール・ジェルマンを起用したわけではなかったことを彼らは理解していた。

前日会見でのランコヴィッチ監督(写真1枚目)

 AFCからは「クラブが把握しておくべき事案」という言葉があったと聞く。AFC側に直接問い合わせして、確認するべきだったかもしれない。昨今のACLエリートの状況を見れば、なるほどとは思う。

 ただ、果たして事前に確認したとして、AFC側が正しい情報を把握していたか、そこも疑問だ。……

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Profile

中野 和也

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルート・株式会社中四国リクルート企画で各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年からサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するレポート・コラムなどを執筆した。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。以来10余年にわたって同誌の編集長を務め続けている。著書に『サンフレッチェ情熱史』、『戦う、勝つ、生きる』(小社刊)。

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