
おいしいフランスフット #14
1992年に渡欧し、パリを拠点にして25年余り。現地で取材を続けてきた小川由紀子が、多民族・多文化が融合するフランスらしい、その味わい豊かなサッカーの風景を綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第14回(通算172回)は、昨夏25歳(当時)にしてフランス・リーグ2(2部)のクラブ、スタッド・マレルブ・カーンのオーナーとなった、キリアン・ムバッペのもう一つの冒険について。
レアル・マドリーに移籍して以来、フランスのスポーツニュースで聞く機会が減っているキリアン・ムバッペの名前が、久々にトップニュースに上がった。
3月13日にディディエ・デシャン監督が発表した、来たるUEFAネーションズリーグ準々決勝のクロアチア戦(20日、23日)に臨むフランス代表のメンバーに、ムバッペが復帰したのだった。
ムバッペは昨年10月、11月と、2回続けて招集を見送られていた。10月は左腿の負傷が理由に挙げられ、11月はムバッペが、その10月の代表ウィーク中にストックホルムを訪れた際に、レイプ容疑で捜査対象になっているという話題が持ち上がったことを受けての対応だった(のちに事実無根とされた)。
ただ、10月の代表ウィーク前後もレアル・マドリーでは試合に出ていたし、11月の件もスウェーデンの警察や司法当局は、ムバッペがレイプ被害の訴えの対象となっているかについてさえ明らかにしていないという実に曖昧なものだった。
なのでフランスのサッカーファンの間でも、ウーゴ・ロリス(ロサンゼルスFC)の代表引退後レ・ブルーのキャプテンを拝命していたムバッペの扱いについて、なんとなく釈然としない感じが続いていたのだが、今回デシャン監督は「彼がキャプテンを務める」と発表会見の席で明言。
23日の第2戦では、2023年6月のEURO予選ギリシャ戦以来、1年9カ月ぶりにスタッド・ドゥ・フランスのピッチにムバッペが立つだろうから、レアル・マドリーでゴールを連発している彼がレ・ブルーでどんな活躍をしてくれるかに期待が集まりそうだ。
カーンとは?ムバッペとの縁、魅力、3部降格危機の今
と、そんなムバッペについて、この代表戦のニュースの少し前にも心温まる話題があった。現在リーグ2の最下位で苦戦しているカーンを訪問したことだ。
ムバッペは昨年7月、自身が所有する投資ファームを通じて、カーンの筆頭株主だったアメリカの投資会社『Oaktree』から80%の株を取得。正式にクラブのオーナーとなった。
なぜカーン?という疑問が湧くが、カーンは状況が違っていれば、ムバッペの出身クラブになっていたかもしれない縁のある場所だった。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。