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ランス3兄弟の連係弾に“ペナルティゲート”も伏線回収した「胸アツ」のフランス杯4強入り

2025.03.03

Allez!ランスのライオン軍団 #8

大好評のスタッド・ランス取材レポートが連載化! 伊東純也、中村敬斗、関根大輝の奮闘ぶり、欧州参戦を目指す若き獅子たちの最新動向を、現地フランスから小川由紀子が裏話も満載でお届けする。

第8回は、リーグ戦5連敗、13試合未勝利(5分8敗)の渦中で「この1勝は僕らの中ではめちゃくちゃでかい」(中村)、37年ぶりのベスト4進出を決めたフランスカップ準々決勝アンジェ戦の舞台裏をお伝えしたい。

 8日間で3試合、しかも全戦アウェイ。スタッド・ランスは、そんな過酷な連戦を終えた。

 結果は、古橋亨梧が所属するレンヌ(●1-0)、そして南野拓実のモナコ(●3-0)と、日本人選手所属チームと対戦した両リーグ戦は敗戦。その間に行われたアンジェとのフランスカップ準々決勝は、1-1で90分を終えた後、3ラウンド連続となるPK戦でまたも勝利をもぎ取り、ベスト4入りを決めた。

 伊東純也、中村敬斗、関根大輝のランス3兄弟と南野が先発出場し、フランスリーグ史上初めてピッチに4人の日本人が並んだ2月28日のモナコ戦は、この冬のメルカートで加入したデンマーク人FWミカ・ビエレスが、なんと移籍後3回目のハットトリック達成。南野も、先制点の起点になったり、ランスが敷いたブロックの中でシンプルにボールをはたいてカウンターのチャンスを生み出すなど、効果的な働きでホームチームが圧勝。

 試合後、伊東純也も「今回はまあ、切り替えるしかない」と、すぐに次戦へ視線を向けたのだった。

モナコ戦のハイライト動画。リーグ1では第24節(全34節)を終えて5勝7分12敗・26得点38失点、昇降格プレーオフ行きとなる16位と勝ち点2差の15位(全18チーム)に沈んでいる
試合後スタッド・ルイⅡのミックスゾーンで(Photo: Yukiko Ogawa)

 ということで今回は、劇的なクライマックスで準決勝進出をつかんだアンジェとのカップ戦と、この試合の裏側にあったサイドストーリーを中心にお届けしようと思う。

「俺が一番ドキドキしてた(笑)」伊東のPKリベンジ

 2月25日、アンジェの本拠地スタッド・レイモン・コパで行われたフランスカップ準々決勝は、伊東、中村、関根の3人がそろって先発出場した。

 前半は関根が右サイドから積極的に仕掛け、2トップに並んだ伊東と中村がシュートチャンスをうかがったが、ホーム勢も奮戦して0-0で終了。後半は相手が攻め方を変えてきたこともあり、関根はより守備に奔走する時間が長くなったが、そんな中で関根が得た突破のチャンスから待望のゴールが生まれた。

 右サイドからの伸びやかなクロスにぴったり頭で合わせて押し込んだのは中村。そしてニア側では、しっかり伊東も飛び込んで相手ディフェンスを引きつけていた。

 終盤の79分に決まった、値千金の先制点。あとはこのまま残り10数分を逃げ切るのみ……と思ったが、ここ最近ランスを取り巻いている不運は、やはり彼らを楽には勝たせてくれなかった。

 アディショナルタイムもあと数秒、というところで、アンジェが中盤から長いボールを送り込み、ゴール前での混戦からポロッと弾かれたボールがネットに。

 狂喜乱舞するアンジェ陣営に、愕然とするランスの面々……。その後まもなく、後半終了のホイッスルが鳴った。

アンジェ戦のハイライト動画と、クラブ公式YouTubeが公開した舞台裏映像

 「いや、最悪でしたね、雰囲気的には……。絶対守り切って1-0で終わろうと思ってたのに……」

 伊東も試合後、この時の心境をそう振り返っている。

 劇的な同点弾で追いついたアンジェは、当然ながらイケイケモード。しかしその流れをぶち切るかのように、会場を黙らせたのは、またも最初のキッカーに名乗り出た中村だった。

 「PKキッカーは絶対1番で行こうと思ってて、絶対決めて流れをつかんでこようと思ってたんで」

 ボールを蹴る前、軽くリフティングなどして余裕をかまして相手GKを煽ったという強心臓の中村は、「GKは必ず左右のどちらかに飛ぶ」というデータ分析に賭け、「イチかバチかなんですけど、1発目決めたいなと思って真ん中にぶち込みました」。

 そして見事成功。手を耳に当てて、相手サポーターを挑発する。

 アンジェも1番手のセネガル代表FWバンバ・ディエンが決めたが、ランスは1月のU-20南米選手権に優勝して自信に満ちあふれたU-20ブラジル代表MFガブリエウ・モスカルドが2番手で成功。

 その後アンジェ2人目のシュートは、守護神イェバン・ディウフが見事にセーブする。ランスは3人目の19歳ノア・サンギもクールに仕留め、3-2となったところで登場したキッカーが、伊東だった。

 前ラウンドのブルゴワン・ジャイユ戦で外した時も4番目。リードしている側、という状況も同じ。映像で見ていた人たちもドキドキして見守っていたと思うが、「俺が一番ドキドキしてた(笑)」という伊東。……

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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