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一般席で3万円?プレミアのチケット高騰問題、頭抱える地元ファンに“凍結”の朗報

2025.03.01

Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #14

プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第14回(通算248回)は、来季の観戦チケット料金発表の時期、近年の値上げラッシュで懐が苦しい地元サポーターの実情と、歓迎したい「価格凍結」の知らせについて。

30ポンドは少数派、19クラブが昨季から値上げ

 イングランドは、冬全開。空は低く灰色で、気温もせいぜい5、6度。そう書き始めていると、仕事部屋のスピーカーで鳴らしているストリーミングで『Pray for Rain』が流れてきた。米国ニュージャージー州生まれのウォルター・トラウトによるブルースだが、ここ英国のロンドンは「雨乞い」など不要の毎日だ。

 試合会場では、「太陽が見たい」「暖かいところに行きたい」といったぼやきが、英国人記者たちとの挨拶代わり。2月半ば、熊谷紗希のホームデビューを取材に訪れた、ロンドン・シティ・ライオネス対サンダーランド・ウィメン(女子2部)の試合当日も、午後2時キックオフながら手がかじかみ、“キーボードヒーター”付きラップトップが欲しい気分だった。手を温める目的も兼ねてハーフタイムに頂戴した紅茶も、後半開始数分でアイスティーになってしまった。

 そんな真冬にも歓迎できる「凍結」が、観戦チケット価格の据え置きだ。インフレが続く国内では、生活費がかさむ一方。特に光熱費の値上がりは著しい。狭い我が家の電気ガス代も、この3年間で毎月106ポンド(約2万円)から157ポンド(約3万円)へと上がった。そして、サッカーが日常生活の一部と化しているこの国では、庶民の家計における“情熱費”にも同じことが言える。

 まだ、30ポンド(約5700円)前後で観戦チケットが買えるクラブは、今季のプレミアリーグにもある。だが、それは少数派で、昨季から値上げなしのクラブはクリスタルパレスのみ。高くても、感覚的に日本でいう「1万円以下」に近い「50ポンド以下」で観戦できるクラブは、イプスウィッチとボーンマスしかない。

 チケットの高さで知られるアーセナルは、最高でチケット1枚141ポンド(約2万6800円)。トッテナムとウェストハムも、やはり6万人収容規模の“ホーム”でありながら、正規の値段で1枚100ポンドを超える。ちなみに、観戦チケット価格の今季トップは、ビッグクラブには数え入れられないフルアムの1枚160ポンド(約3万円)となっている。……

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Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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