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PSG以上の存在に?ユニフォームはルイ・ヴィトン?あの世界一の大富豪がレッドブルと組んでパリFCを買収!

2025.02.16

おいしいフランスフット #13

1992年に渡欧し、パリを拠点にして25年余り。現地で取材を続けてきた小川由紀子が、多民族・多文化が融合するフランスらしい、その味わい豊かなサッカーの風景を綴る。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第13回(通算171回)は、華の都パリでまたも革命が始まる……あのLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループとレッドブル・グループの参入によって、フランス2部の“本家”首都クラブでいったい何が起こるのか?

パリダービー実現へ、LVMHアルノー家の野望

 今フランスのサッカー界では、パリFCに熱い視線が注がれている。ここ数年、リーグ1に昇格できそうでできない位置にいる、パリを拠点とするリーグ2所属のクラブだ。

 そのパリFCに昨年11月、ビッグな、超〜ビッグな経営陣が参画した。一つはザルツブルクやライプツィヒなど、欧州でも複数のクラブを運営するお馴染みレッドブル・グループ。そしてフランスでNo.1、世界でもトップクラスの財力を誇る大富豪アルノー一族だ。

 ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、モエ・エ・シャンドン、ヘネシーなど、数々のラグジュアリーブランドを総括するLVMHグループのオーナー一族である。

 彼らのグループ企業アガシュ・スポーツが52.4%、レッドブルが10.6%の株を取得し、アルノー一族がパリFCの筆頭株主となった。これまで筆頭オーナーだったピエール・フェラッチ会長も、引き続き30%程度の株を保有し、そのまま会長職を継続している。

 LVMHの会長兼CEOであるベルナール・アルノー氏は大のサッカー好きで知られていて、過去にはACミランの買収に乗り出したこともあったようだ。パリFCの実務に携わるのは息子のアントワーヌ・アルノー氏で、彼は少年時代からのパリ・サンジェルマン(PSG)サポーターであることを公言している。

 「12歳の頃からサポーターで、年間パスを持っていたことも何度かある。今でも思いは変わっていない。だからこれからも両クラブをサポートするだろう。年に2回の対戦の時だけは別だけどね」

中央がベルナール・アルノー氏(75歳)、右端がアントワーヌ・アルノー氏(47歳)。米誌『フォーブス』が発表した2024年版の「世界長者番付」で、アルノー一族は2年連続1位に君臨している

昨年11月20日に行われた記者会見で、アントワーヌ氏とパリFCのフェラッチ会長

 第22節終了現在(全34節)、パリFCはリーグ2の2位につけているから、来シーズン昇格する可能性は十分にある。そうすれば30数年ぶりに、トップリーグにパリを拠点とする2つのクラブが同居して、“パリダービー”が年に2回、実現するということだ。

 今回のビッグ資本の参入前から、少しでも市民に興味を持ってもらおうと、パリFCは昨シーズンより、スタッド・シャルレッティで行われているホーム戦を全試合、完全無料で開放している。

 その甲斐あって、一昨シーズンの年間平均4000人から今シーズンは倍以上の8800人と、リーグ2の中でも5番目に多い観客を集めていて、昨シーズン2部にいたサンテティエンヌと対戦した時などは、約2万人収容のスタンドが満員御礼となった。

 パリ市の南側にあるスタッド・シャルレッティは、過去になでしこジャパンがフランス代表とフレンドリーマッチを行ったこともあるスタジアムで、PSGの女子チームも以前はここを本拠地にしていた。トラムの駅がすぐ前にあってアクセスはいいのだが、いかんせんピッチの周りに陸上トラックがあって、サッカーグラウンドの雰囲気に乏しい。

 レッドブル・グループの総合ディレクターに就任したユルゲン・クロップが、先月のパリFC対アミアン戦(1-0)を視察に訪れた際、「こんなに離れたところからサッカーを見たのは、テレビ観戦した時以来だ」と粋なジョークで皮肉っていた。

陸上トラックがあるスタッド・シャルレッティ(Photos: Yukiko Ogawa)

 そこでパリFCが狙っているのは、ラグビーのプロクラブ、スタッド・フランセ・パリの本拠地であるスタッド・ジャン・ブーアンだ。ただ、スケジュール面や芝を人工芝からハイブリッドに張り替えるなど問題も多く、話し合いは難航している。

 さらにこのスタジアムはパルク・デ・プランスのすぐお隣にあって、PSGのオフィシャルストアもなんとジャン・ブーアンの建物内にある。ライバルクラブのショップが本拠地にあるわけにはいかないだろうから、このへんの調整も必要になる。

1階にPSGショップがあるスタッド・ジャン・ブーアンと、シャルレッティ場外で遭遇した謎の音楽隊(Photos: Yukiko Ogawa)

PSGにはないパリFCの強みと可能性

……

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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