REGULAR

久保建英への差別ヤジに思う、スペインで人種的少数派として生きるということ

2025.01.31

サッカーを笑え #34

スペインのサッカー界ではなぜ、そしてこれからも人種差別行為は起こり続けるのか。久保建英の被害、繰り返される愚行に、約30年この国で暮らす日本人として木村浩嗣が思うこと。

「チーノ!目を開け!」と、乾貴士への“いじり”

 先週、久保建英が人種差別の罵倒を受けた、というのは日本でもニュースになったので知っている人も少なくないだろう。1月19日の敵地でのバレンシア戦(ラ・リーガ第20節)、ウォーミング中の久保に対して「チーノ(中国人)! お前はチーノだ! 目を開け!」というヤジが浴びせられた。

 チーノという言葉自体に軽蔑的な意味はない。単に「アメリカ人」とか「フランス人」と同じように「中国の人」という意味だ。しかし、言い方によって、吐き捨てるように言われて初めて、「中国人野郎!」という意味に変化して、差別語や罵倒語になる。

 これ、ネグロ(黒、黒人)というのと同じ。サッカースタジアムなどで、吐き捨てるように言われたり、「糞」と形容が付いたりして「糞黒人」となり、人種差別語に変化して人種差別行為となる。昔、故ルイス・アラゴネスがティエリ・アンリに対して使って大問題になったのが、「糞黒人」という言葉だった。

 私が常々「チーノ(中国人の意。時に東洋人への蔑称)」という書き方をしてきたのはこのためだ。

ソシエダは抗議の声明とともに、該当シーンの動画を公式Xで公開した

 言葉に罪はない。差別語狩りは差別をアンダーグラウンド化するからむしろ逆効果だ、と思っている。だが同時に、罪のない言葉も使い方や言い方によって差別語化することも明らかだ。

 久保のケースは「目を開け!」というフレーズによって差別意識が強調されている。……

残り:1,902文字/全文:2,981文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

RANKING

関連記事