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いわきでの3年の取り組みが「J1で戦える土台に」(新潟・宮本英治)。「走りの質」を向上させるいわき流のメソッドと成果とは?

2025.01.30

いわきグローイングストーリー第4回

Jリーグの新興クラブ、いわきFCの成長が目覚ましい。矜持とする“魂の息吹くフットボール”が選手やクラブを成長させ、情熱的に地域をも巻き込んでいくホットな今を、若きライター柿崎優成が体当たりで伝える。

第4回では、いわきFCが掲げる『90分間止まらない、倒れない』フットボールの根幹を支える「走りの質」について考察する。日々の取り組みと2025シーズンに向けた展望を秋本真吾スプリントコーチに聞いた。

新たに加入した選手たちが受ける“いわきの洗礼”

 2025年シーズンのいわきFCは1月7日から始動。キャンプインするまでの約2週間は伝統的に“鍛錬期”と位置付けている。

 午前中は走り、午後はストレングスというルーティンを繰り返し、走力トレーニング部門は秋本真吾スプリントコーチ(以下、秋本コーチ)が担っている。

秋本コーチ

 秋本コーチがトレーニングメニューの作成から実践まですべてを担うのは今年で2年目。今年は、練習会場として使用しているJヴィレッジの陸上トラックを使用する日もあり、去年以上に熱量を高く持って1シーズン戦える体力向上に尽力している。

 いわきは走れるというイメージがあるが、ただ走っているだけではない。フォームや接地など細かく指導して走った映像をもとにさらに良くしていき、“楽に速く走れる”ことを目標にしている。

 立ち上げ当初のトレーニングについて、これは今年に限った話ではないが、特に新加入選手は走る量に衝撃を受ける。秋本コーチから個別トレーニングを2年間受けている鵜木郁哉でさえも「いわき、ヤバいな」と初日を終えて本音を漏らすほど“いわきの洗礼”を受ける。

 一方で、2022シーズン途中から1年半期限付き移籍で在籍しており、今季はアルビレックス新潟から完全移籍で加入した遠藤凌は「久々でしたけど体は覚えていました」と少しだけ余裕のある表情を見せた。「この期間に秋本さんのトレーニングを積むことで成長できる」とプレシーズンのいわきのトレーニングの厳しさとその先に何が待っているかを知っている。

いわきの選手たちに厚底シューズがマッチする理由

 「1年間やってみた結果、ポジティブなことが多かったので、大枠は変えずに中身を少し変えるイメージでトレーニングメニューを考えています。(初日のトレーニング前に)選手たちに強く訴えたことは『これがサッカーの何につながるのか』ということ。必ず意味付けをするようにしています」(秋本コーチ)

 初日のトレーニングではタイム走と短距離走で約10km近くを消化。以降、2週間は有酸素と無酸素に分けてメニューが組まれた。秋本コーチは全メニューを終えたときに「はるかに今年の方が良い」と目を細めた。「フォームの定着を目指さなければいけない取り組みもありますが、まずはベースとなる走り込みをする期間にみんなが強くなっている感覚です。いいペースで、いいタイムで、設定タイムを超えるペースで走れているのでポジティブです」と去年との違いを話した。

 選手によっては始動日に向けてしっかり調整してきたところも“違い”に現れていた。

 秋本コーチの推薦もあり「走るならば」と厚底シューズを購入して取り組む者も多く、その効果もあった。厚底シューズのトレンドは、近年の陸上業界では当たり前だ。国内でよく取り上げられるのは年始に開催される箱根駅伝。区間新記録が更新される要因にもなるなどシューズの進化は止まらない。

 秋本コーチは「シューズ自体、接地が上手くなる構造になっていて、速く走るための動作で接地しないとシューズの良さが発揮されなくなっている。いわきの選手は良い接地を徹底的に意識してきたのでマッチしやすい」と相性の良さを分析する。以前から「いわきFC陸上部」と愛称を付けるほど、秋本コーチは高い熱量で選手たちの強化を図っている。

Photo: ©IWAKI FC

 トレーニングは有酸素トレーニングから無酸素トレーニングへ順を追って行われた。ここにもしっかりとした理由がある。

 「長短に関係なくすべての基本は有酸素運動です。特にサッカーの90分間のゲームでは時速20キロ以上の高速スプリントを何回も繰り返すという特性を考えると、いかに体内に酸素をたくさん摂取できるかが大事になる。無酸素の領域は、その作られた酸素を今度は使う作業が入ってくる。そのためには、まずは酸素の循環を良くすることで体内を起こさないといけない。有酸素の時期はそんなに速すぎるペースは求めず、一定のペースで走り続ける。サッカー選手には絶対必要な能力です」

 「無酸素系のトレーニングでは限界を超えて走り続ける作業をやらないといけない。スピードを求めつつ、それを何本もこなさなければならない。そういうシーンって必ず試合でもやってくると思うんです。その初体験が試合ではダメだということ」という考えが秋本コーチにはある。量をこなすことで質の向上を目指した。

 ちなみに、ある日の練習メニューの一部が下記のとおりだ。……

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Profile

柿崎 優成

1996年11月29日生まれ。サッカーの出会いは2005年ドイツW杯最終予選ホーム北朝鮮戦。試合終了間際に得点した大黒将志に目を奪われて当時大阪在住だったことからガンバ大阪のサポーターになる。2022年からサッカー専門新聞エル・ゴラッソいわきFCの番記者になって未来の名プレーヤーの成長を見届けている。

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