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オ・セフン一辺倒からの脱却に“再トライ”する理由とは。2025シーズンのゼルビアが描く進化のビジョン

2025.01.30

ゼルビア・チャレンジング・ストーリー 第20回

町田の名を全国へ、そして世界へ轟かせんとビジョンを掲げ邁進するFC町田ゼルビア。10年以上にわたりクラブを追い続け波瀾万丈の道のりを見届けてきた郡司聡が、その挑戦の記録を紡ぐ。

第20回は、“BE HUNGRY FOR VICTORY”をスローガンに掲げ2025シーズンをスタートしたチームが、昨シーズンを超えるべくキャンプで取り組んだチャレンジの様子とその成果をレポートする。

 最前線に構えるターゲットマンが相手とのエアバトルを制圧し、そこから生じるセカンドボールを回収してはフィニッシュまでの最適解を模索する。シンプルにターゲットマンを生かすチーム戦術は黒田ゼルビアにとって見慣れた光景だが、沖縄・名護キャンプ立ち上げから2日後の実戦練習ではむしろ、ボールが頭上を行き交う展開はレアケースだった。およそ計20分間の実戦練習で前線の選手にロングボールが入った場面は、手元の集計でわずか1度に限られた。

 前線のターゲットマンをシンプルに生かすチーム戦術は黒田ゼルビアの代名詞。相手陣地でのロングスローを含め、エアバトルを軸とした執拗な連続攻撃は、耐久力に優れたCBが手薄な傾向のJリーグで昨季、猛威を振るったアプローチだ。

 ところが、J3・ヴァンラーレ八戸との練習試合で、シンプルにターゲットマンを生かす戦い方は、“封印”されていたと言っても差し支えなかった。浮き球のフィードは、有馬賢二ヘッドコーチから推奨されている対角のサイドチェンジぐらい。J1で2年目のシーズンを迎える黒田ゼルビアは、地上戦を交えた敵陣への進入機会創出というチャレンジに着手している。

 2週間に及んだ名護キャンプから透けて見える新チームの方針と再チャレンジのディテールとは。特にボールを保持する状況でのアプローチに変化が生じている点は、1つの大きなトピックだろう。

「ベースを変えるというよりは、やれることを増やしていきたい」

 昨季の2巡目の対戦を迎えた頃、指揮官が定期的に口にしていた「セフン一辺倒ではなく」というフレーズ。昨季の黒田ゼルビアは、相手がわかっていてもそれを止められない次元で勝負してきたチームだが、相手の研究が進化するに従い、戦い方の幅を広げることにもトライしてきた。昨季は志半ばで持ち越しとなった進化の道程に、町田は再び歩もうとしている。

 地上でボールを動かしながら敵陣へ前進する機会をうかがう。その方針は八戸との練習試合(30分×3本)でも徹底されていた。……

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Profile

郡司 聡

編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経てフリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『エルゴラッソ』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長も務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。マイフェイバリットチームは1995年から96年途中までのベンゲル・グランパス。

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