流れではなく、その「瞬間」。大差のエル・クラシコで感じた「刹那のサッカー」への対処法
新・戦術リストランテ VOL.49
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第49回は、2-5でバルセロナがレアル・マドリーを下すという再び大差の決着となったスーペル・コパ・エスパーニャ決勝のエル・クラシコの分析。カウンター狙いのアンチェロッティのゲームプランを崩壊させた「刹那のサッカー」の対処法について考えてみたい。
スーペル・コパ・エスパーニャはバルセロナが2-5でレアル・マドリーを下して優勝しております。リーガ第11節の0-4に続く、4得点以上を挙げてのエル・クラシコ連勝は極めて珍しいケースのようで62年ぶりだそうです。
スーペル・コパ・エスパーニャは国王杯の優勝、準優勝、それ以外のリーガ上位2チームによる4チームが参加。準決勝、決勝が行われる。この形式になった19-20シーズンからサウジアラビアで開催されています。
今回は国王杯優勝のアスレティック、準優勝のマジョルカ、リーガ王者のレアル・マドリー、2位バルセロナが参加したわけですが、第19節時点の2~4位プラス、マジョルカ(6位)という現時点での上位対決でもありました。
準決勝はバルセロナが1-2でアスレティックを破り、レアル・マドリーは3-0でマジョルカを下して決勝進出。エル・クラシコのファイナルとなったわけです。
ムバッペが調子を取り戻し、攻撃面ではロドリゴ、ビニシウスとの棲み分けもできてきたレアル・マドリーが優位かと思いきや、意外な大差がつきましたね。合わせて7ゴールというところに両チームの破壊力と守備の脆さが表れた試合だったかと思います。
ヤマルの「よくわからない」特殊技能で同点
どちらも基本フォーメーションは[4-2-3-1]。バルセロナはヤマル、ラフィーニャが際どいシュートを放ちますがGKクルトワが美技連発で阻止。すると、4分に相手CKを防いだ流れのカウンターアタックからムバッペのゴールでレアル・マドリーが先制します。
自陣ペナルティエリア外でビニシウスがカサドとのデュエルに勝って持ち出し、ムバッペに捌いたのがハーフウェイライン。そこからムバッペがぐいぐい運んでシュートしたのはゴールエリア付近でした。ドリブルが速いしアクションも速いので、対峙したバルデは後退するしかなかった。最後はグイッと縦に持ち出してコースを作って即シュート。ビニシウスとムバッペで完結というレアル・マドリーらしい速攻でした。
ボール支配はバルセロナでしたが、立ち上がりのレアル・マドリーはロドリゴ、ビニシウスの両サイドがしっかり引いて[4-4-2]のブロックを作り、トップ下のベリンガムがカサドをマンマーク気味に捕まえていて、守備は固そうに見えました。
しかし、22分にバルセロナがこじ開けます。クンデのクサビのパスをレバンドフスキがフリック、抜け出したヤマルが得意のカットインでDF2人を手玉にとってニアサイドへ流し込みました。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。