日本人トレーナーが観た“日欧の筋肉差”。日本代表、スイス代表、ナイジェリア代表を“触った”男の見解は?
遣欧のフライベリューフリッヒ#10
「欧州へ行ってきます」。Jリーグの番記者としてキャリアをスタートさせ、日本代表を追いかけて世界を転戦してきた林遼平記者(※林陵平さんとは別人)はカタールW杯を経て一念発起。「百聞は一見にしかず」とドイツへの移住を志した。この連載ではそんな林記者の現地からの情報満載でお届けする。
今回のテーマはトレーナー。サッカー選手の体をメンテナンスして支える仕事も国境を越えるようになっており、前橋育英高校出身の窪川翔太さんはドイツで活躍しているトレーナーだ。日本代表DF板倉滉をはじめとした日本人選手に加え、ウディネーゼのナイジェリア代表GKマドゥカ・オコイェなども担当。日本の技で活躍するトレーナーに、筋肉・関節の秘密を聞いた。
日本人のフィジカルは弱い?
ドイツに渡って欧州と日本の差を感じることは多い。クラブの資金力やピッチを含めた環境、プレーしている選手の質など、その感想は多岐に渡る。
ただ、以前にピッチの話をしたように、決して日本が全ての面で劣っているかと言えば、そうではない。
日本が上回っているところもあれば、もちろん欧州の凄みを感じるところもある。それが現地で感じる率直な印象なのだ。
“違い”という点で最近、気になったことがある。昨今、サッカー界全体で選手のアスリート化が進む中、日本から欧州に来る選手が最初にぶち当たるフィジカル面の差についてだ。
Jリーグを取材していた際にも、ブラジル人選手を中心とした“助っ人”とのフィジカル差はひしひしと感じていた。身体の作りがそもそも違うと言われているように、筋肉量を含めて明らかな差があるのを見てきた。
それは今、ブンデスリーガを現地で見るようになっても同様だ。むしろより強く差を感じるようになった面もあり、抗えないほどの差を感じてしまうことが多々ある。
ただ、もちろんそこだけでサッカーの決着がつくわけではない。
というのも、日本人選手は最初こそ“フィジカルの壁”にぶち当たるものの、徐々に対応していけることも多いからだ。
大前提としてフィジカルアップを図りつつ、球際バトルだけにならないように試行錯誤をしている選手が多いのだ。
例えば、ドリブラータイプの選手であれば、最初にぶつかってこられないような立ち位置に注力する選手もいるし、守備者であればファーストコンタクトで優位を取れるように読みの鋭さを生かす取り組みをしている。
そういった生存戦略を立てることでフィジカル差を攻略しているため、「筋トレをすればいい」という話ではないというのは、大前提として理解している。
だからこそ、逆に気になるのだ。身体の面でどんな違いがあるのか。
今回、そこの疑問を少しでも解消するために頼ったのが、アスリートを陰で支えるスポーツトレーナーとして現在、ドイツを中心に多くの選手を施術している窪川翔太氏であった。
群馬の名門からドイツへ
窪川氏は前橋育英高校のサッカー部の出身だ。
3年次には夏の全国高校総体で出番を得てもいるが、その時に足首の靭帯断裂と剥離骨折の大ケガを負うことになってしまった。
ただ、そのケガをきっかけにトレーナーという仕事を知り、高校卒業後にスポーツトレーナーの専門学校への進学を選択。鍼灸の学校で鍼灸師の国家資格も取得しつつ、スポーツトレーナーの道へと進むことになった。
スポーツ整形外科ドクターが経営する開業病院を辞め、単身ドイツへと渡ったのは5年前のこと。そこからいろいろな出会いを経て、現在は板倉滉や三好康児、アペルカンプ真大といった日本人選手に加え、ボルシアMGのスイス代表DFニコ・エルベディやフランス人のフランク・オノラ、ウディネーゼのナイジェリア代表GKマドゥカ・オコイェなど、数多くの選手を担当している。
それぞれの個性が出る肉体
そんな窪川氏に日本人と海外選手の身体の違いを問うと、最初に名前が出てきたのがオコイェだった。……
Profile
林 遼平
1987年生まれ、埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることに。帰国後、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。