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ベカセッセの情熱に惹かれて。ビエルサ信奉の“若きベテラン”監督がエクアドルを変える!

2025.01.05

EL GRITO SAGRADO ~聖なる叫び~ #12

マラドーナに憧れ、ブエノスアイレスに住んで35年。現地でしか知り得ない情報を発信し続けてきたChizuru de Garciaが、ここでは極私的な視点で今伝えたい話題を深掘り。アルゼンチン、ウルグアイをはじめ南米サッカーの原始的な魅力、情熱の根源に迫る。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第12回(通算171回)は、12歳でビエルサに感化され、19歳で監督キャリアをスタートして25年、昨年8月からエクアドル代表で手腕を発揮するアルゼンチン人指揮官、セバスティアン・ベカセッセを紹介したい。

あれは6年前…すっかりファンになってしまった

 早いもので、次のW杯は「来年」に迫った。残りあと6節(全18節)となったW杯南米地区予選は、まだ先が見えない状況にある。2026年大会から出場国の数が増加し、南米からは全10カ国のうち最大7カ国も出場できるようになったため、当初は「本大会より過酷と言われる予選の緊迫感と面白みが激減するのではないか」と懸念されたのだが、実際はそんな心配を嘲笑うかのような接戦が続いている。予選が現在の総当たりリーグ戦方式になった1998年大会からこれまで、首位通過したチームが3敗以上した前例はなかったが、今回は首位のアルゼンチン代表でさえ第12節終了時点で3敗。ブラジル代表とアルゼンチン代表が無双状態で通過した前回大会の予選とは大きく異なり、無敗のチームはすでに皆無。今回も最終節まで手に汗握る展開が繰り広げられそうだ。

 そんな中、私が常々サポートしているアルゼンチン代表とウルグアイ代表に続いて予選突破を願っているのが、エクアドル代表である。厳密には昨年8月、セバスティアン・ベカセッセが同代表の監督に就任してからなので、第7節から応援していることになる。

 6年前、私はベカセッセにインタビューする機会に恵まれた。当時アルゼンチンの中堅クラブ、デフェンサ・イ・フスティシアの監督を務めていた彼に取材を申し込んだ際、クラブから与えられた時間は30分間。ところが「サッカーのことなら半永久的に話していられる」というベカセッセは、チームのスタッフが呼びに(止めに)来るまで、自分の経歴や指導哲学について2時間近くにわたってじっくりと語ってくれた。

 さらに彼は、会話の中で「純正」や「本物」を意味する“genuino”という言葉を何度も使った。時間を忘れ、本物へのこだわりをさらけ出し、身を乗り出してサッカー話に没頭する様は、まるで彼が信奉するマルセロ・ビエルサ(現ウルグアイ代表監督)が憑依したのかと思わせるほど狂熱的だった。

 それまでは、ベカセッセといえば試合中にテクニカルエリアの中を(時には外も)ひっきりなしに歩き回る「ヒステリックで落ち着きのない人」という印象のみが強かったが、インタビューを経て、彼が人一倍情熱的なあまり、身体を動かさずに試合を見ることなど到底できない人なのだと納得した。他人にどう思われようとも、サッカーへの燃えたぎる情熱を剥き出しにする彼の熱量にぐいぐいと引き込まれた私は、取材を終える頃にはすっかりファンになってしまっていたのである。

……

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Profile

Chizuru de Garcia

1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。

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