川崎F最終戦の鬼木監督にキャプテンマークを託された意味。「言葉は要らない」小林悠の涙がつなぐ記憶と教訓
フロンターレ最前線#11
「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達監督の下で粘り強く戦い、再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。
第11回は、今季限りで退任の鬼木監督が最終戦で小林悠にキャプテンマークを託した意味を考える。「言葉は要らない」37歳の涙がつないでいく記憶と教訓とは?
なぜ自分が先発なのか。その意味をずっと自身に問いかけ続けていた。
2024年12月8日のJ1最終節・アビスパ福岡戦。小林悠は7月6日の第22節ジュビロ磐田戦以来となる、実に5カ月ぶりのリーグ戦スタメンを飾っていた。
公式戦では直近のACLE・山東泰山戦でも、スターティングイレブンに名を連ねて68分出場している。そこから中三日の連戦だったことで、37歳の自分がスタートから出るはずがないと思い込んでいた小林。だから試合前日の戦術練習で先発組に入るように命じられた時には、ただただ驚いた。
「今回はあまり練習をしていなくて、(試合までスケジュールは)リカバリー、リカバリーで。前日のフォーメーションで『あっ、スタメンなんだ』ってわかったぐらいです」
なぜここで選ばれたのか。答えを知っているのは鬼木達監督のみだが、長年の付き合いがある小林は試合前にそれらしきものを見出していた。
「最初は『マジか?』と思いましたが、これがオニさんの最後の試合だと思ったら、『そうか。自分か』と。頭を整理して、あとは決めることだけをイメージしていました」
この2024シーズン最終戦で、川崎フロンターレは8季にわたってチームを率いてきた鬼木監督との旅路を終えることになっていた。その惜別試合でキックオフからピッチに立つ意味は何か。導き出した結論は、自らのゴールで送り出すことだった。
「だからこそ、なんとしても決めたかった。『決めなかったら一生後悔する』と自分に言い聞かせてピッチに入りました」
ゴール専念で預けたキャプテンマークを再び巻くことに
この試合で小林は腕章を巻いている。主将である脇坂泰斗が負傷離脱により不在で、副将は小林の他に山田新と丸山祐市もいたが、鬼木監督はゲームキャプテンに彼を指名した。振り返ると現体制の初年度となった2017シーズン、つまり指揮官として最初にキャプテンマークを託したのも小林だった。……
Profile
いしかわごう
北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago