“田村雄三語録”で振り返るいわきFCの2024年。昨季18位から9位へ躍進の理由と上位とのリアルな差
いわきグローイングストーリー第3回
Jリーグの新興クラブ、いわきFCの成長が目覚ましい。矜持とする“魂の息吹くフットボール”が選手やクラブを成長させ、情熱的に地域をも巻き込んでいくホットな今を、若きライター柿崎優成が体当たりで伝える。
昨季、J2初参戦を果たしたいわきFCは18位に終わったが、2年目となった今季は一桁台の9位へ飛躍した。いかにチーム力を引き上げ、J2の上位争いに顔を出すようになったのか。第3回ではシーズン中の田村雄三監督の言葉を引きながら激動の2024年を振り返る。
狙うは昨季18位からの飛躍
新シーズンに向けた記者会見で今シーズンの目標を問われた田村雄三監督はこう口火を切った。
「今シーズンは得点65、失点45を目標に設定しました。得失点差がプラス20。つまりそういう順位を目指して右肩上がりにチーム作りをしていきたいです」
この大号令のもと2024年シーズンのいわきは始まった。強気の姿勢は「攻撃に重きを置きたい」という思惑が前提にあった。
黎明期から、いわきのサッカーを創造してきた42歳の若き指揮官だ。昨シーズン途中に監督に就任した時から「選手の良さを引き出したい」「ミスを恐れないで前へのアクションを出す」と何度も口にしながら、魂の息吹くフットボールというクラブフィロソフィーのもと攻撃的な姿勢を貫いてきている。
上記の発言のなかで具体的に触れなかった順位については、後に、大倉智代表取締役が補足して語っている。以下は選手たちにも伝えた内容だ。
「『J1にいきましょう』というのは簡単に言える。ただ、現実を見たときに目標が高すぎると、足元をすくわれて良くない方向に傾いてしまう。話し合いを重ねていく中で54から60ポイントを目指し、地に足を付けながら6位以内のJ1昇格プレーオフ圏内を目指すこと。そのためには日々のトレーニングから努力し、1試合1試合、勝利を目指して戦うことで、その先にプレーオフやJ1が見えてくる」
悔しさを多く味わった去年の18位から飛躍を狙った、壮大なチャレンジが始まった。
もし18位だったチームが高いレベルに進化していき、J1を本気で目指すチームのグループに入っていけばチームも選手も価値が高まり、注目されやすくなる。
昨年途中に田村監督が就任してから蘇ったいわきは、22試合で8勝7分7敗という成績を残した。後半戦だけの順位で見れば、最後までJ1昇格を争ったチームのすぐ下に位置していた。新加入選手と既存選手の融合。連戦が続く序盤戦でつまずくことがなければ、ある程度の順位に行ける、そして戦い方にも手応えもある。よって徐々に実力が蓄積されていくのでは? という希望的観測も持ちながら2024年シーズンの開幕を迎えた。
悪い内容でも落とさずに粘り強さが出てきた
「守備についていえば、前から奪いに行くことをリスクと思わないように距離感を良くすること。攻撃面では、相手を意図的に動かすボール回しやゴール前に入っていく形ができるように積み上げていきたい」
シーズン前の鹿児島キャンプではベースの落とし込みに着手した。立ち上げから一貫して3バックを採用して選手の成長のために最終ラインから下道でビルドアップにトライ。ウイングバックとシャドーの連係からポケットを取ってゴール前に侵入していく形に取り組んできた。
目玉補強だった照山颯人(現V・ファーレン長崎)のビルドアップ能力を活かし、両脇はワイドセンターバックとして攻撃参加を必須として敵陣に入っていく人数を増やす。あくまでも前向きで試合を進められるように落とし込んだ。
ただ、対外試合は別物で、なかなか結果は出ず、開幕2試合も未勝利に終わった。しかし、第2節ファジアーノ岡山戦で試合終了間際に谷村海那の得点で劇的ドローに終わったことで火が付いた。
いわきは第3節鹿児島ユナイテッドFC戦(3-1○)からJリーグYBCルヴァンカップを挟んで5連戦を3勝2分と無敗で終える。
この間に谷村が連続得点を奪って新たなエースに名乗りを挙げ、当時、特別強化指定選手で来季加入内定選手だった五十嵐聖己(のちに内定を半年繰り上げてプロ契約を締結)も台頭。チームにはポジティブな要素が多く、上々の滑り出しとなった。
リーグ前半戦に通じることとして「去年だったら失点していた場面も選手が身体張って守れるようになってきた」ことで全体の守備意識の高さが目に見えて改善されていった。
「ゲームプランや試合内容を含めて良い試合ができなかったという思いもあります。ただ、同点にすることや守り切ることで勝ち点1を持ち帰れるようになったことは成長していると思います。右肩上がりにチームを作っていく方針なので、出た課題はフィードバックして改善していきます」
J2参入2年目となり、リーグの空気感に慣れてきたことや名前負けしなくなったこと。プレー面でも自分たちからアクションを起こせるようにするという選手自身の意識も向上したこと。プレシーズンから基礎をしっかり固めたことで大崩れすることがなかった。
また、「連敗は絶対にいけない」という発言が選手たちからよく聞かれた。監督自身も「連敗しないチームが強いチーム」と言い続け、特に敗戦後はしっかり勝ち点を拾っていた。結果がついてくることで「例年よりもチーム作りがうまく進んだ」という感覚は間違っていなかった。
本来なら第19節を持ってリーグ戦は折り返すことになるが、その第19節・長崎戦は長崎がルヴァンカップ・プレーオフラウンドに進出したことで日程が変更された。この結果、いわきは一足早くシーズンを折り返した。
前半戦の結果は18試合を終えて7勝6分5敗。最高順位は4位、一度も連敗はなし。去年は残留争いを強いられたレノファ山口とともに旋風を巻き起こした。前半戦終了時点で上位争いをできる立ち位置を維持した。ただ、田村監督は手応えと危機感、両方を抱えていた。……
Profile
柿崎 優成
1996年11月29日生まれ。サッカーの出会いは2005年ドイツW杯最終予選ホーム北朝鮮戦。試合終了間際に得点した大黒将志に目を奪われて当時大阪在住だったことからガンバ大阪のサポーターになる。2022年からサッカー専門新聞エル・ゴラッソいわきFCの番記者になって未来の名プレーヤーの成長を見届けている。