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ルヴァンカップ準優勝とJ1残留争い。収穫と反省を未来への希望に繋げたいアルビレックス新潟の2024シーズン

2024.12.24

大白鳥のロンド 第18回

サポーターとしては感情の揺れ動くシーズンだったに違いない。11月には初の進出となったルヴァンカップ決勝で名古屋グランパスを相手に激闘を繰り広げ、最後はPK戦の末に敗れたものの、堂々の準優勝。国立競技場はオレンジに揺れた。一方でJ1では最終節でようやく残留が決定。1年を通じての安定感には欠けていたと言わざるを得ない。そんな激動の2024シーズンを野本桂子が多角的に振り返る。

主将の涙。最終節で手繰り寄せたJ1残留

 アルビレックス新潟は、最終節で、ようやくJ1残留を決めることができた。

 「本当に苦しいシーズンだった。ルヴァンカップは楽しい大会になりましたけど、結果、(決勝で)勝てなかった。リーグではずっと中位から下位をさまよう苦しいシーズンだった」。試合後、主将の堀米悠斗は、ようやくプレッシャーから開放された安堵から、思わず涙した。

 降格圏と勝点3差の17位。引き分け以上なら、自力でJ1残留できるという条件で迎えた、最終節・浦和レッズ戦。この5年間、ぶれることなく貫いてきた攻撃的なスタイルを、この日だけは手放した。ミドルゾーンにコンパクトなブロックを構えてスペースを与えず、ボールを不用意に奪いに行かない、守備的な戦いを選んだ。

 用意は周到だった。試合前日会見でカメラの前に立った選手は「特に変わったことはしていない。いつも通りの練習をした」(堀米)「自分たちのサッカーを貫き通して勝ちたい」(長倉幹樹)と、いつもの前日会見と変わらぬ様子で語った。堀米によれば「情報の取り扱いに関しては、週の初めから話し合っていた」という。メディアを通じて伝わる情報から、浦和もおそらく“いつも通り”の新潟を想定していたはずだ。これまでスタイルを貫いてきたからこそのフェイクが奏功したところもあっただろう。

 最大のピンチともいえる54分、前田直輝の決定的シュートには、堀米が体を投げ出してブロックし、事なきを得た。後半、18位の磐田が複数失点したという情報をベンチから受け、残留が確定的になってからは、少しシュートに出ていく場面もできたが決めきれず。しかし失点もすることなく0−0で勝点1を手にし、J1残留を手に入れることに成功した。

 「僕たちのスタイルではない最終戦だった。僕自身は、今日に関してはこれが正解だったと思っています。ただ、自分たちのスタイルを曲げざるを得なかったところまで自分たちを追い込んでしまったところに目を向けなきゃいけない。今日のゲームどうこうというよりも、今シーズンを振り返ると、明らかに落としてしまった勝点がたくさんある。そこをしっかりと反省して来シーズンに向かっていかないと、同じことの繰り返しになってしまうのかなと。いい意味で切り替えるところと、教訓にしなければいけないところは、それぞれが考えるべきかなと思います」。試合後、堀米は来季に向けて警鐘を鳴らした。

J1最終節、浦和戦のハイライト動画。掘米の渾身のシュートブロックは2:48から

カップファイナル進出と残留争い。揺れ動いた気持ちの不安定感

 今季、指揮をとって3年目となる松橋力蔵監督は、シーズン初めの新体制会見で「“てっぺん”を目指します」と発表した。その言葉は、新潟を支える人々を巻き込む機運を醸成し、J1リーグ、ルヴァンカップ、天皇杯と3つの大会を戦う中で、クラブ史上初のルヴァンカップ決勝へと進出することができた。

 決勝の名古屋グランパス戦では、新潟のスタイルを存分に見せつけた。名古屋のハイプレスを、磨き抜いたパスワークでいなし、大観衆のどよめきを誘った。0-2から1-2とし、アディショナルタイムに小見洋太のPK弾で追いついて延長戦へ。またも1点突き放されるが、小見の追加点が決まってPK戦へと持ち込んだ。そこで敗れて“てっぺん”にはあと1歩及ばなかったものの、その戦いぶりやサッカースタイルを多くの識者や関係者に称賛される、歴史的な一戦となった。

ルヴァンカップ決勝・名古屋戦のハイライト動画

 ただ、リーグ戦は残留争いに巻き込まれた。合間にルヴァンカップの準決勝・川崎フロンターレ戦(ホーム&アウェイ2戦合計◯6-1)、決勝・名古屋戦を挟んで戦ったリーグ終盤9試合は3分6敗。9試合負けなしで終えた昨季とは、真逆の失速となった。……

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Profile

野本 桂子

新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。24年4月からクラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。

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