毎熊晟矢が「自分を見つめ直した」AZでの半年間。復調の理由をアヤックス戦から探る
VIER-DRIE-DRIE~現場で感じるオランダサッカー~#11
エールディビジの3強から中小クラブに下部リーグ、育成年代、さらには“オランイェ”まで。どんな試合でも楽しむ現地ファンの姿に感銘を受け、25年以上にわたって精力的に取材を続ける現場から中田徹氏がオランダサッカーの旬をお届けする。
第11回では、今夏オランダに上陸した毎熊晟矢の欧州初挑戦について。AZでの半年間を振り返りながら、復調の理由をアヤックスとのダービーから探る。
“ダービー”で操った「『自分も試合に参加したい』という気持ち」
今季からAZに加入している毎熊晟矢が調子を取り戻した。11月28日のEL、ガラタサライ戦(1-1)の立ち上がりにスフェン・マイナンスの先制弾につながる強烈なシュートを放つなど、攻守に活躍してから調子が上向き、3日後のエールディビジ第14節、ヘラクレス戦(◯1-0)では全国紙『デ・テレフラーフ』のベストイレブンに選出されるパフォーマンス。12月12日のEL、ルドゴレツ戦(2-2)では移籍後初ゴールを記録した。
開幕から[4-3-3]の右SBとして、高いクオリティを披露していた毎熊に試練が訪れたのは10月のELの2試合、アスレチック・ビルバオ戦(●2-0)とトッテナム戦(●1-0)だったのではないだろうか。前者ではニコ・ウィリアムズに、後者の後半ではマイキー・ムーアに、完膚なきまでにやられてしまった。その後も欧州カップ戦では先発の座を守り続けた毎熊だったが、11月に入ると国内リーグで3戦連続でスタメンから外れてしまう。うち2試合は出場機会すらなかった。
しかし冬の深まりとともに、毎熊は再びオランダサッカーファンを唸らせるプレーを披露している。その復調の理由を探るのにアヤックス戦(12月8日)のパフォーマンスと、彼のコメントは欠かせない。“ノールト・ホーラント州ダービー”と呼ばれるビッグゲームで、相手の左ウイングであるチュバ・アクポンは右CBワウター・フースがボールを持つと、毎熊へのパスコースを切るような守り方をした。そのため、前半はなかなかボールに触ることができなかった。
「僕は前半、全然ボールに触れなかったですけれど、逆にチームは左サイドからどんどん前にボールを運べていたので、(自分のプレーは)そんなに変えなくていいと思いました」
変に色気を出して試合に絡もうとしてリズムを崩すより、今は割り切って自分を潜めた方がチームのバランスは良い――。そういう冷静な判断だ。
しかし後半に入ると、毎熊が存在感を発揮して正確なクロスを蹴り始めた。マールテン・マルテンス監督からハーフタイムに「ペール・コープマイナース(右インサイドハーフ)を前に出し、その時ヨルディ・クラーシ(左インサイドハーフ)が寄ってこなかったら、MFに上がってもいい」という指示を授かったというが、ピッチの上ではアヤックスの左SBヨレル・ハトとのポジショニングの駆け引きがあったため、実際には外側の2レーンで攻撃に加わってコープマイナースや右ウイングのアーネスト・ポク、66分に途中投入されたマイケル・ラフドと絡んだ。
「『自分も試合に参加したい』という気持ちもあったので、後半はポジショニングを変えながらうまく試合に絡めたと思います」
引き出しの多さゆえの「悩む時期」を乗り越えて
アヤックス戦の前半と後半を振り返った毎熊の言葉が、試合後取材を続けていくうちに重要なものになってくる。私は彼に「移籍してからほぼ半年が過ぎました。この期間を振り返ってどうですか?」と訊いた。……
Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。