「ゾーンのミドルブロック」がはまっているフィオレンティーナの躍進。新世代監督の旗手パッラディーノの優れたバランス感覚
CALCIOおもてうら#33
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、「ストーミング」を志向したイタリアーノ体制の3年間を経て、パッラディーノを指揮官に迎えたフィオレンティーナ。今季のセリエAでは新たなサイクルを歩み出したチームが多いが、フィオレンティーナは今のところ二極化した結果の成功例の方だ。40歳の新世代監督の手腕に迫ってみたい。
セリエAが例年にない混戦模様を呈している。
16節を終えた現時点で首位に立っているのは何とアタランタ。序盤戦こそ移籍マーケット絡みのゴタゴタでもたついたものの、いったんチームが固まった10月初旬から怒濤の10連勝を決めて、一気に先頭に躍り出た。それに続いてアントニオ・コンテを新監督に迎えて巻き返しを図るナポリ、昨シーズンの王者インテルがトップ3を形成するという構図は、開幕前の下馬評とはかけ離れたものだ。
本来ならばここに絡んで然るべきミラン、ユベントスが、新監督のプロジェクトを軌道に乗せるのに手間取って、早々に優勝戦線から脱落した一方では、フィオレンティーナ、ラツィオという伏兵が思わぬ躍進を見せてトップ5に割り込んでいる。
開幕直前に本連載に寄せたシーズン展望では、今シーズンを「不確実性の時代が収束に向かう節目になりそうな年」と位置づけた上で、序盤戦の見どころは「どの新プロジェクトがいち早く軌道に乗るか」にあるとしたわけだが、まさにこの点でナポリ、フィオレンティーナ、ラツィオとミラン、ユベントスの明暗が分かれた格好だ。
その中でナポリは、戦力的にビッグ3とそう遜色ないレベルにある上に、昨季10位に低迷したため欧州カップ戦の出場権がなく、毎週末のリーグ戦に専念して準備ができるという小さくないアドバンテージを持っている。それと比べると戦力的に1、2ランク落ちるだけでなく、欧州カップ戦の負担もあるフィオレンティーナとラツィオの健闘は、注目と称賛に値するものだ。
ラファエレ・パッラディーノ、マルコ・バローニという2人の監督のプロジェクトは、方向性に明らかな違いがあるものの、いずれも注目すべき戦術的試みを組み込んだ興味深いもの。今回はそのうちフィオレンティーナを少し掘り下げてみたい。
「ひたすら前へ」のイタリアーノのチームをどう引き継ぐ?
ビンチェンツォ・イタリアーノ(現ボローニャ)が昨シーズンまで3年間率いてきたフィオレンティーナは、セリエAで最も前がかりでアグレッシブなチームだった。マンツーマンハイプレスとゲーゲンプレッシングを柱に据えた守備、自陣でのポゼッションから縦パス1本で加速し5、6人がゴール前に雪崩れ込む攻撃と、いずれの局面でもひたすら前に出る姿勢が基本であり、それゆえスペクタクルで出入りの激しい試合になるのが常だった。
受けに回って試合をコントロールしリードを守り切るというオプションを持たなかったこともあり、必然的に取りこぼしも多く、そのサッカーそのものは高く評価されながらも、3シーズンの成績は7位、8位、8位と、クラブの伝統やサポーターの期待に比すれば物足りないもの。カップ戦でもコッパ・イタリアで1回、カンファレンスリーグで2回決勝に勝ち進みながら、いずれも準優勝止まりに終わるという煮え切らない結末で3年間のサイクルを閉じることになった。
その後任として選ばれたパッラディーノは、イタリアーノとは明らかに異なるフィロソフィの持ち主だ。現役時代にガスペリーニ率いるジェノアでプレーしたことから、監督としてもガスペリーニ一派と見なされることが多いが、その中でも例えばイバン・ユリッチのようなガチガチの[3-4-3]原理主義者とは異なり、特定のシステムや戦術コンセプトに基盤を置くよりも、擁する選手の特性、個性を出発点にして戦術を構想する傾向が強い。昨シーズンまで2年間率いたモンツァでは、ボール保持時に攻め急がずにポゼッションを確立することで試合をコントロールし、非保持時にはアグレッシブに振る舞うよりも低めのブロックで受け止める手堅い戦い方を好んできた。……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。