新・戦術リストランテ VOL.46
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第46回は、J1連覇を達成したヴィッセル神戸が示す、Jリーグの戦術トレンドについて。「持ったら負け」の背景にあるもの、そして神戸も含めたその少し先にある未来を予測してみたい。
ポジショナルプレーの普及がもたらした変化
2024年のJ1優勝はヴィッセル神戸でした。昨季に続いてのV2、今年は天皇杯でも優勝しているので2冠です。
初優勝した昨年と今年で戦術的にはほぼ変わっていません。昨年は2位の横浜FMに7ポイントの差をつけての制覇でしたが、今年は2位の広島と4ポイント差。最終節まで町田にもチャンスは残されていました。
昨年より勝ち点差が縮まったといっても1試合分なわけですが、今年の方がライバルとの差があまりなかった。広島と町田は戦術的に神戸に近く、その点で競争相手が増えたせいかもしれません。
J1は「ボールを持ったら負け」のリーグになっています。
ボール保持率の高い5チームは横浜FM、新潟、浦和、川崎F、札幌です。順番は違いますが昨年の5チームとほぼ同じです。昨年5番目だったG大阪の代わりに浦和が来ただけ。そして順位はどうかというと、保持率高い順から9位、16位、13位、8位、19位。8位の川崎Fだけが辛うじて10位以内。つまり、ほぼ下位ということです。
神戸は保持率50.2%で9番目、広島は49%で10番目。保持率の高さでいうとリーグのちょうど真ん中あたりですね。町田はさらに低くて18番目、少ない方から3番目でした。
川崎Fか横浜FMが優勝していた2年前までは保持率の高いチームが優位でしたが、その傾向が変わってきているんですね。
原因の1つがポジショナルプレーの普及だと思います。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。