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西山哲平GMが振り返る大分の15年(後編):「J1でなくてもいい」逆算の戦略からの1つの提言

2024.12.17

GMが描くJクラブ未来地図#4
西山哲平(前・大分トリニータGM/AC長野パルセイロスポーツダイレクター兼トップチーム強化部長)後編

若手を中心に多くの日本人選手の目が「外」に向き、世界的な移籍金のインフレ傾向に円安も重なり外国籍選手獲得のハードルも上がる――今のJクラブの戦力編成の難易度はかつてないほど高まっており、中長期の明確なクラブ戦略なしでチーム力を維持・向上させていくのは不可能だ。今連載では、そのカギを握る各クラブのGM/強化部長のビジョンに迫りたい。

第3&4回は、15年にわたり大分トリニータの強化に携わり、11月1日にクラブから公式に退任が発表された西山哲平前GM。現役時代、2002年に加入して8シーズンを大分でプレーし引退後の2010年からは社員として強化セクションに所属、2016年からは強化責任者としてクラブの堅実な成長に貢献してきた功労者は、その蓄積されたノウハウに期待され、12月5日付でAC長野パルセイロのスポーツダイレクター兼トップチーム強化部長に就任する。前後編の2回にわたって大分時代に積み上げたものと、それを生かすことになる新天地でのビジョンについて話を聞いた。

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変化する戦術トレンド、だからこそ「立ち返る場所」が必要

――5人交代制や戦術トレンドの変化などに関してはいかがでしたか。

 「もちろん、それによってインテンシティが上がることはわかっていて、槍のようなプレースタイルの選手が多くなった方がいいのかなというのは、われわれの議論の中でもありました。守備が疲弊することも目に見えてわかっていたし。とはいえ、それだけに特化した何かを特段やったかと言われたら、そこまではやっていないですかね」

――今、戦術の潮流が変化して2年くらい。今季のチームを見ていると、まだ大分がどのようにそこに対応していくかが固まり切れていないようにも感じられたのですが。

 「もちろん、それを体現できる選手が揃えばそういうサッカーをやりたいんですよ。とはいえ、いろんなキャラクターやレベルの選手がいる中で、その現実と理想として目指すもののどこに着地点を定めるかということが大事ですよね。その最適解を見出せないままで今シーズンは終わってしまったという印象です。

 戦術トレンド的な部分で僕が一番問題視しているのは、縦に速いというよりも、相手が前から守備をハメてくるという部分。そこが、今まで大分がやってきたことに対するネガティブな状況を招く要素ですからね。後ろからビルドアップする、ボールを大事にするサッカーをやってきた中で、相手は同数でも構わず前からハメてくるので、位置的ミスマッチを作りづらくなっている。そこが一番のポイントだと僕は思っています。縦の速さが流行ったというよりも、ハイプレスをするチームが増えたことの方に、影響を受けているんですよね。大分が今まで培ってきた長所を出しづらい状況になっていると思います。

 同数の状況で前線に藤本憲明のような優れた個がいれば、もしかしたらまた違った形になっていたかもしれないけれど、あいにくそういう選手は高額で、今季はそういうFWはいなかった。鮎川峻や屋敷優成はそういう存在になりうる選手ですが、ケガで出遅れたりといろんな状況がありました。なので、ハイプレスへの対策、その逃げ方、ゴールへの進み方が、最後まではっきりしなかったですよね。全体の意思統一の部分。それはとても難しいことなんですけど。選手たちとの面談の中でも、もう少しそこの仕組み作りが欲しかったという意見がありました」

――今、多くのチームがマンツーマン気味のハイプレスを採用している中では、求められるタイプのプレーヤーが限定されてきてしまう可能性があると思います。そうなるとまた獲得への競争が激しくなるのでは。

 「そうですね。ただ、ライン間で受けられるような選手たちが、マンマークされている中でもちょっとタイミングをずらして受けに来るといったプレーがグループとしてハマれば、多分、その方法でも相手は剥がせるんですよ。そういうサッカーの魅力も出していきたいんですよね。そこがサッカーの一番楽しいところだから。

 そういうプレーをできる選手が大分には比較的多いと思うんですけど、出し手と受け手の関係が大事なので、1人だけそれができてもダメで、3人、4人とグループで関わっていくところが大事です。そこが今季の大分は少し弱かったと思っています」

――片野坂監督のサッカー観の変化は感じられましたか。

 「以前のようにシステマティックにやる感じではないなとか、選手に判断させる要素が多くなったなとかいったことは感じました。左右で異なるタイプの選手を配置する傾向もありましたね。左右非対称は世界的にもトレンドになっていますが」

――選手に判断させる中で、チームとしての仕組みを作っていくのは難しいですよね。

 「サッカーは即興性のスポーツであるはずなんだけど、僕はつねづね、個々のレベルに応じて提示するものの匙加減は変えるべきだと思っているんですね。大分の選手に対してはもう少し提示の具体性を高めた方がいいと感じて、シーズン途中にカタさんにもそれを言いました。具体的な提示を増やしてからは選手たちも少しやりやすくなったように見受けられたので、僕ももう少し早い時期からそれを分析して提案できれば良かったなという思いが残っています」

――今季のチームはサッカーIQの高い選手とまだ経験不足で未熟な選手とのギャップが大きかった印象です。

 「J1に昇格する前後は、予算が限られた中でも質の高い選手を多く揃えることができていました。お金の問題で片づけたくはないんですけど、IQも選手の価値で、年俸の評価につながってくる要素の1つなので、やはり予算的なものは絡んできます。ただ、アカデミーでもっとIQの高い選手を育てたいという思いは常にありました」

――西山さんは極力、現場のやり方を尊重していましたよね。

 「基本的に僕はそういうやり方です。戦術論や指導論では彼らは優れたものを持っていますから、戦力と理想の最適解を見つけ出すのは監督の仕事です。だから僕の役割は、立ち返るべき場所をきちんと提示するという作業なんですよね。『この試合は良かったですよね。これを継続していきましょう』と。

 ただ、今季は立ち返ることができるような試合が少なかった。大分トリニータのサッカーとはどんなものなのかがわからないまま終わってしまった1年でした。もちろん相手あってのことなのでアレンジしながらというのはあったんですが、自分たちなりに一本筋の通ったものを作れなかったですね。ハイプレスをベースにしてしまうと、いざ試合でハイプレスができなかったら何もなくなってしまう。多分それはどのチームでも起こりうると思うんですが、ハイプレスがハマらなかったらブロックを構えるしかなくなってしまうから、アレンジも何もない。だからどこをベースに持ってくるかというのが、来季の課題かもしれませんね。……

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Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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