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西山哲平GMが振り返る大分の15年(前編):「志半ば」の真意と、地方クラブが生き残っていくための工夫

2024.12.16

GMが描くJクラブ未来地図#3
西山哲平(前・大分トリニータGM/AC長野パルセイロスポーツダイレクター兼トップチーム強化部長)前編

若手を中心に多くの日本人選手の目が「外」に向き、世界的な移籍金のインフレ傾向に円安も重なり外国籍選手獲得のハードルも上がる――今のJクラブの戦力編成の難易度はかつてないほど高まっており、中長期の明確なクラブ戦略なしでチーム力を維持・向上させていくのは不可能だ。今連載では、そのカギを握る各クラブのGM/強化部長のビジョンに迫りたい。

第3&4回は、15年にわたり大分トリニータの強化に携わり、11月1日にクラブから公式に退任が発表された西山哲平前GM。現役時代、2002年に加入して8シーズンを大分でプレーし引退後の2010年からは社員として強化セクションに所属、2016年からは強化責任者としてクラブの堅実な成長に貢献してきた功労者は、その蓄積されたノウハウに期待され、12月5日付でAC長野パルセイロのスポーツダイレクター兼トップチーム強化部長に就任する。前後編の2回にわたって大分時代に積み上げたものと、それを生かすことになる新天地でのビジョンについて話を聞いた。

15年の挑戦を終え、新天地・長野へ

――大分を離れての新天地は長野に決まりましたね。現在の心境はいかがですか。

 「いろんな経緯があって、この決断になりました。このマーケット上では僕が大分を離れることは想定外だったようなんですが、長野は僕が大分を退任することが発表されると、かなり早い段階で熱烈なオファーをくださったんです。大改革をしたいというクラブの本気の熱量を感じ、またこういう人たちと働きたいと思いました。

 長野というクラブにはポテンシャルを感じます。球技専用スタジアムを早期に建設するなど、ハード面に関して市の協力体制が強固なんです。いろいろと話を聞いていると、やはりオリンピックを経験している街なので、スポーツに高い関心と理解があるんですね。スタジアムもそうだし、クラブハウスも、今は整ってはいないんですが、2027年には完成予定のプロジェクトが動いていて、すでに着工しています。もちろんそこには国体開催の影響もあるんですけどね」

――改革のために呼ばれたということですね。

 「はい。そういう自治体のサポートと両輪で、クラブも経営を改革していくというところなんです。そのために各セクションに相応の人員を揃えるということで、そういうポテンシャルがあるのならば、サッカーのところを整えればもっと上がっていけそうだなと。それで長野に決めました。

 他の選択肢もゼロではなかったんですけど、この、クラブが変革を期しているタイミングでのオファーには、そうそう巡り会えないですからね。決断するまでは長らく待たせてしまいましたが、この御縁に感謝して決めさせていただきました」

AC長野パルセイロのスポーツダイレクター兼トップチーム強化部長に就任した西山前GM(Photo: OITA F.C.)

J3からのスタート。地方クラブ運営の現状

――今日はまず、大分でのお話を伺いたいのですが、西山さんは現役引退後の2010年から大分で強化の仕事に携わって、2016年からは強化セクションの責任者となりました。クラブの事情でというところもあったと思いますが、今その流れを振り返って、いかがですか。

 「2015年、J3降格が決まったシーズンの途中から責任者代理という形になっている時に、なかなかチームが上向いていかないままシーズンが進むにつれて、『やらなきゃいけない状況になるかな……』と覚悟が高まってくる部分がありました」

――大分トリニータはナビスコカップ優勝を遂げた2008年頃に「地方の星」と呼ばれたりもしていました。やはり当時から地方クラブにとっては、首都圏のクラブに比べると強化は難しかったのでしょうか。

 「2009年の経営危機以降は、『地方の星』と言っていただくような存在にはふさわしくなかったかもしれません。ナビスコカップ優勝後にJ2に落ちて、J1昇格プレーオフを制して、また落ちて。そういう中で2015年シーズンも、だいぶ苦しみましたからね。だから強化部長に就任した時点でも、そういう意味での自負のようなものは、あまりなかったです」

2008シーズンにナビスコカップ(現ルヴァンカップ)を制覇して初のメジャータイトルを獲得した大分

――その後、Jリーグの施策もあり、地方クラブ運営は難しさを増したのではないですか。

 「チェアマンが代わってから、より顕著になった印象です。村井チェアマンの時と同じように野々村チェアマンもビジネスとしての観点を重視していますが、より一点豪華主義というか、配分金の変化を見ても、よりビッグクラブ構想の方に舵を切っているのだと感じます。ただ、僕らはそれを不公平と感じるのではなく、より僕らのクラブの色を出していかなくてはならないという捉え方でいますけどね」

――地方の、特にカテゴリーが下位のクラブは概ね資金が潤沢ではない現状があります。そういうクラブが今後この時流において、企業として存続し成長していくためのカギはどういうところにあるでしょうか。

 「Jリーグはクラブが破綻して消滅するようなことのないよう、3期連続赤字の禁止という猶予期間を設定したりもしているので、国内のサッカークラブの経営は非常に健全だと思うんですよね。そういう文化になっていると思います。存続できなくなるという事態はシステム上、あまり起こりにくい環境になっているんですが、そこからどう発展させていくかが大事で、そこにはクラブ独自の工夫が絶対的に必要になってきます。一方で、単純にチーム数が多く、スポンサーや観客の取り合いになってしまうなということも感じますが」

――大分にも3つのサッカークラブがありますが、現在はカテゴリーが違います。栃木や愛媛では来季、同じカテゴリーに2クラブという状態になりますね。

 「そうですね。ですから、より競争原理が働くでしょう。生き残っていくための工夫が必要な時代に入ってきたと感じます。最終的には合併するクラブも出てくるかもしれませんね」

Photo: OITA F.C.

育成型クラブ=アカデミーへの投資が進まないワケ

――「生き残っていくための工夫」という部分で、西山さんが大分で進めようと考えていたのはどういうものでしょうか。退任時のコメントには「志半ば」という言葉もありました。……

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Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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