サウダージの国からボア・ノイチ 〜芸術フットボールと現実の狭間で〜 #11
創造性豊かで美しいブラジルのフットボールに魅せられ、サンパウロへ渡って30年余り。多くの試合を観戦し、選手、監督にインタビューしてきた沢田啓明が、「王国」の今を伝える。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第11回(通算189回)は、2024年のコパ・リベルタドーレス、さらにブラジル全国リーグを制したボタフォゴの軌跡。深刻な財政難に見舞われ、3年前には2部で苦しんでいたリオデジャネイロの古豪は、いかにしてV字回復を遂げたのか。
ポルトガル人監督の手腕と新戦力たちの躍動
近年、低迷を続け、巨額の負債を抱えてクラブ閉鎖の可能性まで囁かれていたリオの古豪ボタフォゴが、今年、「奇跡」を起こした。クラブ史上初の南米王者、そして29年ぶり3度目のブラジル王者に輝いたのである。
2月に開幕したコパ・リベルタドーレスでは、セカンドステージから参加し、1勝1分でグループステージ(GS)進出を果たした。GSは2連敗という最悪のスタートを切りながら、その後の4試合で3勝1分と盛り返して2位で突破。ラウンド16でパルメイラス(ブラジル)を、準々決勝でサンパウロ(ブラジル)を、準決勝でペニャロール(ウルグアイ)を退け、11月30日の決勝でアトレチコ・ミネイロ(ブラジル)と対戦した。
この試合も、一筋縄ではいかなかった。前半2分、ボランチのグレゴーリがラフプレーで一発退場。かつて川崎フロンターレ、コンサドーレ札幌、東京ヴェルディに在籍した元ブラジル代表FWフッキを中心とするアトレチコの怒涛の攻撃を浴びたが、懸命に耐え忍び、35分にカウンターからまさかの先制。44分にはPKを決めて2点をリードする。後半47分に失点を喫し、その後も守勢一方だったが、試合終了間際に勝利を決定づける3点目。選手もサポーターもうれし涙を流した。
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Profile
沢田 啓明
1986年ワールドカップ・メキシコ大会を現地でフル観戦し、人生観が変わる。ブラジルのフットボールに魅せられて1986年末にサンパウロへ渡り、以来、ブラジルと南米のフットボールを見続けている。著書に『マラカナンの悲劇』(新潮社)、『情熱のブラジルサッカー』(平凡社新書)など。