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バイエルン対PSGの超然主義、可変の数合わせ「パズル」の時代から全部マンツーマンの「バトル」の時代へ

2024.12.04

新・戦術リストランテ VOL.44

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第44回は、バイエルン対パリSG、リバプール対マンチェスター・シティで感じた新たな守備戦術の潮流について掘り下げてみたい。可変システムに対してパズルを解くように柔軟に数を合わせていく守り方から、全部マンツーマンで対応して個のバトルに持ち込む守り方へ。エリートレベルの対戦では「片手にロープ&片手にナイフ」(西部氏)というスリリングな攻防が、今後さらに広がっていくのかもしれない。

全部マンマーク作戦=足4の字固め

 日本代表の森保監督と、ビルドアップとハイプレスの可変のやり合いについて話していた時、ふとこう言っていました。

 「いざとなったら全部マンツーマンにしてしまえばいいと思っているので」

 10人が10人をマンマークすれば可変も何もない。さすがは今の日本代表監督だなと思いました。実際、カタールW杯のドイツ戦でそれやって勝っていますしね。でもこれ、なかなか言えないと思います。

 Jリーグでビルドアップの可変が有名になった最初が「ミシャ式」でした。当時は「どうなってるのこれ?」という感じ。そしたら、わりとすぐに対応したのがG大阪でして、全部マンツーマン作戦。結果がどうだったかは覚えていないのですが、可変にどう対応するかでどのチームも悩んでいる中、「マンツーでええやん」みたいなノリは遠藤保仁がいたG大阪らしいなと思ったのは覚えています。

 相手のプレスにはまらないように可変でずらす、それに対してプレス側も形を変えてはめようとする。現代サッカーの序盤に必ずといっていいくらい見られる攻防です。昔みたいに可変されて驚くことはもうないのですが、パズルを解く迅速さは求められています。

 ただ、そうしたパズルの知恵比べから超然としたチームもあるにはあります。

 CLリーグフェーズ第5節、バイエルン対パリ・サンジェルマンは超然主義同士の激突でした。

 たぶん仕掛けたのはパリSGだと思います。バイエルンの[4-2-3-1]に対して、パリSGは[4-1-2-3]のフォーメーション。通常だと、パリSGはCB1人を余らせてマークにつきます。後ろを余らせた分、前は足りなくなるので、CFが相手CB2人を見る形ですね。1人で2人は抑えられないので、機を見てジャンプを仕掛けて同数守備に変えます。インサイドハーフが前進して相手CBにプレスする、あるいはウイングが出てSBとCBが連動して縦方向にマークを受け渡します。

 しかし、パリSGの対応は違っていました。相手のCB2人をそれぞれムバッペとバルコラがプレス、バルコラと対面になるはずのバイエルンの右SBライマーにはパリSGの左SBヌーノ・メンデスがマークしていました。ポジションをずらしながらのジャンプではなく、最初から捕まえていた。つまり、全部マンマーク作戦です(図1)。……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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