鹿島戦を教訓に上海海港戦は前半で3発。マスカット監督も認めた鬼木達監督が川崎Fに残していく遺産とは
フロンターレ最前線#10
「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達監督の下で粘り強く戦い、再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。
第10回は、今季限りでの退任が発表された鬼木達監督が残していく遺産を11月の2試合、鹿島アントラーズ戦と上海海港戦の舞台裏から考える。
クラブから今季限りで鬼木達監督が退任されることが発表されたのは、10月16日のことだ。3日前にルヴァンカップ準決勝で敗退しており、2024シーズンの国内タイトル無冠で幕を閉じることが決まったタイミングでのリリースだった。
川崎フロンターレを8年にわたって率いた指揮官とともに戦える期間は、この時点で残り約2カ月となっていた。その後のホームゲームでは鬼木監督の弾幕が毎試合掲げられている。麻生グラウンドの公開練習後には、ファンサービスを求めて毎回長蛇の列ができ、サポーターが感謝の言葉を伝えているのもお馴染みの光景となっている。
別れが近づいている中、11月の公式戦は6試合が組まれていた。雷雨でハーフタイムに中止となったJ1第28節の浦和レッズ戦という後半の45分のみを実施する変則的な一戦もあったが、現在までに5試合を消化し成績は2勝2分1敗だ。
前日会見から試合後まで。マスカット監督が払い続けた敬意
とりわけ印象的だった光景がある。5日のACLエリート・上海海港戦だ。試合は3-1で川崎フロンターレが勝利した。
タイムアップの笛が吹かれて、決着がついた後のこと。選手たちはセンターサークルで整列し、挨拶を交わしていた。そして両ベンチからも監督が出てきて、互いに軽く挨拶を交わす。通常は軽い握手で切り上げるが、顔馴染みの際は少し話し込むような光景も珍しくない。
上海海港の指揮官は、ケヴィン・マスカット監督だった。日本のサッカーファンにもお馴染みだろう。J1リーグの舞台では、鬼木フロンターレと激しい優勝争いを繰り広げた指揮官でもある。2021年夏に横浜F・マリノスの監督に就任すると、川崎フロンターレとデッドヒートを演じた末に2位に。翌年は最終節で優勝を果たし、川崎フロンターレの3連覇を阻んでいる。2023年は再び2位で退任。今年から上海海港を率いて中国スーパーリーグ制覇を成し遂げていた。
Jリーグ時代はそんなライバル関係にあった敵将だが、試合を終えて鬼木監督に歩み寄ると、2人はその場で長く話し込んでいたのである。マスカット監督の表情を見る限り、鬼木監督を強く祝福しているようにも見えた。日頃から交流があるわけではないと思っていただけに、この光景がとても印象的だったのだ。
試合翌日、麻生グラウンドでの公開練習があったので、何を話していたのかを鬼木監督に尋ねてみることにした。お互いの功績を称え合ったのだと、指揮官は笑顔で明かしてくれた。……
Profile
いしかわごう
北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago