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“ハワスタ”の収容率はJ2トップの85%。いわきFCが「熱狂空間」を作り上げるまでの経緯と戦略とは?

2024.11.30

いわきグローイングストーリー第2回

Jリーグの新興クラブ、いわきFCの成長が目覚ましい。矜持とする“魂の息吹くフットボール”が選手やクラブを成長させ、情熱的に地域をも巻き込んでいくホットな今を、若きライター柿崎優成が体当たりで伝える。

第2回は、チームがJ2で躍進する流れとともに“ハワスタ”が満員になっていく光景について。いわきFCのマーケティング&ファンエンゲージメントシニアマネージャーの川﨑渉氏による現状分析に耳を傾けつつ、今をレポートする。

今季は“ほぼ満員”を何度も記録

 J2リーグ2年目を終えたいわきFC。リーグの成績は去年の18位から大きく順位を上げて9位だった。得点53(前年は45)、失点41(前年は69)と去年と様変わりした。こうした目に見える成長はピッチ上で見せる選手たちの姿だけではない。

 今シーズン、いわきFCはホーム戦の総来場者数が81,516人と去年の73,306人に対して8,210人も増えた。ホームスタジアムであるハワイアンズスタジアムいわき(以下、ハワスタ)の収容人数は5,066人とJ2全体でもっとも少ない。水戸ホーリーホックやベガルタ仙台、モンテディオ山形といった隣県のチーム、あるいは、多くのサポーターを持つジェフユナイテッド千葉、清水エスパルスなどアウェイでも千人単位で来襲するような相手との試合となれば、ホームゲームのチケットは早々に完売してプラチナ化しやすい。

 ハワスタはJリーグ参入時、J3リーグを戦う条件を満たしておらず、J3リーグを戦った2022年シーズンはハワスタから北へ約40kmの場所にあるJヴィレッジスタジアムをメイン会場としていた。同時進行でクラブがJ2以上のステージで戦うことを想定し、急ピッチで改修工事を進めていた。元々はなかった大型ビジョンや照明の設置、そしてメインスタンドとバックスタンドの一部を除いて芝生席だったゴール裏やバックスタンドの座席の増設。クラブの急速な成長を妨げないために行政の協力のもと今日のハワスタは出来上がった。去年、大きな問題として取り沙汰された通信環境問題もいわき市と各携帯キャリアの協力で解消された。クラブにはサポーターの意見を敏感に聞き取ろうとする姿勢があり、改善できるものについて少しでも快適性を上げていこうとする環境作りに余念がない。

 ハワスタは近年増えてきた新鋭のスタジアムとは異なり、こじんまりとしたスタジアムだ。ピッチとの距離が非常に近く、試合を近くで見られる臨場感と高揚感に魅力を感じ、また行きたいと思わせるハード面の特徴があり、いわきFCが志向する前へのアクションが多いサッカーとがリンクする。それらが、いわきFCが目指す「熱狂空間の創出」に繋がり、小さい箱だからこそ成せる技として着実に形になってきている。同じ4000人の空間だとしても、ピッチとの距離感によって人の捉え方や印象はまるで変わる。ホーム最終戦セレモニーの挨拶では大倉智代表取締役が「ハワスタの雰囲気って良いよね」と相手チームの関係者との会話で言われることがあると明かしている。

 その熱狂空間が出来上がった事例として挙げたいのが、去年、今年とハワスタが満杯になったケースだ。最初の満員の事例は、去年の第28節・ジュビロ磐田戦で5,039人を記録(のちにホーム最終戦の第41節・山形戦で5,044人を記録する)。当時はまず季節が夏休み期間だったこと、7月に連続した残留争いの直接対決で勝ち点を取り続けたこと、J3降格圏を脱出したことなど、いわきFCらしさが回帰してきたタイミングが重なり、迎えた強豪相手との試合で注目度がもっとも高いタイミングでもあった。その後のホームゲームでは負ける試合もあったものの、来場者数は右肩上がりに伸びていった。去年の春先は観客動員が2,000人台から抜け出すことができなかったが、夏を境に2倍近い来場者数になっていた。そのうねりは決して一過性のものにはならず、今年は一試合あたりの平均入場者数が4,290人を記録。着実にファン・サポーターが増えていることが目に見えてわかる。

 今季はホームゲームの事前に完売した回数が5回を記録している。第33節・栃木SC戦では最多来場者数5,056人と記録を更新。開幕当初は来場可能人数が5,048人だったが、バックスタンドの一部改修や運用ルールに沿ってカウントし直し、Jリーグへ再度申請し直したことで来場可能人数を5,066人に増やすことができた。

 先述したように、1試合あたりの平均来場者数は4,290人を記録しており、スタジアムのキャパシティーこそJ2でもっとも少ないが、その収容率は85%と清水エスパルスのIAI日本平スタジアムを差し置いてJ2トップの数字を達成している。

チーム戦績とともに増えたSNS上のポジティブな発信

 どのようにファン・サポーターは増えたのか。

 いわきFCのマーケティング&ファンエンゲージメントシニアマネージャーの川﨑渉氏はこう話す。……

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Profile

柿崎 優成

1996年11月29日生まれ。サッカーの出会いは2005年ドイツW杯最終予選ホーム北朝鮮戦。試合終了間際に得点した大黒将志に目を奪われて当時大阪在住だったことからガンバ大阪のサポーターになる。2022年からサッカー専門新聞エル・ゴラッソいわきFCの番記者になって未来の名プレーヤーの成長を見届けている。

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