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ビッグスワンに舞い降りた「進撃の現役大学生」。アルビレックス新潟・稲村隼翔が描く驚異的な成長曲線

2024.11.26

大白鳥のロンド 第17回

現役大学生の進撃が止まらない。アルビレックス新潟に正式加入するのは来季からだが、既にJリーグの公式戦で貴重な経験を積み重ねている東洋大学4年生・稲村隼翔の存在は、多くのサッカーファンの注目を集めている。クラブ史に刻まれたルヴァンカップ決勝の舞台にも立ち、堂々と立ち振る舞った長身レフティは、果たしてどういうキャリアを踏んで、今のステージへたどり着いたのか。大学の恩師の言葉も交えて、野本桂子が稲村の実像に迫る。

残留争い直接対決で見せた圧巻のパフォーマンス

 0−1で迎えた90+4分。稲村隼翔の縦パスが、同点ゴールへの道を切り開いた。敵陣左サイドでボールを持つと、相手ボランチ2人の間に顔を出した奥村仁と目が合う。

 「あそこだけは神経を研ぎ澄ませて、『仁、止めろ!』って感じで、出しました」(稲村)

 丁寧に左足で通したグラウンダーのパスは、狙い通りに奥村が止めてターン。そこから長谷川元希、星雄次、橋本健人、小見洋太を経由して、藤原奏哉のゴールに繋がった。

 「100%、狙い通りでした。日頃の仲のよさは、ピッチにも出ると思う」。稲村は1つ年上の親友とのホットラインで結果が生まれたことに、うれしそうに微笑んだ。

 明治安田生命J1リーグ第36節・柏レイソル対アルビレックス新潟。勝点1差で16位の新潟と17位の柏が、三協フロンテア柏スタジアムでぶつかりあった。74分、セットプレーから細谷真大に先制されると、柏が築く堅いブロックに苦戦した。しかしこの日、舞行龍ジェームズとともにCBでコンビを組んだ稲村は「柏はコンパクトで堅いからこそ、強引にでも縦パスを入れないと、崩れないと思っていました。前線には、それを止められるだけの選手がいるので、信頼の上で出していました」と縦パスを送り続けた。それが最後に実を結んだかたちだ。順位の入れ替わりを阻止する、大事な勝点1となった。

 伏線として、この日は左サイドで攻撃を組み立てる回数が多かったことも生きてきた。

 「それまでは、左サイドバックの(橋本)健人くんにパスを出し続けていたので、相手は外につられたのかなって。あのときだけは中に出したので、得点に繋がったのかなと思います」(稲村)

 また守備面では、CKからワンチャンスを決められたものの、流れの中では地上戦でも空中戦でも、細谷とのマッチアップに完勝した。また、同サイドで、橋本と連係しながら駆け引きを繰り広げた関根大輝にも、決定的な仕事をさせなかった。稲村にとって、日本代表クラスの選手とのバトルは、「自分がどれだけやれるかが楽しみ」と燃える要素の一つ。この日の結果には、手応えをつかめた部分もあったようだ。

 プロ入りをかなえ、次なる目標はサッカー日本代表。「試合に出ないと見てもらえないし、成長もできない。そのための1試合だし、そこに出るための練習だと思っている」と、今は1日たりとも無駄にすることなく、努力を続けている。

 大学生のうちに、そうしたレベルの選手たちと実際に相まみえていることで、自身の実力を客観的に測れるようになったことは大きい。「代表戦を見ていて、自分はまだまだそのレベルじゃないと思うんですけど、『俺でもいいんじゃない?』という思いも、あったりはします。左利きのCBもなかなかいないですし、フィジカルさえつけば、イケると思っています」。現在182cm、70kg。22歳の稲村は、心身ともに成長の真っ只中にいる。

コロナ禍が直撃した高校時代。転機はCBへのコンバートだった

 2002年5月6日、東京都で生まれた稲村は、FC東京U-15深川、前橋育英高を経て東洋大へ進み、現在4年生。3年生だった昨季のうちに新潟への加入内定が決まり、JFA・Jリーグ特別指定選手として認定された。

 新潟の松橋力蔵監督が「左足のフィードの力、ドライブの能力、ボールをつける判断。そういう能力は非常に高い選手だと思っている」と評価する、左利きのCB。ビルドアップに長けているが、前線にピンポイントで届けられる高速ロングフィードが武器だ。矢のように鋭く、正確に放たれるサイドチェンジのパスは、スタンドから見守るサポーターのハートを射抜きながら、逆サイドのアタッカーに届いているに違いない。

 前橋育英高でも先輩にあたる2歳上の秋山裕紀は、稲村についてこう話す。「高校の時から、ポテンシャルは少なからずありましたし、左足のキックは彼の武器ではあったんで。大学であそこまで伸びるとは思っていなかったですけど、プロになりたい思いが人一倍強かったからこそ、大学で努力した成果だと思います。ちょっと海外チックなCBですよね。内転筋が強くて、縦パスをバーンって刺せる」と言う。

 そのことを稲村に伝えてみると「内転筋がすごいのか、足が長いのか。遠心力みたいな。へへへ」と、謙遜なのか自慢なのか、無邪気な様子であるが、プロ入りを掴むまで、決して順調だったわけではない。

……

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Profile

野本 桂子

新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。24年4月からクラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。

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