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首位だった広島が不可解な3連敗。当事者たちに聞く「プレッシャー」の正体とは?

2024.11.22

サンフレッチェ情熱記 第18回

1995年からサンフレッチェ広島の取材を開始し、以来欠かさず練習場とスタジアムに足を運び、クラブへ愛と情熱を注ぎ続けた中野和也が、チームと監督、選手、フロントの知られざる物語を解き明かす。第18回は、好調だったチームが湘南、京都、浦和に3連敗を喫した理由について考えてみたい。チャンスは作っていて内容も悪くない、でも勝てない。やはり原因は、優勝争いの「プレッシャー」なのだろうか――当事者たちに聞いてみた。

昨年の「3連敗」とは違う不可解さ

 意味がわからない敗戦が、広島を悩ませている。

 10月19日の湘南戦、中野就斗の強烈なシュートで先制しただけでなく、ほぼ相手を自陣にすら侵入させない前半を過ごしていたのにアディショナルタイム、最初のCKでネットを揺らされた。VARで救われたにもかかわらず、切り替えができない。そして後半開始早々に追いつかれてしまう。

 この試合の前日に神戸がFC東京に敗れたため、広島は勝てば2位に勝ち点4差をつけられる。そうなれば優勝争いで大きく優位に立てるため、選手たちは勝利を目指して前に出た。冷静に考えれば、勝ち点1でも差を広げることには変わりはない。勝利がベストだが、引き分けでも悪くはなかったのに、チームは何かにとりつかれたかのように攻撃を繰り返した。

 確かにチャンスもあった。だが、焦りからボールロストも多くなってしまい、湘南の武器であるカウンターが火を噴く。そして90+2分、広島の右サイドをえぐられてバイタルエリアのスペースを広げられ、田中聡に決められてしまった。

 12試合ぶりの敗戦後となった京都戦でも、試合の入りでは相手を圧倒。ゴンサロ・パシエンシアが何度か決定機を迎えたが、ことごとく京都GK太田岳志のビッグセーブに阻まれる。一方、京都のカウンターも大迫敬介が再三のピッグセーブで防いだが、62分に左サイドを崩され、またしてもバイタルを使われて失点。ゴール期待値では2点近くを叩き出したが第4節神戸戦以来の無得点試合となってしまった。

 そしてACL2のシドニー遠征から帰国して中2日で迎えた浦和戦もまた、開始早々から広島の一方的な展開。しかし、数々のチャンスを決めきれないでいると、45分にカウンターから松尾佑介にゴールネットを揺らされた。後半、前に出ようとするところをことごとく浦和の守備に止められてカウンターを浴び続け、失点を重ねてしまう。シュート23本、CK13本という数字を叩き出しながら2試合連続の無得点、今季初の3連敗を記録してしまった。3連敗は昨年6月11日の川崎F戦〜7月1日の新潟戦以来。2試合連続無得点も、この時の3試合連続無得点以来となる屈辱である。

 ただ、この時と今とでは、状況が違う。当時は満田誠やピエロス・ソティリウ、塩谷司といった主力が長期離脱中。さらに多くの選手たちが体調不良に襲われ、チーム構成すらままならない状況だった。実際、ゴール期待値は最高で横浜FM戦の1.51。川崎F戦では0点台に終わっている。

 今のチームでの長期離脱は山﨑大地だけ。ゴール期待値は京都戦では1.98、浦和戦では3点を超える数字を記録している。1.07という数値に終わった湘南戦にしてみてもシュート数では15対8と相手を圧倒。デジタルな数字だけでなく、アナログな感覚としても、負けるべき試合内容ではなかった。

 「広島対策が奏功した」という見方も確かにある。しかし、広島側の視点からすれば、納得いかない敗戦ばかりだ。

 昨年の3連敗は、内容でも相手に上回られた。だが、今年は違う。失点の多くは「やらずもがな」であり、ゴールネットを揺らすチャンスは何度もあった。3試合で1得点6失点というスコアは、内容と合致しない。

 なぜ、こうなったか。

 8月〜9月にかけて猛威を振るったトルガイ・アルスランが研究されていることは、間違いない。だが、彼は得点こそ9月22日の横浜FM戦(2得点)以降は止まっているが、質の高いパスでチャンスをつくり続けている。浦和戦の後半、加藤陸次樹に出したスルーパスは絶品で、ゴールになってもおかしくなかった。

 「浦和戦はシドニー帰りの長距離移動が敗因では」という向きもある。影響はゼロとは言えないが、それが敗戦の主たる要因であれば、ゴール期待値3点超えという数字は出てこない。

やはり原因は優勝争いのプレッシャー?

 どうしてか。なぜなのか。

 考えを進めるとどうしても、「プレッシャー」の存在に行き着く。

 連覇を果たした2012年も2013年も、第32節、残り3試合という状況(今季の浦和戦と同じ状況)で完敗を喫した。2012年は2位仙台に勝ち点1差に迫られ、2013年は首位横浜FMとの差を勝ち点5に広げられた。ただ、この2シーズンについてはここから広島が反発心を見せて連勝。仙台は残留を争っていた新潟に敗戦し、最終節もFC東京に敗れた。横浜FMは2試合で1勝すれば優勝だったのに、新潟と川崎Fに連敗。彼らにとってシーズン唯一の連敗が、最終局面に出てしまった。

 今の広島は、当時の仙台や横浜FMのように、チャンスをつくっても得点できない状況に陥っている。一歩の出足が遅くなって、チャンスを無駄にする。ゴール前でアイディアが出せない。生真面目なプレーに終始し、相手を驚かせることができていない。

Photo: Kayo Nakano

 ただ、それを「プレッシャー」と片付けていいのだろうか。繰り返すが、3試合とも内容では上回っていたのである。プレッシャーがかかった状態で、そういうサッカーができるのか。

 そこはもう、見ているだけではわからない。そして実は、やっている方にも本当のところはわからないものだ。自分では行っているつもりでも、実は行けていない。そういう現象に、自覚症状がないことは多い。

塩谷「首位に立った時から何か違う感じはする」

 だが、いずれにしても、聞いてみないとわからない。

 塩谷司に、まず聞いてみた。……

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Profile

中野 和也

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルート・株式会社中四国リクルート企画で各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年からサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するレポート・コラムなどを執筆した。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。以来10余年にわたって同誌の編集長を務め続けている。著書に『サンフレッチェ情熱史』、『戦う、勝つ、生きる』(小社刊)。

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