ナポリ型からインテル型へ。スパレッティのイタリア代表で適材適所の[3-5-1-1]が噛み合った理由
CALCIOおもてうら#31
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、EUROでのベスト8敗退後、UEFAネーションズリーグで復活への道を歩み始めたスパレッティのイタリア代表。ナポリ型の[4-3-3]からインテル型の[3-5-1-1]への移行でチームが躍動し始めた理由、そして代表チームにおける「監督×選手」の新しい関係性について考えてみたい。
さる11月17日に行なわれたUEFAネーションズリーグ(UNL)第6節、ルチャーノ・スパレッティ監督率いるイタリア代表は、ミラノのスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァに迎えたフランスに1-3で敗れ、4勝1分1敗(勝ち点13)という最終成績でグループステージを終えた。
これでフランスに勝ち点で並ばれ、得失点差1の違いでグループ首位の座を明け渡すことになったとはいえ、先週木曜日のベルギー戦勝利(1-0)でベスト8進出は確定済み。EURO2024での迷走ぶりを考えれば、そこから短期間でチームを立て直してW杯予選への道筋をつけたというだけで、収支は明らかにプラスと言うことができるだろう。
スパレッティの後悔
一度も説得力のある戦いを見せられないまま、準々決勝でスイスに手も足も出ない完敗を喫してEURO2024の舞台を去ったのが6月末のこと。スパレッティはこのスイス戦での敗北について「何度も深く考えさせられた。私のやり方にいくつかの過ちがあったと認めざるを得ない。その責任と教訓を今後も背負っていくつもりだ」と一度ならず語ってきた。そして夏のオフシーズンを経た9月、UNLに臨むにあたって、EUROの反省を踏まえた大きな方針転換に踏み切った。それが3バックへのシステム固定による戦術の簡素化だった。
2023年夏の代表監督就任からEUROまでの1年間、スパレッティは自らが率いて22-23シーズンのナポリに歴史的なスクデットをもたらした、守備時4バック、攻撃時3バックの可変システムの導入を目論んできた。しかし、現在のセリエAでは主流とは言えない上に、可変のメカニズムやポジションバランスなどの面で難易度が高く、浸透・定着に時間を要するこの戦術を、年に数回の招集機会しかない代表に適用するのは、まったく簡単ではなかった。チームの主力を占めるインテルやユベントスの選手たちが、普段は原則レベルから明らかに異なる戦術で戦っていたのだからなおさらである。
それと比べれば、このUNLで本格導入された3バックは、インテル、アタランタをはじめ昨シーズンまでのユベントスやローマなどが採用しており、多くの選手にとって馴染みがあるシステムだ。すでにEUROの期間中に、チームの内部でそれを望む声が出ていたという報道があったことを考えれば、この転換をチームがポジティブに受け容れたであろうことは容易に想像がつく。この転換を通じてスパレッティは、EUROの時点では明らかに不十分だったチームとの信頼関係、そして共犯関係の確立に成功した、と言うこともできるだろう。
EUROからの3つの変化
実際、UNLでのイタリアの戦いぶりは、EUROと比べれば見違えるようなものだった。
9月の開幕戦でフランスにアウェーで1-3の勝利を挙げると、格下イスラエルには2-1、4-1で2勝、ベルギーに対しても1勝1分。そのうち10月の引き分けは、最初の30分で2-0と相手を圧倒しながら、前半終了間際に不用意なファウルでペッレグリーニが一発退場となり、残り時間を10人で戦う中でセットプレーから2点を許したもの。さらに1-3で敗れた最終節のフランス戦も、内容的には互角ながらセットプレーから3点を喫したものだった。
UNLを通して固まった基本布陣([3-5-1-1])は次のような構成だ。……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。