ナーゲルスマンの新生ドイツ代表は「最先端」の詰め合わせ。バルサに似た「中央オーバーロード」と伝統の「高さ」が融合
新・戦術リストランテ VOL.42
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第42回は、EURO2024に引き続きユリアン・ナーゲルスマンが指揮を執るドイツ代表。クロースの引退でどうなるか心配されたが、「むしろより強化された」(西部)新チームの戦術はまさに「最先端」の詰め合わせパックだ。ぜひご賞味あれ。
UEFAネーションズリーグのグループステージ、ドイツ代表がボスニア・ヘルツェゴビナ代表に7-0と圧勝しております。先発を9人入れ替えた最終節のハンガリー戦は1-1で引き分けましたが、グループA3を無敗で突破しています。
EURO2024では準々決勝でスペインに敗れましたが、ドイツは大会のベストチームの1つだったと思います。この大会を最後にトニ・クロース、トーマス・ミュラー、マヌエル・ノイアー、イルカイ・ギュンドアンが引退しましたが強さは維持されています。むしろ、より強化されたかもしれません。
新生ドイツは現代サッカーにおける1つの模範解答といった趣になっております。フリック監督の率いるバルセロナと類似点が多く、最先端のドイツの考え方がたぶんこうなんだろうなという気がしました。
ボスニア・ヘルツェゴビナ戦のメンバーはGKバウマン、DFは右からキミッヒ、リュディガー、ター、ミッテルシュテットの4バックでしたが、攻守で可変します。2ボランチにアンドリッヒとグロス。2列目はビルツ、ハベルツ、ムシアラ。そして1トップにクラインディーンストの[4-2-3-1]です。
攻撃は可変して3バックになります。アンドリッヒかグロスがCBの間に下りる形。SBは高い位置を取ってウイング化します。クロースの抜けた影響がどうなるかと思っていましたが、クロースの変幻自在はないかわりに機械的な可変で、この試合は特に問題なし。下りるボランチはほぼアンドリッヒでした。
とはいえ、ボスニア・ヘルツェゴビナも統制の取れたハイプレスをするので、型通りのビルドアップが詰まりそうになることもあったのですが、そこでロングボール収容役としてのハベルツが効いていました。左足で右から左へ一発で変えられるキミッヒの存在もあった。ロングボール収容要員と逆足SBはビルドアップの必需品になりつつあります。
EUROで1トップだったハベルツがトップ下に移動してギュンドアンが抜けた穴を埋めたわけですが、ハベルツのトップ下は新しい意味を加えています。それにともなってクラインディーンストをトップに据えた。これも意味がありますね。
中央の高さでサイドの迫力不足を補完
中間ポジションのオーバーロード(人数集中)はEUROの時と同じです。ビルツ、ムシアラが中へ入ってきてトップ下が3人いる形。これはバルセロナとの類似点です。
ボール保持派にとって、中間ポジションを経由する攻撃は重要なルートでした。かつては[4-4]の守備ブロックで形成される3つの四角形の中心点にパスを入れるという言い方もされていました。しかし近年、中間ポジション経由の攻撃は威力が半減しつつあります。
CBが前進してぶっ潰す守り方が標準化したからだと思います。ファウルでもいいという割り切り方で体を止めにくるので、技巧派のトップ下やインサイドハーフでもボールを失うかファウルで止められるかになるので、有効性が減ってしまったわけです。
そこで対抗策として出てきたのが複数のトップ下を中央へ集めるオーバーロード作戦です。複数の受け手が出入りすることで、相手CBの標的になりにくくする。バルセロナはトップ下、左ウイングの第二トップ下(ラフィーニャ)、ボランチが上がっての第三トップ下という構成ですが、ドイツはトップ下+両サイドハーフ。移動させるポジションは違いますが狙いは同じです。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。