REGULAR

大宮を買収したRBグループが推進する「メンタル革命」。シャビ・シモンズの覚醒を助けた思考のコントロールとは?

2024.11.19

TACTICAL FRONTIER~進化型サッカー評論~#10

『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。

第10回は、大宮アルディージャの経営権を取得したことでも話題のRBグループが推進する「メンタル革命」を紹介。彼らのフィロソフィである「限界を超える」ためには、脳へのアプローチは避けては通れないものなのかもしれない。

MCOがシェアするRBグループの知見

 「我々は、アジアにクラブを保有することになったことを喜ばしく思っている。戦略的に重要な地域へと拡大することは、1つの目標だった」 

 英メディア『SportsPro』でオリバー・ミンツラフCEOがこう述べているように、レッドブル・グループは大宮アルディージャ(来季よりRB大宮アルディージャ)を手中に収めることで1つのステップを踏んだ。スノーボードやスケートボードを中心にレッドブルと契約しているアスリートも少なくない日本は、彼らにとっては知り尽くした地だろう。そしてMCO(マルチクラブ・オーナーシップ)として有名なレッドブル・グループに加入することで、大宮アルディージャにも多大なメリットがあるはずだ。

 MCOに加わることで、特にメリットとされるのがデータを含めた知見のシェアだ。レッドブル・グループはゲームモデルの統一でも知られ、指導者や選手のような人的リソースもグループ内でシェアしようとしている。激しく前線からプレッシングを仕掛けるスタイルを継続する彼らは、ユルゲン・クロップをグループに加えたことでも人々を驚かせた。今回は大宮アルディージャにもシェアされるかもしれない、「レッドブル」のメンタルに対するアプローチを紹介してみたい。

「限界を超える」ために優秀な心理学者を結集

 F1ドライバーの角田裕毅はレッドブルのBチームに所属しているが、精神面に課題を抱えていたとみなされていた。2022年には感情をコントロールしきれずに爆発させてしまい、「問題児」と呼ばれたこともあった。そんな彼のメンタルコンディションを整えるために、レッドブルは心理学者を派遣することを選んだ。F1のようなモータースポーツでも心理面のコントロールは鍵になると考えられており、実際に彼はシーズンを重ねる中でメンタル面の改善に成功したという。

 このように心理学者を雇うアプローチは、アスリートのパフォーマンスを科学的に最適化することを狙うレッドブルの特徴だ。ブランドン・バルジャロは南アフリカ出身のスケートボーダーだが、心理学者のアイリーン・オヤンとのセッションで大会の準備を進めていた。アメリカのデンバー大学でスポーツ心理学の博士課程を修了し、スポーツ選手のカウンセリングを専門としていた彼女は、2022年にレッドブルに加入している。優秀な人材を獲得することに定評があるレッドブルは、他にもアイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリンで博士課程を修了したケイト・オキーフを2023年に雇用。彼女の研究は「極限環境での心理的ストレス」に着目したものであり、まさに「限界を超える」ことに挑むレッドブルのアスリートには有用なものだろう。……

残り:2,045文字/全文:3,603文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

RANKING